第15話「この三時間は誰も、誰かを陥れるようなことはしない」

 佐野の犠牲と共に、マコたちの行動範囲は広がった。

 廊下の奥にあった扉の鍵が開けられ、宿泊エリアが解放されたのである。ベッドとタンスとソファーがあるだけの小さな部屋ではあるが、一人一室あてがうことができるだけ部屋数はあった。


 此処に閉じ込められてからろくに休む時間も取れず、マコたちの疲労はピークに達していた。命の危険と隣合わせの状況で四六時中神経を張り巡らせなければならない──しかも、佐野の一件で精神的なダメージも大きかった。

「なぁ……みんなに提案があるのだが、聞いてもらえないだろうか」

 そんな一同の疲労感を察した足達が声を上げると、視線が集まった。

「三時間ばかりは、各々、自由時間として使えるようにしないか? 少しは体を休めることも……気持ちを整理する時間も必要だろうからな」

「でも、その間に誰かが誰かを貶めるようなことをするかもしれませんよ?」

 清澄はケラケラと笑い、眼鏡の男に視線を送った。

 茶化したつもりだろう。足達は首を振るった。

「だから、みんなに約束して貰いたい。この三時間は誰も、誰かを陥れるようなことはしない、と……」

「守られるといいですけどねぇ」

 不安を煽るように清澄が言う。

「分かりました!」

 ところが、マコは平然と声を上げた。

「約束は守りましょう! 私も、足達教官の考えに賛成です!」

「うん。私もよ」

 次に声を上げたのは、綾咲であった。

「マコがそうするのなら、私もそれに従うわ」

「ありがとう。綾咲ちゃん!」

 マコは綾咲にお礼を言って、ニコリと微笑んだ。

「僕も、足達教官に賛成です」と、間石も追随する。


 賛同の声を上げてくれたマコたちを見て、足達は満足気だ。残る眼鏡の男と清澄に顔を向ける。

「さて、残るは君たちだけだが……?」

「わ、わかりましたよ。俺も休みたいですからね……」

 眼鏡の男がプイッとそっぽを向きながら答えた。

「……なら、僕もそれで構いませんよ」

 案外アッサリと清澄も首を縦に振るった。──しかし、何事か悪巧みを考えているようで口元を歪めていた。

 表面上は協力的な体裁を取り繕ったのであろう。

──まぁ、それでも良い。満場一致であることには変わりなかった。


 実際のところ、あちら側からのアクションも今のところ何もないので待つ他ない。閉じ込められた身分であるマコたちにしてみれば、次に何らかの事を起こるまでどちらにせよやることなどなかったのである。


 こうして、足達の勧めで各自に三時間程ばかり自由時間が与えられた。部屋を割り振り、それぞれが好き勝手に羽を休めることになったのであった。

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