第14話「これで、みんなもやりやすくなっただろう」

 マコは恐怖心からブルブルと体を震わせていた。

 目の前で──モニター越しではあるが、佐野が残虐な方法で殺されてしまった。そんな凄惨な映像を見せられたショックは大きかった。

「う、嘘だろ、おい……」

 中でも一番ショックを受けていたのは、きっかけを作った眼鏡の男であった。自分が招いたこととはいえ、まさか佐野がこうも酷い仕打ちを受けるなどとは思いもしなかったのだろう。

「た、確かめるつもりだったんだ……。まさか、こんなことになるなんて……そんな……」

 まるで自分のことを正当化でもするかの如く、眼鏡の男は言い聞かせるように呟いた。


「格好が悪いねぇ〜」

 そんな眼鏡の男の醜態を晒した姿に、ケラケラと嘲笑う声が上がる。

 眼鏡の男が髪を逆立て、キッと睨みを利かせると壁に凭れて座っていた細目の男が鼻を鳴らした。

「その言葉は誰に対して言っているものなのさ? 僕らが君を責めるわけがないじゃないか。死んでしまった佐野君に配慮する必要もないし、これ以上彼のためにしてやれることだってないじゃない。……それよりも、生きる僕らに道を切り開いてくれた君に、僕らは感謝の言葉を述べるべきだと思うんだけれどね」

「清澄君……」

 眼鏡の男は精神的にまいっていたようで、清澄の優しい言葉にほんのりと目に涙を浮かべたものである。

──しかし、当然清澄の意見に賛同する者は誰も居ない。冷ややかな目が清澄に向けられるが、そんな非難の目にも動じず清澄は肩を竦める。

「だってそうだろう? 眼鏡の奴がやってくれなかったら、じゃあ誰が佐野君を蹴落とすことができたというのさ?」

「蹴落とすだなんて、そんな……」

「偽善者ぶるなよ!」

 口を挟んで来た間石に対し、清澄は声を張り上げた。

「ここから出るには、自分以外を蹴落とさなきゃいけないんだぞ! いつまでも此処に居たいのか? 居たいのなら、勝手に居てくれ。眼鏡の奴が均衡を破ってくれたんだ。体を張ってくれた眼鏡にも、犠牲になってくれた佐野くんにも僕は感謝するべきだと思うけどね」

 熱演する清澄だが、賛同の声は上がらなかった。

 残念そうにフゥと息を吐き、清澄は眼鏡の男に視線を送った。

「ねぇ、君には僕の言っていることの意味が分かるだろう?」

「え、あ……まぁな……」

 肩を持ってもらったが、眼鏡の男は清澄の言葉を理解していないようで取り敢えず話を合わせるように相槌を返していた。

「口火を切ってくれた眼鏡には拍手を送ってあげないとね。禁忌に手を出してくれたんだ。これで、みんなもやりやすくなっただろう」

「やりやすくって……?」

「他人を陥れることを、さ。ここから出るためには自分以外を罪深き者として奴らに突き出さなきゃいけないんだからさ」

「そ、そんなこと、できるわけがないだろう!」

「じゃあ、さぁ……」と躊躇の声を上げる間石に、清澄はヌッと顔を近付けた。

「佐野君を陥れたこの眼鏡に制裁を加えるっていうならどうだい? 彼のせいで、佐野君はあんな悲惨な目に合わされたんだよ」

 ニタニタと清澄は煽るように笑った。

 間石だけではなく、誰しもの頭の中に佐野が処刑と称してバラバラにされたシーンが浮かぶ。間石は拳をギュッと握り、眼鏡の男を睨み付けたものである。

「……なぁんてね」

 ところが、清澄は茶化すように言うと間石の肩をポンポンと叩いた。

「誰かが誰かを蹴落とそうだなんて、良くないよ。うん。みんなで末永く暮らすとしようよ」

 煽った清澄が態度を一変させたので、間石は拍子抜けした顔になる。


「……今は、君らに従って大人しくしておくとするよ」

 何やら含みをもたせた言葉を呟き、清澄はその場に寝転がって目を閉じたのであった。

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