第13話「死刑……執行……」

 扉を開けて中に入るが、部屋の中には誰も居なかった。代わりにモニターが点灯しており、画面に見覚えのある人物が映っている。

「佐野君……?」

 マコが画面に写っている人物に視線を向けながら呟いた。


 画面の中の佐野は椅子に座らされ、両手を後ろで縛られているようであった。布で目隠しや猿轡までされており、不安げに周囲の様子を探ろうと顔を頻りに動かしている。

 既に激しい拷問を受けた後なのだろう──。服は赤黒い液体で染まり、あちこちにアザや傷のようなものが見えた。

「大丈夫なの!? 佐野君?」

 マコはモニターに向かって叫んだ。

──だが、佐野からの返事はない。

 こちらの声は佐野には届いていないようだ。

「うぅ……あぁっ……」

 呻きながら、佐野は体を震わせていた。


──ピーンッ!

『これより、器物損壊罪を犯した容疑者の処刑を開始する』

 スピーカーから音が鳴ったかと思えば、そんな感情のない淡々とした声が聞こえてきた。

 テレビからでなく、天井から吊り下げられたスピーカーからその声は響いてきていた。


 そして、モニターの映像に動きがあった。

 画面の外側から現れた制服警官が、佐野の体に次々と四角い箱を取り付けていく。大きさの異なるそれらの箱によって、佐野の頭部、胸部、腹部──肩、上腕、手──が覆い隠されていった。

『な、なんだこれは……やめてくれ!』

 箱の中から佐野の曇った声が、スピーカー越しに聞こえてくる。それを取り付けられたからといって、佐野に何か変化があったわけでもないらしい。


『死刑……執行……』

 画面の中、制服警官がそう宣言した。

──それからおぞましい光景が画面の中に写されることとなる。

 金属製のアームが、柔軟な動きをしながら画面の中へと現れる。そのアームの先端には電動ノコギリの刃が取付けられており、それが激しく音を立てながら回転していた。

──ギィイイイィィインッ!

『ひ……ひぃっ!』

 佐野が恐怖し、体を震わせた。彼の目には、目の前に何が現れたのか捉えることはできなかった。しかし、その鳴り響く機械的な金属音で、ファンシーなものではないことは想像がついた。

 もっと凶悪な──恐ろしいものであるはずだ──。

 佐野は小刻みに体を震わせた。


 そのアームが何をするか──。

 次に何が行われるのか──。

 足達は瞬時にそれを理解した。

「見るな!」

 マコたちへの配慮のつもりであった。

──しかし、時既に遅かった。


──ギィイイイィィインッ!

『ぎゃぁぁああああ!』

 画面の中の佐野がノコギリによって切り刻まれていく様を、マコたちは その眼にしっかりと焼き付けてしまう。目を逸らそうにも逸らすことはできなかった。恐怖心から体が動かず、瞬きすらすることはできなかった。

 そんなマコたちに見取られながら、佐野の体は次々に切断されていった。アームのノコギリが箱を真っ二つに切り刻む。

──不思議なことに、佐野の体から血は一滴も流れてはいなかった。もしもそこに血が流れていれば、映像はより生々しいものになっていたであろう。マコは卒倒してしまうか、あるいは胃の中のものが逆流してきたかもしれない。

 しかし、リアルタイムで映像は加工されているようで、どこか現実味がなかった。


──ウィイイィン……。


 電気ノコギリが停止し、引っ込むと別のアームが画面に現れる。二本指のそのアームは器用に箱を掴むと、配置を入れ替えていった。

 胸部と頭部の箱の位置が逆さになり、腕と足の箱の位置が動かされる。

──そんな調子でどんどん箱の位置が変更されていく──。


『これにて、刑の執行は完了致します』

 スピーカー越しにそんな声がした。

 それを合図に、画面の中の箱が一斉にパカリと開いた。


──ベチャッ!

──バシャッ! グチャッ!


 映像にはモザイク処理が施されてあった。

 箱が開いたのと同時に中から赤黒い液体が周囲に飛び散り、ねっとりと上から垂れていた。画面に血肉と思しき物体が付着し、重力に従って徐々に落ちていった。

 それらが何であるのか──ハッキリと見えずとも想像することは出来た。

「うわぁぁあああっ!」

「な、なんだよこれはぁぁっ!?」

 モニターを見ていた一同は飛び上がり、悲鳴を上げた。眼鏡の男などは腰を抜かして、床にへたり込んでいる。

「こ、殺された……。本当に佐野が、殺されちまった……!」

 モニター室はパニック状態となっていた。


『本日の事件は、残り一件です』


 無感情な声がスピーカーから流れてきたかと思えばモニターの電源が落ち、それっきり何か起こるわけでもなかった。

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