9話 ペン=ジマク①

魔力災害の発生とほぼ同時刻。


舞台は再び、暗雲が立ち込める山岳地帯。

ペン=ジマクは、未だ力のコントロールが叶わず、苦しみに耐えていた。


彼が手にしたのは、"竜器"と呼ばれる竜王の心臓である…




その昔、竜人族という種族が存在した。

他の種族に比べ、叡智に溢れ、武に優れた種族であり、その中でも、特に優れた者は王となり、"竜王"と呼ばれ、魔王並みの力を持っていた。


彼らは高慢で、他種族を見下し、自分たちが支配してやろうと常に考えていた。

そしてある時、竜人族は全ての種族に対し、戦争を仕掛けたのである。


もちろん他種族は黙っておらず、それに応戦する。竜人族と他種族連合軍の争いは、武に優れていた竜人族の優勢で進んでいたが、ある時、勇者と名乗る者とその一行が、竜王へ戦いを挑み、竜王を屠ったのだ。


争いは終わり、その時、勇者の聖剣が貫いた竜王の心臓だけが残った。それは"竜器"と呼ばれ、聖剣と共に、ある地に封印されることとなる。



「グッ…があぁぁぁぁぁ!…ハァハァ。さっ、さすがは竜王の心臓だ…このままでは、俺さまは…しっ、死ぬ!」



ジマクは、拳を握りしめ、地面を何度も叩きつける。しかし、徐々に意識が遠のき始めるのを感じた。



「チョークの奴に…グハッ…復讐せねばらなんのに…こっ、こんな…こんなところで死んで…たまる…かぁ…」



遠のいていく意識の中、憎っくきチョークの顔が浮かぶ。



(…ちくしょう。やっとここまできたというのに…3年…3年もここで苦しみ続けてきたと言うのに…このまま…終わるのか…)



そのまま、ジマクの意識はそこで途絶えた。





ジマクの記憶が映し出される。

3年前の記憶だ。


教室で、ジマクの前に1人の生徒が立っている。



「貴様!そんなこともわからんのか!一体この学園で何を学んできた!もうよい…貴様のグループはマイナス50点!」


「そっ、そんな!ジマク先生!お願いします!50点も引かれたら、退学になってしまいます!」


「何を言っている?だから50点マイナスなのだ!貴様、そしてお前のグループ全員は、今を以って退学だ。早く私の前から失せろ!!!」



その言葉に、生徒は唇を噛み締めて反論の意を唱えた。



「ふっ、ふざけるな!教師だからと言って、そっ、そんな権利がおまえのどこにある!」


「何…?貴様…私に刃向かおうというのか?ブラックボード学園で、ナンバーワン講師である、このペン=ジマク様に。」


「何がナンバーワンだ!誰がそんなこと決めたんだ!勝手に自分で言っ…がぁ!」



生徒は急に倒れ込む。

突然のことに、周りからは小さな悲鳴が上がる。ジマクは倒れた生徒の方へ手を掲げ、何か魔法をかけながら吐き捨てるように口を開いた。



「ふん!殺してはおらん。但し、今後まともに生きてゆけるかは保障せんがな。ほれ!さっさとこいつをつまみ出さんか!!」



ジマクが笑いながらそう言うと、倒れた生徒と同じグループの生徒たちが駆け寄ってきて、目を伏せたまま彼を背負って教室から出て行く。


それを見送ることなく、ジマクは授業を再開する。



場面は変わり、学園長室。



「学園長殿、何か御用ですかな?」


「ジッ、ジマク先生…まっ、また、あなたの授業で、生徒が怪我をしたと伺いましたが…」


「あれは些細な事故なのです、学園長。」


「事故…ですか。」


「左様。生徒が私のことを馬鹿にするものですから、それならばどうすれば良いのだと問うたのです。すると彼は決闘をと。負ければ素直に私の授業を聞くと言うので、仕方なく決闘を受け入れたのです。しかぁし…あのような事になってしまうとは。」



ジマクは額に手を当てながら、大袈裟な動作で話を続ける。



「私は軽い怪我で済むようにしたのですがね。彼は思いもよらない動きをしたものですから、誤って…当たりどころが悪かったようで、すぐに治療魔法を掛けましたが…残念な限りです。」


「そっ、そうでした…か。」



ジマクは学園長へ視線を戻して、ニヤリと笑う。これはそう言う事にしろというサインなのだ。学園長は静かにため息を吐き出すと、小さく頷いた。


ジマクには後ろ盾がある。ジマクは王族出身で、逆らえば学園自体が大変なことになる。学園長以下、生徒たちも、誰も彼には逆らえないのだった。


しかし、そのジマクの恐怖支配にも、ある人物の赴任により、終止符が打たれる事となる。



再び学園長室。



「がっ、学園長!なぜです?!なぜ私が解任されなくてはならんのです!」



恐ろしい剣幕で、学園長室へ飛び込んできたジマクに、学園長は静かに応える。



「国王より勅命が下されたのです。」


「ちょっ、勅命?!!!」


「はい。この国は現在、高レベルの魔道士の育成に取り組んでいることはご存知だと思いますが、まだまだ王の求めるレベルに達していないのが現状です。そこで、王直々に、元宮廷魔道士であったある人物の派遣を決定されたのです。」


「そっ、そんな馬鹿な!もっ、元宮廷魔道士と言うことはまさか…」


「えぇ。ジマク先生の予想通り、この学園に来るのはワイド=チョーク氏です。」


「くっ!やはりか…。学園長…貴様、裏切ったな。」



ジマクは、目じりを険しく吊り上げ、学園長を睨みあげる。こめかみには青筋が立ち、今にも殺してしまいそうな勢いで。


それに対して、学園長は静かに、覚悟を決めた声色でジマクに応える。


「私は…もう嫌なのです。あなたの言いなりになり、生徒たちを欺くのは!」


「貴様!!!」



その瞬間、ジマクは一瞬で学園長の元に移動すると、片手で彼の首を掴み、上に持ち上げた。学園長は苦しそうにジマクの手に、自分の手をかけながら、



「グッ、こんな…ことをしても、無駄です!わっ、私は…本日をもっ、以って退任します!責任を…!責任を取るのです!」


「それならば、この世からも消してやるわ!!!」



ジマクがそう言って、力を込めようとした瞬間、後ろから何者かが声をかけた。



「おいおい。赴任の挨拶に来てみれば、何という…」



ジマクは咄嗟に学園長から手を離し、素早く振り返ると、入り口横の壁に寄りかかり、静かに佇む男がそこにはいた。そして、振り向いたジマクに、気さくに声をかける。



「よう、ジマク。久しぶりだな。」


「チョークゥゥゥゥゥ!」


「報告で色々聞いてるぜ。お前はやり過ぎだ。少し反省しろよ。」



その言葉を聞いた瞬間、ジマクはチョークに向かって魔法を放つ。サッカーボールほどの火球が5つ、チョークに襲いかかった。


しかし、チョークは微動だにせず、その火球たちは彼の直前で弾き消されてしまう。


ジマクは気にせず、今度は無数の氷の矢を作り出し、チョークへ向かって放った。3方向から無数の矢がチョークを襲う。


しかし、これもチョークの前で、溶けるように消えてしまう。



「ちっ!防御障壁か!」


「御名答。今度はこちらからだ。」



身構えるジマクへ、4色に光り輝く球体を放つチョーク。



「なっ!?複数の属性を混合しているだと!?」



そう言いながら、ジマクは防御障壁を展開する。

しかし…



球体がジマクの防御障壁に直撃した瞬間、ドォォォォォンという爆発と共に、ジマクの体は炎と氷に包まれる。



「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



苦しみ悶えるジマクに、チョークは話しかける。



「ほう。2属性まで逆算出来したのか…ジマク、腕を上げたじゃないか。」


「グッ、うっ、うるさい!!!!」


「しかし、その程度でナンバーワンを名乗るとは…非常に残念だよ、ジマク。」



チョークは悲しげな表情を浮かべ、ジマクに語りかける。



「やっ、やめろ…グッ、憐れんだ目で…俺を…俺を見るなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



ジマクは怒りを露わにし、魔力を全開放した。まだ、体の所々は炎に炙られ、氷漬けになっているが、そんな事は気にせずに、魔法を唱え始める。



「チョォォォォクゥゥゥゥゥ!!!この魔法が受け切れるかぁぁぁぁぁ!!王国最強と言われる禁忌魔法だぁぁぁぁぁ!!!」



そう言いながら、ジマクの体に紫のオーラが収束していく。そして、体に纏わりついたオーラは、今度はジマクの右手に集まっていく。



「貴様をぉぉぉぉ!殺せばぁぁぁぁぁ!俺様がぁぁぁぁぁナンバーワンだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



ジマクの右手を紫色のオーラが包み込んでいる。



「イビルゥゥゥブラストォォォォォォォ!!!!」


そう言い放った瞬間、まるで砲台から放たれたレーザービームのように、チョークへ向かって紫色の魔法が放たれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る