8話 胡散な奴

「主神様の言う通りでした。」



女神の言葉に、タケシは頭にハテナを浮かべた。



ーーー主神の言う通りって…どゆことですか?


「主神様は、あなたがそうおっしゃることを、見抜いていたという事です。」


ーーーん?んんん〜〜?



余計に訳がわからない。

主神は俺が言うことを見抜いていて、敢えて女神さまに、処分の報告をさせたってこと?なぜそんなことを?



必死に考えるタケシに、女神は話を続ける。



「主神様は、あなたがクリーナーの付喪神を庇うだろうから、そうなったらこれをあなたに渡せとも仰いました。」



そう言って、女神は緑色に輝く石を取り出した。



ーーーそっ、それは?


「クリーナーの付喪神の魔石です。眠りにつかせ、魔石化しています。」


ーーー眠って…いる?


「はい。これの処分は黒井さん。あなたにお任せいたします。」



女神がそう言うと、緑の魔石は無数の小さな光の粒となり、黒板消しであるタケシの中に吸い込まれていく。



「あと、主神様よりご伝言を承っております。」



女神は今度は、小さな水晶玉を取り出して、自分とタケシの間に浮かべる。


タケシがふわふわと宙に浮かぶ水晶玉を見ていると、突如、プロジェクターから投影された巨大なスクリーンのように、黒板に画面が映し出された。



ーーーうわっ!びっくりしたぁ!急に動かさないでよ…



タケシがぼやいていると、映像が動き出した。時折、カタカタと鳴る空転音と映像のブレが、一昔前の映写機を思い出させる。


タケシが映像に注視していると、1人の男が現れた。



『あ、あ。うん。聞こえてる?これ、映ってるの?あ、そう。ありがとう。』



現れた男は、何やら周りに撮影の状況を確認しているようだ。確認が終わると、男はこちらを見て話し始めた。



『え〜と、黒板消しくんだっけか?え?黒井…?まぁいいや。どうも主神です。』



タケシは主神と名乗る男を見て、胡散臭さを感じた。いやそれしか感じなかった。画面の先にいる真っ黒なシルエットと、その顔の部分に浮かぶハテナの文字。



ーーーえっと…。どうツッコミいれたらいいんだ?


『何にだい?』


ーーーえっ!?聞こえてんの?録画じゃないの?


『リアルタイムさ!』



主神は画面の先でサムズアップしている。



(ーーー益々胡散臭いなぁ〜でも一応神様らしいし…まぁとりあえず聞いとくべきかぁ…)


『まぁまぁ、そんなとりあえずとか言わずに僕の話を聞いてよ。』


ーーーうわぁ、心を読めるタイプなのね…


『神様だしね!』


ーーー…で、御伝言を頂戴できるとのことでございますが、どのような内容でございましょうか。


『なんだか適当にあしらっておこうっ感じが全面に出てる気がするけど、それは置いておこう。今回伝えたいことは、付喪神と君の処遇についてだね。』


ーーークリーナーと俺の処遇…?


『そうさ!端的に言うと、今後君たち2人に対して、我々は特に干渉しないよ。自由に生活していい。残念ながら、一度定着した魂を違う器に変えることはできないから、黒板消しとしてだけどね。』


ーーーそれはもともと受け入れてるから構わんが、干渉しないと言うのはどういう意味…


『簡単さ!君が何をしようが、神界は一切目を瞑る。世界を壊したりしない限りね!』


ーーー世界を壊すって…


『君の力ならあり得ないことではないのさ!どうしてそこまで力が強まったのか、僕らにもわからないけど、それについては彼女が一生懸命に解明してくれるはずさ!』



その言葉を聞いて、女神がビクッとする。



ーーーハハハ…、要は目に余らなければ、とりあえず自由にどうぞって事ね。



主神はうんうんと頷きながら、話を続ける。



『あとね、付喪神くんの事だけど、さっき彼女から聞いた通りで、君に任せるから!』


ーーー任せるって言われてもなぁ。具体的にはどうしたらいいんだ?


『今は魔石の状態だけど、もう少ししたら起きるんじゃないかな。ただ、罰として体は没収してるから、自由には動けないよ。まぁ、曲がりなりにも神だし、知識は豊富だと思うよ!』


(ーーー…なるほどな。知識か…俺もこの世界は知らない事多いし。起きたら聞いてみるか。)



タケシの様子を少し伺って、主神は最後に問いかける。



『…さて、黒板消しくん。何か質問はあるかい?』


ーーーう〜ん、そうだな。今のところ特にはないけど…俺の力の原因がわかったらどうなるんだ?


『どうもしないよ!わかれば対策も取れるじゃない!危険なのは"未知"だという事だけなのさ!』


ーーー…そうか。了解したよ。


『それじゃあ、ちょっと変わった異世界ライフを満喫してくれたまえ!』



主神はそう言って、人差し指と中指をクロスさせたハンドサインをタケシに送ると、映像はそこで消えてしまった。



ーーーやっぱり何か胡散臭いなぁ…



姿を見せないことも、話し方も、何から何まで信用しづらいタイプだなと考えていたタケシに、女神が声をかける。



「黒井さん…」


ーーーあっ、女神さま!あなたも大変ですね。あんなの上司とか。


「それは大丈夫です…が、約束は守ってくださいね…」


ーーー俺の力の解明でしたね。任せてください!でも、具体的にどう手伝いましょうか…。


「…とりあえずは、そのまま生活してもらって構いません。私の方で色々調べてみます。但し、何か気になることがあったりした場合は、すぐに私に連絡してください。」



女神はそう言って、タケシにメモ紙のようなものを飛ばす。



ーーーこれは?


「私の連絡先です。」


ーーーめっ、女神さまのですか!!!いいんですか?!俺なんかが!?


「何か勘違いされているようですが…それを頭に浮かべて、私を呼び出してもらえればすぐに参ります。どんな些細なことでも構いませんので、よろしくお願いします。」


ーーー…あっ、はい…わかりました。



タケシは少し残念そうに返事をする。

女神はそれを聞いて「ほんとにお願いしますね!」と、念を押してすぐさま去っていった。





一通りのやりとりが終わり、タケシが講義室に目を向けると、ワイドの姿は見えなくなっていた。



ワイド先生、帰っちまったか…

仕方ない。とりあえずどうしようかな。クリーナーの奴はまだ寝ているようだし…魔法の練習でもするかなぁ。


《ん…うう〜ん…》


おっ?起きたか、クリーナー!


《…あっ、あれ?ここ…は?》


ここは…って、なんて言ったらいいんだ?え〜と俺の中?俺の中だ…よな?うん。俺の中だ。


《タケシの中!???》


あ〜うん。っと、何から話せばいいんだ?え〜と。とりあえず、お前はどこまで覚えてんの?


《んと…主神さまに雷落とされて…しこたま怒られて…魔石にされて…そのまま眠っちゃったとこまで、かな。》


なっ、なるほど。なんか雷とか恐ろしいフレーズが聞こえたが…。じゃあ、その後のことは何もわからないのか。ならば、少し説明してあげよう。実は、斯々然々でな…





《そっ、そんなことがあったんだね…何かごめんね…僕のせいで大変だったよね…》


いや、さっきも言ったが、おまえのせいだけではないから、気にすることはないさ!こうして無事にいられたんだしな!


それに、この力がないと俺はこの世界で、本当に"黒板消し"としてしか生きられないからな。ちょっと強すぎる力だけど、俺としては助かるんだよ。

あと、会話できる相手ができたのは非常に嬉しい!そこが一番救いだよ!


《…そっか。そう言ってくれると、僕も救われるよ!》


だろ!じゃあ、気を取り直して、異世界生活を満喫しようじゃないか!


《だね!この世界のことは詳しくわからないけど、魔法とかの知識は、神になるとある程度身につくんだ!だから、そこら辺は僕に任せておいてよ!》


よっしゃ!楽しくなってきた!では、景気づけに一発かましとくか!せーのッ!


エイエイオー!

《エイエイオー》!



誰にも聴こえることなく、2人の気合いの掛け声が、空に響いていくのであった。

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