第3話核爆弾

 『トントントン』と総帥室の扉を叩く音が聞こえる。

 同時に「失礼します。」となんだか聞き覚えのある声が聞こえた。

 せっかく女の子には手を出さないという男の存在意義を否定するような決意をしたというのに水を差すようなタイミングで誰かが来たようだ。

 いったい誰なんだ。

 俺は開く扉を獲物を狙う鷹のように見つめる。

 入ってきたのは思ってもみない人物だった。

 「ああ!さっきぶりやん!」

 「ええっ!司会の奴じゃないか!」

 嬉しい再会だった。

 これは俺だけかもしれないが、司会の奴とは1つの窮地を潜り抜けてなんだか仲間意識的なものが芽生えていた。

 てか、司会の奴めちゃ美人じゃね!

 入学式の時は緊張やら部屋の暗さやらで気づかなかったが、右にかき上げられた長い金髪にパッチリ大きな瞳、胸には核爆弾を2つ所持しているくせにスラっとしている。

 それに、司会の奴が入ってきてからというもの、なんだかフローラルな香りが漂う。

 や、やばい。撤回しようかな。あんな決意。

 あの核爆弾に手を伸ばしたい・・・・。

 俺の大きな欲望を遮るかのように司会の奴が話し始める。

 「ちょっと幹人君。なんか怖いねんけど。」と自分の体を守るかのように抱いて言う。

 どうやら少し見すぎていたようだ。

 反省反省。

 「ついつい。ごめんね。」

 「ま、まぁいいわ。許したる。」と司会の奴は微笑む。

 司会の奴本人は許してくれた。

 でも俺は気づいていた。

 司会の奴の登場により存在感が薄れていた、誰かの2番煎じの様な見た目の女性の殺気に・・・・。

 殺気を放っている理由は分かっている。

 俺が学園の女の子をエッチな目で見ていたからだろう。

 「ミッキー君。うちの娘のことをなんて目で見てるんや。」とクマの唸り声のように低く、普通に怒鳴られるよりも怖い感じで言う。

 てか、娘?!

 学園の女の子ってだけでも罪なのに、総帥の娘なんて重罪じゃないか!

 たしかに、さっきから司会の奴関西弁だったけど、そんなの偶然だと思うじゃん!

 「すいません。総帥の娘さんがすごく美人で見とれちゃってました。でも、あれですよ、決してエッチな目で見ていたわけではないですよ。」

 俺は必死に謝罪兼言い訳をする。

 言い終わって気づいたが、見とれてるって言った時点でもうアウトじゃん!

 ああ。早くも地下労働施設行きか・・・・。

 俺は覚悟を決めた。

 だが、総帥の口からは想定外のセリフが吐かれた。

 「ミッキー君、分かってるやん!有子ちゃん美人やもんなー。まぁしゃーないな、それは。そやそや、ここに有子ちゃんの昔の写真あるんやけどー・・・・・・・・」

 こんな感じで総帥による長い長い親バカ話が始まる。

 その間司会の奴もとい有子ちゃんは顔を真っ赤にしていた。

 かわいそうだが許してくれ。

 これがなければ俺は地下労働施設行きだったのだから・・・・。






 「もう止めてや!ママ!」

 総帥による親バカ話が15分に達した時、ついに我慢の限界が来たらしい。

 「何言ってんねん!まだ言い足りやんわ。まだあと中学偏が残ってるねん。」

 「もういいって!幹人君もそう思うやろ!」

 こちらに話を振るのはやめていただきたい。

 どっちの味方に付いても良い未来はない。

 ここはどっちもの味方であることを公言する形で答えなければ。

 「たしかにたくさん聞かせて頂いたのでもう十分というのもありますが、またお時間があった時は是非・・・・」

 「「結局どっちの味方やねん!」」

 親子同時につっこまれた。

 俺の思惑は失敗し、結局2人共敵に回してしまう。

 人生ってうまくいかないもんだな。

 「まぁいいわ。それにしてもなんでうちをここに呼んだん?」

 唐突に司会の奴が質問する。

 たしかに、彼女がここに来た理由を総帥から何も聞いていない。

 「ああ。忘れとったわ。有子ちゃんを呼んだのにはしっかり理由があるんやで。それはなミッキー君にこの学園の案内してほしいんや。」

 「あーそういうことね。でも今3時間目の授業中やで?」

 えっ。もう3時間目の授業中なのか。

 入学初日で遅刻。この先が思いやられる。

 てか、司会の奴大丈夫なのか。俺と同じく遅刻しているじゃないか。

 「司会の奴、君も遅刻してるけど大丈夫なの?」

 「それなら大丈夫やで。」と総帥が答える。

 なんでお前が答えるんだよ。

 コミュニケーションも兼ねて司会の奴に聞いたのに。

 そんな絶対に口には出せない思いを胸に閉まっていると、総帥が続けて言う。

 「しっかり、担任の先生と、教科の先生には遅れるって伝えてるから。」と自慢気に言う。

 自慢気になる事ではないと思うが、まぁ「ありがとうございます。」とだけ答えた。

 「なら、授業中の人少ない今のうちに案内してくるわー。」という司会の奴の1言と同時に総帥室を出た。







 「ごめんなー。うちのママの長い話に付き合わして。」と歩きながらも申し訳なさそうに手を合わせて言う。

 ちなみに歩きながらも核爆弾は上下に揺れていた。

 「全然大丈夫だよ。むしろ司会の奴のことをよく知れてよかったよ。」

 「そ、そうなんや。てか、司会の奴って呼び方変じゃない?」

 「そうかなー。じゃあなんて呼べばいい?」

 「影山でいいよ。」とスパッと何かを切り裂くかのように言う。

 下の名前で呼ばしてくれると思っていたのに。

 なんかすごい長い距離感が出来た気がする・・・・。

 でも諦めないぞ、あの核爆弾を両手に収めるまでは!

 そんな俺の欲望を遮るかのように影山が話しかける。

 「ここから学園に入るねんで。」

 「はい。」

 2人で静かな学園内に入る。

 学園内はやはり綺麗だった。

 昨日ワックスがけしたかのようなピカピカな木の床に、落ち着いた薄黄色の塗装をされたコンクリートの壁、だれがどう見ても高級感の漂う照明。

 なんだろう、1言で言えば本当にここ高校か?って感じだ。

 俺が呆気に取られていると「じゃあ職員室から案内するね。」と影山が言う。

 なんだか俺だけ呆気に取られてるけど影山も新入生だったよな。

 何でここの学園のこと知ってるんだ。

 俺はそのままその疑問をぶつける。

 「影山は何でこの学園のこと知ってるんだ?」

 「うち、ここの中等部卒やねん。ちなみにこの学園の生徒、皆中等部から上がってきた子やで。」

 なるほど。だからこんなに知っているのか。

 って、え、嘘だろ。完全にアウェーじゃないか。

 俺だけが皆さん初めましてって事なのか。

 俺大丈夫かな・・・・。

 それにしてもこんな学園に中学から通うなんて、いったいいくらかかるんだろう。

 考えるだけで怖いな。

 そうこうしていると、職員室に着いた。

 そこには忙しそうに働く先生たちの姿が見えた・・・・。

 だが、ちょ待てよ。と言いたくなる所がいくつもあった。

 まず職員室の床だが、何故か人工芝が貼られている。

 しかもその上を先生たちはサッカーのスパイクで何食わぬ顔で動き回っている。

 それも、全員同じ学園という文字が刺繍された物で。

 しまいには、着ている服もみんな同じジャージだった。

 もちろん左胸には学園という刺繍入りの。

 たしかに動きやすそうだが。いいのかこれ。

 なんか変な宗教団体みたいに見えるぞ。

 まぁ誰の趣味かなんて刺繍の文字を見れば一目瞭然なんだが。

 「ねぇ、これって・・・・。」

 「ああ。職員室すごいやろ。特にあの新型のパソコン。」

 そこじゃねぇーよ。と今にも叫びそうになったが、ここは冷静に。

 「いや、あの床とか・・・・。」

 「えっ、床がどうしたん?」

 影山は何言ってんだこいつみたいな目でこちらを見ている。

 ああ。だめだこりゃ。完全に麻痺してる。

 こうならないためにも気をつけなければ・・・・・。






 その後も影山による学園案内は続いた。

 先に感想から述べさせていただこう。

 この学園は狂っている。

 どの教室も床は人工芝。生徒が着ている制服には言わずもがなに学園という刺繍。靴はローファーなどではなくサッカーのスパイク。

 1番狂気的だったのは音楽室だろうか。

 音楽の授業を少し覗かせてもらったのだが・・・・。

 普通授業で歌う歌って『〇をください』とか『世界に一つだけの〇』とかじゃん。

 だがしかし、ここでは違った。

 ここではセ〇ッソ大阪やらガン〇大阪やらの応援歌が歌われていた。

 それも誰1人ふざけることなく、その場でまさに試合が行われているかのような雰囲気で。

 もちろん大太鼓やら、小太鼓の音も聞こえた。

 これ、俺もしなければならなくなるんだよなー。

 






 こんなかんじで、1通り学園の案内が終わった。

 まぁはっきり言うとここは変なところだ。

 学園の案内が終わったころには4時間目の授業も終わり、昼食の時間になったらしい。

 俺が授業に参加するのは5限目からということになった。

 知らないところに行くのは不安だし、落ち着かないが心の奥底でワクワクしている自分がいた。

 よし、頑張ってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

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