第2話漢の生き様

 か、体が痛い・・・・。

 流石に車中泊に慣れているとはいえ、体にはくるもんだ。

 できれば保健室で眠りたかった。

 


 今日が総帥の言っていた特殊な入学方法が分かる日らしいのだが、俺はここにいて大丈夫なのだろうか。

 だが、俺のそんな心配は無用だった。

 「出ろ。」

 俺の乗っている黒いバンのドアが開けられ、昨日同様覆面の男に言われる。

 「はい。」と返事し、今日も今日とて言われるがままにバンから出た。

 昨日たくさんいた覆面の男は今日になって1人だけになっていた。

 俺への警戒が少し緩んだということなのだろうか。

 そんなことより、なんでまだ覆面なんだ。

 怖いんだよなー。ガタイもいいし。

 ちなみに俺の乗っていたバンは学園の目の前に停まっている。

 今日は平日で、今は朝の9時頃だ。

 俺は8時には起きていたのだが、その間バンの前を誰1人として通らなかった。

 この学園は全寮制なのか、それとも単に今日は休みなのか。

 いかんせん、なにもわからない・・・・。





 覆面の男に連れられ学院内に入り、大きなホールのような建物の前に着く。

 その建物は学園から少し離れたところにあり、総帥室に引けを取らないくらいに異彩を放っていた。

 普通の人が見れば、なんか怖いなという感想が一般的だろう。

 そんな建物の中から、誰かの話し声が聞こえる。

 集会でもやっているのだろうか。

 それにしても何でここに連れてこられたんだろう。

 俺の疑問は解決されないまま、覆面の男から衝撃の一言が放たれる。

 「入れ。」

 「は?」

 え、こいつまじで言ってんのか。

 思はず「は?」とか言っちゃったけど。

 集会の途中で参加するってどれだけ勇気のいることか知らないのだろうか。

 ましてや、知らないところなんだぞ。

 さすがにこればかりは抵抗させてもらおう。

 「入れ。」と覆面の男は語彙を強くして繰り返す。

 「はい。」

 ごめんなさい。抵抗できませんでした。

 まぁ余計な喧嘩はしない主義なんで・・・・。

 ビビってるとかじゃないからな!






 俺は勇気を振り絞ってホールのような建物の扉を開ける。

 めっちゃ見られるんだろうなー。

 途中から入ると、扉の音やらなんやらですごい目立つ。

 できるだけ目立たないようにしようと心の中で強く決意する。

 だが俺の決意は入ってそうそうに握りつぶされた。

 パン、パン。パン、パン、パンと俺に向かって5つの照明がライトアップする。

 「みなさん、お待たせしました。彼があの渡辺幹人君です。」と舞台に立つ司会っぽい女子学生により紹介をされた。

 それにより500人ほどの他の学生たちに見られる。

 それと同時に会場がざわざわとし始めた。

 そりゃーそうなるわな。

 めっちゃライトアップされてるし・・・・。

 てか、このライトまぶしいんだけど。

 俺がライトに嫌気を差していると、司会の学生によるさらなる攻撃が繰り出される。

 「それでは、渡辺幹人君前へ。」

 パチパチパチと周りの生徒もそれと同時に拍手をする。

 いわゆる歓迎ムードなのだが、正直きつい。

 こういうきらきらとした所は昔から苦手だったし、目立つことなんてもってのほかだ。

 今改めて司会の奴に殺意をおぼえた。

 だがまぁこの空気を壊すことほど目立つことは無いので、俺は仕方なく司会のいる前のステージへと向かった。







 周りの生徒による拍手を受けながら、ステージに上がる。

 ステージに上がったら、司会の奴を思いっきり睨んでやろうかと思ったが、1目見た瞬間そんな気が失せた。

 遠くから見る司会の奴は、堂々として力強く、キラキラしていた。

 まるで中心にいることが宿命かのように。

 だが、近くで見るとそんなことを思っていたことに罪悪感を感じてしまうほどに、一生懸命だった。

 立っている足は小刻みに震え、額の汗を時折ぬぐい、マイクを力強く握っている。

 これは俺の直感だが、おそらく彼女は望んで司会をやっているわけではないと思う。

 だが、見ず知らずの俺が入場しやすいように、場の空気を壊さないように必死に場を盛り上げてくれたんだろう。

 それも自分の緊張やらなんやらを周りにバレないように。

 そんな姿を見せられたら応えてやるのが『漢』というものではないのか!

 久しぶりに心に火が宿った。

 俺は司会の奴によって強く握られたマイクを「おつかれ。」と一言声をかけ強引に奪う。

 今度は俺の番だ。

 「皆さんおはようございます!今日からこちらでお世話になります渡辺幹人です。今日という日を楽しみにしていました。これからよろしくお願いします。」

 俺は柄にもなく大きな声でお決まりの挨拶を済ます。

 もちろん俺の足も小刻みに震え、汗なんて拭いても拭ききれないほどにかき、マイクもつぶす勢いで強く握りしめていた。

 そんな姿を1番近くで見ていた司会の奴は俺と目が合うや否や「お揃いだね。」と言わんばかりにこちらに向かってニコッとしてくれる。

 なんだかいいな。

 まるで2人だけの世界になったみたいだ。

 いや、それはきもいな。

 俺はそのままマイクを返し、ステージを後にする。

 「渡辺幹人君、ありがとうございました。以上で本日の集会を終わります。」

 そう言う司会の奴はさっきまでの震えは嘘かのように堂々としていた。





 集会終了後、俺は総帥室へと向かう。

 ステージを後にした俺に覆面の男が無理やり連れて行ったって感じなんだけど・・・・。

 ステージの上に登って気づいたのだが、どうやらこの学園は女子生徒が圧倒的に多い。

 てか、俺には女子生徒しか見えなかった。

 溜まってるのかな。

 そんなことを考えていると、総帥室に着いていた。

 俺は昨日と同様、皇帝ペンギンに手をかけ扉を開ける。

 開けてからも昨日と同様で、覆面の男が片膝を床に着け陸軍のような声で「おはようございます、総帥!」と叫んだ。

 相変わらず凄いな。なんて忠誠心なんだ。

 これ俺もしなきゃならないのかな・・・・。

 嫌だなと思っていると、これも同じく昨日と同様「面を上げい!」と総帥が言 う。

 それと同時に、覆面の男はその場から立ち、総帥室を後にした。

 それによって俺は総帥と2人きりになってしまう。

 今日も今日とて総帥は三角レンズのサングラスをかけ、髪を後ろで1つに結んでいる。

 やはり某サッカーアニメの総帥に寄せているとしか思えない。

 それにしても気まずい。

 何か話さなければ。

 でも何を話したらいいんだ?

 両者何も話さないままに数分が経ち、ようやくその空気が壊れる。

 最初に口を開いたのは総帥だった。

 「どうやった?我がブリンドエス帝国女学園の入学式は?」

 あれは入学式だったのか・・・・んんっ?

 学校名になんか俺にとってありえない1文字が入っていた気が・・・・。

 「入学式はすごい良かったです。あのーそれよりここの学校名もう1回言っていただけませんか?」

 「学園な!そこしっかりしな教えやんからな!」と総帥はプイっとそっぽを向いてしまう。

 昨日からうすうす気づいてはいたが、どうやら総帥は学園という言葉に強い意地みたいなものがあるようだ。

 正直どっちでもいいだろというのが個人的な意見だが、そもそも学園なら入園式なのではとも思うし・・・・。

 まぁでも総帥には恩もあるし、何より早く疑問を解決したいので面倒なツッコミは控えよう。

 「すいません。言い直させていただきます。ここの学園名もう1回言っていただけないでしょうか?」

 「しゃーないなー。これがラストやで。ブリンドエス帝国女学園!覚えときや!」と彼女は上機嫌に答える。

 どうやら聞き間違いではなかったようだ。

 「つまりこの学園内に男は俺だけということですか・・・・。」

 「まぁそうなるなー。でもだからって女の子とイチャコラすることは考えやんことやな。」

 「ど、どういうことですか!」俺は食い気味に聞く。

 女子高と聞いて、なんかやだなーみたいな雰囲気出してたけど、心の中では舞い上がってたのに。

 「ミッキー君、いったん落ち着き。眼、血走ってるで。」

 「あぁ、すいません。つい。」

 深く深呼吸をし、落ち着く。

 俺は続けて問いかける。

 「別にイチャコラしたいとかそういうのではないんですけど、どうして女の子となんか色々できないんですか?」

 「それはやな、ミッキー君にはこの学園の生徒兼サッカー部のコーチをしてもらうからや!」

 は?コーチ?なんで?

 てか仮にコーチだとしてなんで女の子とイチャコラしちゃダメなんだ?

 すると総帥が俺の心の声を聴いていたかのように「女子生徒とサッカー部コーチとの不純な関係。こんなん口にするだけで警察来るやろ!」と恥ずかしそうに顔を赤くして言う。

 まぁたしかに、これだけ聞けばすごい悪いことに聞こえる。

 でも、生徒でもあるわけだし。ちょっとくらいは・・・・。

 「そのーもしそういう関係になったら・・・・。」

 「もちろん、地下労働施設行きやな。」とまるで帝〇グループのトネガワ班長のような威圧感で言う。

 まさにカ〇ジになった気分だ。

 よし、女の子に手を出すのはやめよう。

 俺は心に固く誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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