第5話「異世界について」

 セナはずっと考え耽っていた。


 俺はセナの右手首の金色の、

 ブレスレットが点滅しているのを気づいた。


 これは電話の合図である。


「セナ、プラティークが光ってる。電話だよ!」

「あっ本当だ! ちょっとごめんね」

「あぁ! 行ってらっしゃい」


 プラティークとは電話、時計、PC、アイテムボックス。

 それがまとめて装飾品の中に魔法で埋め込まれている。

 そのアイテム名がプラティークと言う。


 この世界の人は前世の携帯のように。

 殆どの人が持っている。


 前世のスマホみたいには高くない。

 安価である。


 このアイテムは未来の技術すぎて。

 とても、感動したのだ。

 まぁだが、魔法がある世界だ当たり前か。


 セナは俺から少し離れて電話を取った。

 セナの電話の相手はアルベルト・R家の執事であった。


「じいや、急にどうしたの?」

「お嬢様、いつ頃戻られますか?」

「ちょっと、長居するかも知れない」

「わかりました。危険な事はくれぐれもしないことです」


 セナは淡々と電話をしていた。

 思ったより、早く終わり戻ってきた。


 そのセナの表情は笑顔だが、作り笑いだと直ぐにわかった。

 本当にわかりやすい。


 俺は少し聞こえた。

 セナの言葉が気になった。


「電話大丈夫なのか? 後、長居とか言って」

「タクロウは僕と一緒にいるの嫌?」


 セナは少し寂しそうに、

 あざと可愛い顔で俺を見つめている。


 なんて、罪な顔をするんだ男の子なのに。


「いやいやそうじゃなくて。

 そんなに家に帰らなくて心配しないのか?」

「大丈夫だよ。僕の家そういうの気にしないから……」


 セナはそう言った後に少し間ができた。

 そして、俺は察した。

 それ以上は何を追求しなかった。


 少し俯きながら寂しい顔をしている。

 とてもわかりやすい。


 俺はやっぱり。

 セナは笑顔の方が可愛いと思った。

 男の子だが……。


「わかった! 飽きるまでいてくれ師匠。

 そのかわり、俺に魔法教えて欲しい。

 俺が強くなれる」

「──ん! わかった!! ハグハグして!!」

「えっ!」


 突然。

 セナは笑顔で俺に抱きついた。

 そして、撫で撫でしてくれないと上目遣いをしている。

 無敵のダブルアタックである。


 俺はそれを見て、男なのにと思いながらも、

 少し照れながら頭を撫で撫でした。


「しょうがないなぁ〜師匠。これでいいか?」

「うん!! ありがとうね。

 でも、師匠はやだよ〜セナって呼んで!」

「──んわかったよ、セナ」

「えへへへへえ〜」


 セナは頬を膨らませていたが、

 すぐにふふふっと笑顔を見せた。

 いや、めっちゃくちゃ喜んでいた。


 よかった、よかった。

 やっぱりセナの笑顔は見惚れてしまう。

 そして、綺麗な銀髪だな。


 ──すると、セナは唐突に魔法学園の事を聞いてきた。


「そういえばタクロウは光魔法が得意だから、

 リュミル学園に入るのかな?」

「あぁリュミル学園か! 俺に合ってるかも知れない」


 この世界にはアースという島国がある。

 十六になるとその国で五年間の義務教育期間を過ごす。


 リュミルはその七学園ある中の一つ。

 光属性を専門とする学園。

 通称、光のリュミルである。


 俺はこの学園に入るまでに、

 ある程度の基礎を作らなければならないと思っていた。


 まぁ、どんな学校かアースがどういう所かは、

 全く知らないのだが。

 だが、楽しみである。


「じゃあ、僕と学園に入るまでに頑張って一緒に強くなろう!」

「そうだな、セナまずは何をすればいいのかな?」


「うーんとね。強くなるためには魔法の知識を増やしたり。

 魔物を倒して魔力量を増やしたりすることかな?

 魔法の知識は僕が教えられる。

 そして、タクロウは魔力量は多いから、あとは実践かな?」


 俺は魔力量は多いのか?

 知らなかった。


「実践か、そうだな」

「魔物に追われていた時、とても怯えていたから。

 それに慣れるのには冒険者とかダンジョンとかいいかもね」

「冒険者! ダンジョン!!」


 俺は胸が高鳴り反芻はんすうした。


 冒険者は便利屋である。

 冒険者はギルドで申請すると力量さえあれば、

 何歳でもなれる。


 冒険者になれば様々な特典がある。

 ギルドと提携している宿屋は一割~二割引。

 尚且つアイテム売却も一割増しになる。


 この世界の貨幣価値は日本と同じて、

 通貨はペルと言われている。


 一から一万ペルとなる。

 しかし、紙幣はなく硬貨で全て取引されている。


 そして、ダンジョンは塔の姿をしており三つ存在する。

 雲を突き抜けている塔。


 バラバラな場所に存在している。

 だが、それがどこに存在しているのか分からない。


 そのダンジョンに入ると天ではなく。

 地下に降りるようになっている。


 ギルドがある場所には魔法陣があり。

 魔法陣に乗るとダンジョンの一階層まで飛べる。


「俺、ダンジョンに行ってみたい!」

「わかったよ! 

 でも、まずは冒険者になって、

 クエストを少し受けてからダンジョンに潜ろう」

「おう、わかった!」


「じゃあ、その為にはギルドがあるビニ町に向かわなきゃ。

 ここからだと一番近い町だね!

 そこで冒険者になる為の手続きをしよう」

「うん!」


 俺はラサマ村から出たことがない。

 ここから出たくても、出れなかった。


 魔法が使えない。

 記憶がない──

 魔物がいる。

 知らない世界を一人で出るのは勇気が必要だった。

 ──俺はセナと出会ってとてもとても世界が広がった。



 そして、俺はスズハに電話をして出かけると伝えた。

 スズハは「うんうん行ってらっしゃい〜」と。

 優しい声色だった。


 俺達はビニ町に向かおうとしていた。


 セナはアイテムボックスから召喚のベル。

 通称ティスモを出した。


 ティスモには魔物の絵柄が記載されており。

 ティスモを鳴らすと絵柄の魔物が召喚される。


 ティスモは高価でなかなか手に入らないし。

 入手方法はダンジョンが多いみたいだ。


 セナはティスモを鳴らしバリオスを召喚した。

 バリオスは馬の魔物で前世の馬よりも一回りでかい。

 漆黒の毛並みはとても美しく力強い風格が漂っている。


 普通の馬よりも早く。

 弱い魔物なら一蹴りで倒せるみたいだ。


 俺はまた目を輝かせた。

 夢にまで見た、召喚獣である。


 いや、初めて魔物を見たのかもしれない。

 案山子はホラー映画みたいだったからな。


「すごいな〜ティスモか初めて見た。

 これがバリオスか、カッコいいなぁ〜」

「戦う能力は弱いけど。

 何かを運ぶ事に関しては優秀で、需要が一番多いのだよ」

「そうなんだな」

「それじゃバリオスで一緒に行こう!」

「わかった!」


 ビニ町に向かう為にセナはバリオスに跨っている。

 俺も後ろに跨り、セナの腰へとギュッとした。

 セナが叫んだ。


「────ひゃっっ!!!」

「だっ大丈夫か?」

「ぅうん」


 俺は急に変な声出したセナに一驚した。

 とても可愛らしい声だった。

 男の子なのに……。


 セナは俺の方を向いて。

 頬を膨らませながらむ〜とさせていた。


(びっくりしたのだよ……)


 俺達はバリオスに乗り、ビニ町へと向かったのである。


 新しい単語が心臓の鼓動の起爆剤になり。

 ワクワクと不安が混じり合い、

 まだ見ぬ世界を見つめていた。

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