第6話「厨二病の女神」

 ────ビニ町。


 セナはビニ町の前に着くなり、

 考えに耽っていた。


「うーん──おかしいなぁ?」

「どうかしたのか?」


「この町まで行く最中には魔物。

 ホーンラビットとスライムがいるはずなのだよ。

 僕の目視すらできないほど遭遇しなかったのだよ」


 セナの言う通り。

 ラサマ村からビニ町へと向かう際。


 魔物のマすらなかった。

 俺はバリオスに乗りながら変わっていく。

 風景をただ見ていただけだった。


「そんなのか! スライム、ホームラビットか〜見てみたかった」

「今は遭遇しない方がいいよ!」

「そうなのか」

「うん!」


 ビニ町は高さ六メートルの城壁に囲われている。

 ビニ町へと入ると、

 オレンジ色や赤褐色の煉瓦造りの町並みが広がっていた。


 日本では味わえない風景だ。

 まぁ、ここは異世界なのだが。


 俺達はカラフルな石畳を歩いていた。

 目線をキョロキョロさせている俺。


「とりあえず冒険者ギルドに行く前に教会に行こう!」

「えっ教会? 何でだ? なんかあるのか?」

「それは光魔法が得意だからだよ。後々、わかることなのだよ」

「おう、わかった!」


 ビニ町の教会はRPGであるように壮大で、

 絵みたいに美しい建物だった。


 俺達は教会に入った。

 教会中はステンドグラスが青みがかった、

 色合いの造形美が、とても幻想的だった。


 そして、聖書のようなものを詠んでいる神父と、

 祈りを捧げている多くの人々の姿があった。


「……綺麗な教会だな」

「そうだね、向こうで一緒に祈ろう」


 俺達は光沢している大理石のような、白い真っ直ぐの道を歩き。

 聖所に赴く。


 そして、目閉じ、祈りを捧げた。

 異世界の神様って存在するのか?


 魔法が使えるからもしかしたら……。

 そう思いながら祈っていた。



 ---



「あ──はっはっはっ!!」


 高笑いする、女性の声が聞こえる。


 目を開けると俺は知らない空間にいた。

 真っ白の空間だ。

 精〇と時の部屋みたいだな。


 目の前にはスーパーモデルを超えるスタイルの良さ。

 サラサラの美しい金髪を持つ女性がいた。


 その女性は顔を右手で覆いながら天を仰ぎ。

 左手は腰に付けカッコつけている。


 俺は思った。すぐに理解した。

 これは絶対に色んな意味で、やばい女だ。


「我が名は女神シルビア!

 聖刻なる時間を過ごす。邪神シルビア! はっはっはっ!」

「……」


 女性はバッバッって色々動きながらカッコつけている。

 俺はただ、それを無言で見つめていた。


 言動はとても変だが。

 この人は間違いなく本物の女神だと見た瞬間に感じた。

 なんだ、この雰囲気は。


「貴様! 貴様! 貴様!!

 我がインフィニティオメガシールドを分け与えたのに!!

 何故もっと早く、我が顔に!! あいに! あいに!

 こない!」


 シルビアは唐突に少し睨み。

 意味わからない言葉を言っている。

 俺はそれに少し混乱した。


 やばい……。

 何言ってるのか全くわからない。

 コイツは女神じゃない……。

 ただの厨二病だ。


「なんとかシールドって? 会いにってなんだよ」


 シルビアはバッバッバッとまたカッコつけている。

 この邪神は話す前にポーズを変えるのが、

 デフォルトなのか?


 だが、めちゃくちゃ綺麗な人だな。


「へへえええぇぇぇ──!!

 何も……うん何も! ──コホン。

 えっと……私の力で魔物が出ないようにしたのに、全く会いに来なかったってことよ。

 ビビッて、ラサマ村から出なかったし。

 せっかく私が異世界に転生させたのに行動しないと」


 シルビアは急に咳払いした後、普通に喋り出した。


 今の話だとシルビアの力で俺は異世界転生したのか……?

 ここに来るまで魔物が出なかったのはそういう事か。

 だが、案山子は出たぞ。


「フハハハハ!! フハハハハ!!

 あの案山子が出たのはしら──ん!

 我のインフィニティジャスティスシールドから抜けるとは

 何かしらの力が!!」


 ──ぇぇえええええ、案山子?!

 あれ?

 俺、会話してないけど?

 噛み合ってる。

 まさか────シルビアは俺の思考を読んでいるのか?

 こいつは……本当にやばい。


 だが、俺はわかる言葉とわからないこと言葉に分かれ。

 それに少しイラッとした。

 女神なのに…………。


「私はやばいのだ! フハハハハ!!

 やばくて、すごいのだ! 左手が疼く!

 封印されし右腕が!! ぐぬぬぬぬぬ!!」


 また、俺の思考と会話してやがる!


 右腕の袖を捲ると包帯をぐるぐる巻いている。

 右腕があらわになる。

 シルビアはその腕を左手で掴みながら。

 ぐぬぬぬって言っている。


「この女神、完全に厨二病だ。

 やばい、本当のリアルガチ勢だ。違う!!

 俺が聞きたいのは、

 なぜ、俺を異世界に転生させたのか!」


 シルビアは悔しそうな顔をしている。

 包帯でぐるぐる巻きにされている、

 右手を突き出しながら言う。


「はぬぬぬぬぬ。くっ! 貴様!

 頭で思うのやめて、直接やばいと言ったな!!

 直接口で言うとは! 我が黒炎で消し炭にするぞ!

 右手で女神炎刃を放つぞ!」


「いやいや、だって考えてるがバレているなら同じだろ。

 それなら言っても──だから、なんで転生したんだ俺は!」 


 シルビアは俺の問いにひどく神妙な顔つきをした。


「私が選んだのよ、貴方を──新鮮でしょ? 異世界」


 その荘厳の佇まいに俺の時間が止まった……。

 俺はこの一言にそれ以上は聞かなかった……。

 ……言えなかった。

 何だ、この鋭い雰囲気は。


「フハハハハ! フハハハハ! 我が我が!!

 フラッシュファンタスティックに見惚れてしまっただろう」

「まあ……その、ありがとう。

 まだ月日はあまり経ったないが、この世界はとてもとても新鮮だ」


 高笑いをしていた、シルビア。

 俺の言葉を聞いて、にっこりしている。


「貴方に言葉を捧げる。どんな世界に行ったとしても。

 行動と勇気がなければ、自分の世界は広がらない。

 そして、何も守れないのよ」


 シルビアの言葉が俺の胸に突き刺さった。

 ……その通りだな。

 臆病過ぎると何も出来ない。


「わかった……肝に銘じる」

「……ごめんなさい。私の加護はもう消えてしまう。

 だから、魔物は貴方の前に現れてしまう。

 教会に祈りに来なさい!

 短い時間かもしれないけど、貴方に少し援助ができる。

 もう時間が、貴方にこれを……また会いましょう」

「ありがとう……シルビア」



 ---



 シルビアが何故、俺を異世界に呼び寄せたのか。

 それはもう……気にならなくなった。


「ちゃんと祈れた?」

「うん、なんか個性が強い人だったけど、とても優しい人だった」

「なにそれ?」


 セナはふふふっ可愛く笑った。


 シルビアは俺に何を渡してくれたのだろうか。

 まぁ、何れ分かることだろう。


 俺は本物の女神を目にして少し気になった。


「この世界には女神様とかいるのか?」

「女神様はいるとされてるのだよ。

 光魔法の使い手はセルシア教会で祈ると良いとされているの」


 じゃあ、彼女はシルビアは光の女神様なのか。

 邪神女神と言っていたが違うのか。


「セルシア教会とは?」

「光属性が得意な人が入会していたり。

 光の女神セルシア様を崇める教団だよ」


 そうなのか、セルシア?

 名前が違う、彼女は一体誰なんだ。

 セナは頬を膨らませながら。

 とても綺麗な蒼眼で俺をジ──っと見つめていた


「考え事の顔ばっかりしてるよ。僕はわかるんだから〜

 とりあえず、冒険者ギルドに行くのだよ」


 セナは俺の左手を握り、教会の外へと連れ出した。


「セナ、教会に連れて来てくれて、本当にありがとう!」

「うん!」


 セナの言う通り。

 考えても分からないものは分からない。

 とりあえず──前に進もう。


 教会の外へ出て、俺達はギルドへと向かった。

 ビニ町は岩や宝石など石に関わる物がとても有名な町みたいだ。


 活気があり外には露店がある。

 俺はそれをワクワクしながら、子供の様に眺めながら歩いていた。


「ここがギルドか!」

「うん、そうここがギルドだよ、行こう!」

「あぁ!」


 彼女を一目見て驚かずにはいられなかった。

 その言動ではなくその真意は分からずとも、

 不思議な力が俺を誘っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る