第3話「笑顔」

「──すごいや!!」

「セナが幻想の森で使った魔法だよ!」


 セナは俺の魔法を見て、とても感嘆していた。

 その表情はとても嬉しそうだった。


「うん! 僕が使った魔法だ!」

「なあなあ。俺 、天才でしょ?」

「残念! 僕の方が天才だよ〜」


 俺も嬉しくて、セナを揶揄った。

 揶揄われたセナは可愛らしい顔で頬を膨らませている。


 とても整っているセナの顔を見て。

 これが異世界のイケメンか──としみじみと思った


 だが、こんなに簡単に使えるとは思わなかった。

 他の属性の魔法はあんなに使えなかったのに。

 不思議だ。


「確かにセナの方が今はすごいな。

 だが、俺は頑張って、すぐに追いつくからな!」

「師匠は簡単には抜かれないのさ!」

「見てろよ! セナ」

「じゃあ、僕も頑張らないとね!」


 俺はセナと話をしていると、頬が勝手に緩んでしまう。

 異世界に来てから数日間。

 何も出来なかった自分が、嘘のようだ。

 あっという間に魔法が使えるようになるとは。

 セナのおかげだな……。


 セナはニコニコ笑顔だった。

 俺はセナに見蕩れて、咄嗟に言葉が零れた。


「セナの笑顔、なんかいいなぁ。

 見ていると、とても幸せになる!」

「……」


(僕が笑顔?! 笑顔というものは口元と目元を鍛えればできるもの。

 笑顔は自分が作る。

 それが当たり前だっだ、僕が笑顔の認識をしていなかったなんて……)


 セナは一驚していた。


 俺はキョトンとしているセナに声をかけた。

 変な事、言ってしまったのかな?

 揶揄いすぎたか?


「大丈夫か??」

「うん! 大丈夫なのだよ!」

「そうか、ならいいんだが」

「ありがとう……」

「あぁ」



 ---



 俺達は昼食を食べ。

 少し休憩してから再度修行に励んだ。

 スズハは握り飯をわざわざ作ってくれた。


 ──セナも俺と同じくらいに気合いが入っていた。


「よし! 始めるか」

「じゃあ! お師匠様が二つ魔法を教えるよ!

 二つ実演をするから見ていてね」

「うん! わかった」

「いくよ、先ずは────〝魔力盾シールド〟」


 セナが中級光魔法を唱えた。

 魔法陣が出て、右手から透明な障壁が出現した。


魔力盾シールドは魔力量によって持続できる防御の魔法なのだよ。

 目視できる場所に障壁を張ることができる。

 ただ、目視出来ない場合は目の前に出るけどね〜

 後は射程距離と数は行使者の魔力量によって変化するんだ」

「おおぉ!!」


「すごいでしょ?

 じゃあ実践してみようか!

 そこに石があるから、それを僕に向かって思いっきり投げてくれ!」

「あぁ、わかった」


 俺はワクワクしながら足下にある、

 その中で一番大きい石を拾い。

 そして、セナに向かって投げた。

 障壁は俺が投げた石を弾き、守った。


「完璧に守った!!」

「これは物理系や魔法系も守ってくれるんだ。

 これが魔力盾シールド、光の魔法だよ」

「なるほど!!」

「光魔法が得意な人には大切な魔法なのだよ!

 守るのは無敵さ」

「おう!」


 魔力盾シールドか〜優秀な魔法だな。

 空間把握能力と魔力量があれば障壁を好きな場所に出せる。

 便利すぎるな。


 俺はこの魔法がとても気に入った。

 防御魔法はRPGでも超大事である。


「じゃあ、次の魔法はこれだよ」

「あぁ、楽しみだ!」

「見ててね!」


 セナはすかさずアイテムボックスから短剣を出した。

 その短剣で自身の右腕を無表情で切った。

 そして、セナは回復魔法を実演をしようとしていた。


 だが、俺は考えるよりも早く。

 反射的にセナの元へ走り出していた。


「──なっ何やってるんだ!? 血が……。血がでてる……」 

「大丈夫だよ……」

「大丈夫じゃないだろう!

 白い綺麗な肌が……。これじゃ、傷になってしまう」

「……」


 俺は動顚どうてんしていた。

 自分の血が出ているのに全く気にしていない。

 セナの表情に……。


 俺はすぐに上着を破り止血をする。

 その赤い血を見ていると、

 この世界は人が死んでしまう現実なんだと感じてしまう。


 もし、この世界の人間なら、気にしなかったのかもしれない。

 すぐに魔法で治せる。


 だが、俺は出来なかった。

 命が軽い世界だと認識するのが怖かった。


(僕のためにそんな顔をしてくれるなんて……

 どうして……?)


 そして、俺はセナの笑顔しか見た事がなかった。


 突如、目の前で滂沱ぼうだと落ちるセナの涙。

 俺はセナの涙を止めようと必死になっていた。


 どうして、突然……。

 セナは何故、こんなにも悲しそうな顔をする。


 セナは自分で魔法を唱える感じがしない。

 どうすればいい……。

 俺が治すしかないだろ。


 だが、魔法なんかで傷が本当に治るのか?

 信じられない……。

 いや、俺が治さないといけないと魂が言っている。

 俺はセナに向かって祈るように──セナに触れた。


「止まれ!!! ──止まってくれ!!!」


 俺の手から白い光が出た。

 その光によりセナの傷は綺麗に治っていく。



 それを見て、俺はとても安堵をした。

 俺は落ち着くと同時に、

 何故、こんなにも焦っていたんだと。

 少し情けない気持ちになった。


 たが、セナの顔を見て。

 ただ、ただ良かったと思ってしまった。


「やったぁ──やったぞ!!」

「……」

「よかった、本当によかった……」

「タクロウ、ありがとう……本当にありがとう。

 でも、僕は……僕は……慈愛光ヒールって言う治癒魔法を魔法実演しようと…………」


 セナは目をうるうるさせながら、俺を見ている。


「教えようとしてくれたのはとても嬉しいけど。

 セナが傷ついたり、怪我して、

 それで俺が魔法が使えるようになったとしても俺は嬉しくない!

 もうちょっと、自分を大切にしてくれ……頼むから」

「わかった……のだよ」


 セナはぽろぽろと──

 また大きい雨粒のような涙をたくさん落としていた。

 俺は言い過ぎたと思い、すぐに言葉を入れた。


(僕は前世と今を合わせて……何年ぶりの涙だろうか)


「セナ、ごめんな。俺……言い過ぎた」

「違うよ。そうじゃない……。

 でも、ありがとう……本当にありがとう……」

「そっそうか……そうか」


 セナはそう言い。

 俺に抱きつき、感涙かんるいをしていた。

 俺は何も言わず、優しくセナの頭を撫でた。


「大丈夫か……?」

「うん! ありがとう。もう大丈夫だよ!

 でもむぎゅう〜はこのままなのだよ!」

「わっ……わかった!」


 俺は少し、いやだいぶ照れた。

 男の子なのに……。



 ---



 僕はアルベルト・R ・セナである。


 前世の僕の世界はとても、とても科学が進んでいて。

 結婚や時間などに縛らない世界。


 空飛ぶ車は当たり前で。

 宇宙だっていける。

 科学力がある世界に住んでいた。


 科学が全てを便利にさせすぎてしまっていた。

 人としての幸せや、


 誰かと共に過ごす。

 当たり前の幸福が──忘れ去られた。


 僕はその世界でとても有名な科学者だった。

 そして、だった。

 僕は前世も今も女である。


 そのたわいも無い一瞬が。

 何十年もしまい込まれていたものが弾き飛ばして溢れ出た。


 人を尊く思うという人として。

 大切な気持ちが溢れ出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る