第2話「初めての魔法」

 俺達は急いで家へと帰った。


 音の絶えた夜更けの村は、

 とても静かで、俺達の足音が響いていた。

 その音はとても心地よかった。


 俺達は家に着いた。

 少し息を呑んで。

 そして、玄関のトビラを開けた。


 セナは少し、緊張した顔をしていた。

 まぁ、それは緊張するよな。

 俺も正直、緊張をしている。

 初めてわがままをしてしまった。


「セナ入るぞ!」

「うん!」

「お母さんただいま! ──ごめんなさい遅くなって……」


 玄関から入って、すぐ俺はスズハに頭を下げ、謝った。

 スズハは俺の顔を見て、にっこりと微笑んでいた。


 喜色にすぐ変わったが……。

 やはり、とても心配していたみたいだ。

 申し訳ない事をしてしまった。


「ほんの少しだけ心配したけど……。

 ちゃんと帰ってきてくれたから、大丈夫だよ!」

「ありがとう、母さん」

「うん! おかえりなさい」


 スズハの笑みに。

 この人は本当に俺の母親なんだと、改めて実感した。


「そのお母さん、俺……。急にだけどお友達を連れてきたんだ」

「お友達──?!」

「……うん、そうなんだ」


 スズハの声が一瞬、大きくなり、驚いた顔を見せた。

 俺には友達がいないから、それで喜んでいるのだろう。


 セナは後ろからひょこっと現れ。

 一拍を置いて、スズハに挨拶をした。


「僕はセナと言います。夜分に申し訳ございません」


 セナは申し訳なさそうに、スズハに深々と頭を下げた。


 その姿を見て、キョトンとしていたスズハだったが。

 何も言わずにセナに優しい笑みを見せた。


「セナくん、今日はお母さんの特製クリームシチューだからね〜

 今日はもう遅いから、泊まって行きなさい!」


 なにも聞かないスズハの優しさに、

 俺はまた、ほろりとしていた。


 それは玄関から入ってくる前から。

 クリームシチューの匂いが漂っていた。

 俺をずっと待って。

 鍋を温めていたんだってわかったから……。


「……ありがとうございます」

「お母さん、ありがとう」

「うん! 温かいうちに一緒に食べましょう〜」

 

 俺とセナは夕食をすませた。

 クリームシチューはなんとも言えない、美味しさだった。


 その後、部屋へと向かった。

 セナは強情で一緒に寝ると言って、話を聞かなかった。


 可愛く頬を膨らませながらむっ〜としていた。

 悔しいがめっちゃくちゃ可愛いかった。

 男の子なのに……。


 俺とセナは一つのベットに横になっていた。

 俺はあの時から思っていたことをセナに告げる。


「セナ。さっき魔法を使っていたよね。

 俺に魔法を教えてくれないかい?

 その……俺はまだ魔法が使えなくて……」


 俺は同い年であんなにすごい魔法を使っていた、

 セナに教えを乞うしかないと、思っていた。


「いいよ〜泊めていただいた御恩もあるからね!

 僕が教えてあげるね。これも何かのご縁だよ」

「ほんとか! ありがとなセナ。じゃあ、また明日なぁ」

「うん! おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 

 セナはこの家の笑顔に気持ちがほっこりしていた……。

 俺とセナは眠りに落ちていく。



 ---



 ────翌日。



 俺とセナは自宅の庭で魔法の練習を開始した。


「 タクロウはどうして魔法を使いたいの?」


 セナは面接官のように俺の瞳をじっと見つめて、

 俺の答えを待っていた。


「魔法がとても憧れで。

 セナが幻想の森で魔法を使ったの見て、より思ったんだ」


 あんな魔法──俺も使ってみたい。

 あれを目の前で見てしまったら、

 誰だってそう思うだろう。


「そうなんだね!」

「あぁ!」

「じゃあ、背中を出して。背中ね」

「うん、わかった」

   

 俺は座り。

 とりあえずセナの言う通りにした。


 セナは俺の背中に両手をくっつけ


 俺はセナの手から何かを感じ。

 そして、身体を循環しているのが分かった。


「これで大丈夫! 僕の魔力がタクロウの魔力を目覚めさせたから。

 もう魔法は使えると思うよ!」 

「本当か? ありがとうセナ!」


 こんなので……もう使えるのか?

 ありがたい事だ。


「セナ、次は?」

「魔法はイメージと詠唱で具現化するの。

 無詠唱も存在するけど、詠唱をした方がイメージが上がり、

 より安定した魔法がだせるのだよ〜

 そして、長い詠唱の魔法は、とても魔力を込めた高度の魔法だったりするんだ」

「そうなんだな。セナ、無詠唱はよくないのか?」

「無詠唱は魔力のコントロールが上手い人なら悪くないと思うよ!」

「なるほど」


 セナの説明だと魔法は一定の言葉は必要ってことだな。

 詠唱の長さに比例して。

 流し込める魔力は多くなり威力は上がるのか。


 魔法のレベルは六段階あり。

 初級、中級、上級、王級、超級、神話級とある。

 一般的には上級魔法を使えれば、超優秀らしい。


「今日から僕が君のお師匠なのだよ!」

「そうなのか?! わかった! よろしく頼む師匠」

 

 セナはふふふっと笑いながら俺を見ている。

 この笑顔は本当に、見惚れてしまう。綺麗だ。

 俺はいつの間にか弟子になった。


「でも、師匠は嫌だよ〜セナって呼ぶのだよ!」

「わっわかった」

「じゃあ! まずは初級火魔法だね。

 僕があの岩に向かって魔法を唱えるから、ちゃんと見ているんだよ!

 頭で火をイメージしながら詠唱をするの!

 〝小火ファイヤー〟」


 セナは右手を前に突き出した。

 そして、遠くの岩に向かって初級火魔法を唱えた。


 すると、魔法陣から小さい火球が現れ、

 勢いよく火球は岩にぶつかっていく。


 まるでRPGそのままの光景に、俺は心が震えた。


「すごい──これが火属性の魔法か!!」

「うん! 初級魔法だよ!

 イメージをするのさ火をね!

 そして、詠唱をする。わかった?」

「おう、わかった!!」

「じゃあ、試して見て!」


 セナにそう促されて俺の番が来た。

 目の前であんなのを見てしまったら気合いが入る。

 そして、俺の華々しいデビューだ。


 妄想で過ごしてきた俺に──

 厨二病を愛した俺が──賢者となる時が!

 岩の方に左手を突き出し魔法を唱えた。


「ゆくぜセナ! 〝小火ファイヤー〟」


 だが、魔法を唱えたが、手から魔法陣が全く出ない。

 その後も、何度も試したが何も出ない。

 そのその後もうんともすんとも言わなかった。


 セナはその光景を優しく見守っていた。


「どうしてだ?

 イメージは完璧なのに全く出る気がしない」

「ふむふむ、相性かもだね。

 魔法は火、 水 、風 、土、 闇 、光がある。

 火属性と相性が悪いのかもしれない。

 他の魔法を試してみよう。どれかは必ず使えるから!」


 セナが言うにはこの世界は確実にどれか一つの属性の魔法は、

 誰もが使えるらしい。


 俺は不安と期待を感じながら演習を受ける。

 その後、水、風、土、闇。

 それぞれの魔法を試したが全く反応がなかった。


 ──そして、最後の光魔法の番だった。


「全然。ダメだな俺」

「大丈夫なのだよ! 僕の弟子だよ〜」

「セナ、ありがとうな!」


「最後は光属性だね。

 絶対に使えるから、僕に続いてやってみよう!

 信じて! 〝小光ライト〟」

「わかった」


 セナは俺を優しく勇気づけながら、

 初級光魔法を唱えた。

 セナの手からランタンと同じような優しい光が出た。


 その魔法を見て、胸の高鳴りを感じながら。

 俺もセナと同じように魔法を唱えた。

 信じるさ──確定ガチャだ。


「──光れ!〝小光ライト〟」


 俺の手から小さな光が灯る。

 セナは俺よりも喜んでくれていた。


「光ったのだよ!!」

「セナのおかけで俺、魔法が使えた!!!」

「うん! よかったのだよ」

「本当にありがとうな! セナ」


 初めてのは魔法はとても喜悦きえつで──

 異世界に来たんだという実感をより全身で感じさせた。


「ふむふむ、さすが私の弟子!」 

「セナ、魔法すごいな!!」

「おめでとうなのだよ!」

 

 セナは俺の事を賞賛していた。

 それが何よりも嬉しくて、俺はあの魔法を試した。


「セナ見てくれ、次はこれだ──

 〝波紋光フルーライト〟」


 俺の手から眩しい光が辺りを照らし、消えていった。

 それはあの時、心の奥まで刻み込まれた。

 綺麗な光であった。

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