1-13 技と力

「結構数がいるな」


 岩の陰からちらりと覗く。

 小道をしばらく進むと、広い空間につながる。

 そこにお目当てのモンスターがいた。

 人骨が剣や、盾、槍などをもって歩き回っている。

 Eランクモンスター、スケルトンだ。

 

 以前来たときよりも多い。

 モンスターのたまり場になっているのかもしれない。


「そうだね。まぁ大したことないさ」


 数にビビる俺と半面に、ルアネはけろっとした様子だ。


「本当かよ」

「戦死の死神がそういうんだ。信じてくれたまえ」


 彼女の赤い眼が爛々と輝く。

 興奮のためか、黒いもやがにじみ出るように身体から漏れ出している。

 そこまで言うなら疑うのも失礼だろう。


「なら先に戦ってもらってもいいか。それと1体だけ残してくれ」


 1体は俺が戦うための相手だ。

 言外に命のやり取りをするのに、手を抜けと言ったわけなのだが。


「勿論だとも」


 そういうと、ルアネは臆することなく飛び出した。

 彼女に気がついたスケルトンたちが詰めてくる。


(って、あいつ武器なしで飛び込みやがった!)


 何だったら防具もない、服のままだ。

 スケルトンがカラコロと音を鳴らす。

 簡単に倒せるカモが来たと思っているそぶりだった。


「ふふ」


 そんな渦中にいるルアネはというと、囲まれているにも関わらず余裕たっぷりだ。

 一体のスケルトンが、黒のもやをまとった剣を彼女に振り下ろす。

 当たればただでは済まない一撃。


 ガン!


 だがその剣はルアネにあたることなく、むしろ突然砕け散った。

 彼女はいつの間にか、黒槍を持っていた。

 それで剣をはじいたばかりか、壊したのだ。


 そこからは独壇場だった。

 彼女が一振りすれば、数体のスケルトンがバラバラになる。

 盾を構えたスケルトンも一突きだ。盾ごと打ち砕いていく。

 また背後から襲われても、少し足を動かすことで避けていく。

 もはや舞だった。

 激しい動きのために乱れる金髪、黒色の服さえ計算されているような美しい戦いだった。


「凄いな……」


 思わずつぶやく。

 勿論ルアネの戦いぶりがだ。

 その随所で輝く技に驚きを隠せなかった。


 突如現れた槍。恐らく服のように実体化したものなのだろう。

 武器も自在に作れることには驚くが、性能自体は特に何もないらしい。

 変哲もない普通の武器だ。


 身体も特別に強いわけではないと思う。

 力なら、前のパーティーにいたトルエンのほうが強いだろう。

 速さはザフールのほうが勝る。


 では彼らのほうが、ルアネより優れているのか。

 答えはノーだ。

 彼女の技はそれほどに冴えわたっていた。

 身体能力など、ましては武器の質など技一つでひっくり返るのだと、体現しているようだった。


 “日々戦うための訓練をしているのさ”


 そんなこと言ってたっけか。

 あの技はルアネの努力の賜物なのだろう。

 そうこうしているうちに、決着はついた。

 もちろんルアネの圧勝だ。

 足元にはスケルトンの残骸が散らばっていた。

 一体だけが遠くに吹き飛ばされて、よろよろと立ち上がっている最中だった。

 恐らく俺の注文通りに、一体だけ手加減したのだろう。


「準備運動にもならなかったな。……ほら、次はキエル。君の番さ」

「あ、あぁ」


 ルアネに促されて、前に出る。

 緊張していないといったら嘘だ。

 昨日【堕落者】ガイルと戦ったとはいえ、それを除けば本当に久しぶりの戦闘なのだ。


「なんだい。そんな気を張って。ふふ」


 あまりに俺が緊張しているせいか、ルアネが朗らかに笑う。


「笑うなよ」

「そうだね。すまない。まぁ気楽に臨みたまえよ。たかがスケルトンさ。そんなことより、この後に私の戦いぶりをどう褒めるかを考えておいたほうがいいんじゃあないかな」

「はっ、言っとけ」


 ルアネなりのフォローのようだ。

 だがおかげで幾分か緊張もほぐれた。

 彼女の言う通りかもしれない。

 スケルトンが相手なのだ。

 落ち着いて戦えば問題ない……はずだ。


「よし、行くか」


 気合を入れつつ、短剣を構える。

 スケルトンにとって敵が誰だろうが関係ないようだ。

 ルアネと俺が変わったことなどお構いなしといった様子で、錆びた剣を構えながら近づいてくる。


 剣に黒のもやが宿る。

 その瞬間。

 

 いや本当に遅くなったわけではない。

 遅く視えるようになったのだ。


「やっぱりか」


 俺の予想通りだったようだ。

 ガイルと戦い終わった後からずっと疑問だったことが解決した。


「なら次は」


 少しずつ身に迫るスケルトンの剣戟を、あえて短剣で受け止める。


 キン!


 甲高い音が響く。

 


「……なるほど」


 確認したいことはできた。

 錆びた剣を強引に押し返すと、スケルトンの態勢が崩れた。


「ふっ」


 そのまま横なぎにはらう。


 シュバ!


 綺麗な一撃。

 それだけでいともたやすく、スケルトンは地に沈んだ。

 フーと息を吐く。

 無事倒せた。


「なかなかいい戦いっぷりじゃあないか」


 ルアネの称賛が入る。


「力任せなところもあるが、それも戦士としては好ましいものさ」


 一言余計だ。

 しかもその通りなのも悔しい。

 今の戦いは、身体能力のごり押しで勝てたものだ。

 過去の自分じゃ、スケルトンの剣を押し返すなんてできなかっただろうしな。


「なぁ確認したいことがあるんだが」


 まぁ戦いの反省会はこの後にすることにしよう。

 今は自分の能力を確認するほうが先だ。


「ん? なんだい」

「俺の身体って強くなってるんだよな?」

「あぁそうだとも。現によく戦えていたじゃあないか」


 頷くルアネ。

 彼女の言う通り、確かに強くなっているのだろうが……。


「でも一定の強さじゃないよな?」


 そう尋ねると、ルアネはにやりと笑い。


「……ふぅん。1回の戦いで流石だね」


 いけしゃあしゃあとそんなことをのたまい始めた。

 俺の能力にはまだ何か秘密があるようだ。

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