2話



「すんません! 遅刻しました!!」


 教室の扉を開けてボクは大声を出す。


 あの後、無事学校の中に入れたは良いものの既に入学式は終了しており、ボク達は一時的なクラス分けの表を見てそれぞれのクラスへと向かった。

 もちろんほーむるーむ? も始まっており、急いで教室に入り大声を出したのだ。


「三奈月〜? 入学初日から30分も遅刻とはいいご身分だなぁ??」

「ぐぅ……言い返す言葉もございません……」


 担任らしき男に叱られる。


 むぅ……アキちゃんを待ってなければもっと早く着けてたのに……。

遅刻は遅刻なんだけどね!


「ったく。今日だけは許してやるから席に着け」


 そう言われ、空いている席に向かう。

 窓際から二列目の一番後ろだ。

 良いのか悪いのかよく分からないな……



 まあ、だけど。


「おっ! イケメンだ。これからよろしくな!」


 多分、ラッキーなのだろう。

 だって……


(蒼炎サンが隣なんてツイてるなぁ!)


 愉快な学園生活になりそうなんだもの!


「お、おう。よろしく、な」


 蒼炎は辺りを見回してから自分が話しかけられている事に気付き、返事を返してきた。


「オレ、三奈月 弥生! お前は?」

「俺は霧崎龍真きりざきたつまだ」


 名前について嘘を言っている様子はない。

 つまり霧崎龍真が蒼炎サンの本名らしい。


「へー! 龍真か。かっけぇ名前だな! 龍真って呼んでもいいか?」


 ニカッと笑ってみせる。

 すると龍真は微かに目を見開き、少し笑った。


「おう、良いぞ。俺も弥生って呼ぶな」


  図らずも蒼炎との交流が持てたボクは前へと意識を集中させる。


(同世代の人たち、教師、教室、いかにも学校っぽい机と椅子……! ああ、すっごく楽しみだなぁ!!)


「ふふ」


 少し声が漏れてしまったが誰にも聞こえていないようだ。


 ボクは心の中で笑みを零し、教師の話を聞き半分、昨日のことを思い返す。─────






─────「明日だね、アキちゃん!」

「そうだな」


 ボクは明日から始まる学校にソワソワしっぱなしだった。

 なんせ生まれて初めての学校である。

 ボクはいつもに増して笑みが深くなっていた。


「第一異能高校、かぁ。ボク知ってるよ。五つの学校の内でも際立っているエリート校なんでしょ? ふふふ、“蒼炎”サンはどうするのかなぁ? 実力、隠すと思う?」

「さあ、どうだろうな。隠すんじゃないか?」

「うんうん、だよねぇ。ボクも隠すと思うな!」


 明日のことを考えるだけでココロが跳ね上がり、自然と口角が上がる。


「ああ、そうだ言い忘れてた」

「? どうしたの、アキちゃん?」


 アキちゃんが胸の前で手を叩いて言った。

 なんだろう?


「俺も先輩として編入するからな」

「…………えぇ?!」


 珍しく大声をあげてしまう。

 それにしてもアキちゃんと登校かぁ……

ってあれ?


「アキちゃんって何歳だったっけ?」

「今年で17だな」

「ん? てことはアソコに来たのは9歳の時なんだね」

「ああ、そうなるな」


 あんまり、思い出したくないな……


「もうあれから6年かぁ」

「出来れば思い出したくない」

「あ、同じこと考えてたね!」


 以心伝心ってヤツだね!


「でもまあアソコに行った時、びっくりしたな。なんせ俺よりもちっさい奴がバンバン人殺してんだ。ビビったわ」

「そうだね。もう平気になっちゃった頃だったしね!」


 心を自分で壊し始めたあの頃。

 なにもかも捨てた、あの頃。


「そう考えると俺ってお前の事全然知らねぇな。アソコにいた年数と経緯なら教えてもらったけどそれ以外、名前すらも知らないんだもんなぁ」

「あれ、教えてなかったっけ?」

「おう。知らねぇな」

「ありゃ、それはごめんね」


 ボクはそう言い座っていた手摺の上に立つ。


「じゃあ、改めまして! “アビス”こと、三奈月弥生です! ちゃんと脳裏に焼きつけておいてね、アキちゃん!」

「言い方怖ぇなおい。まあ知ってると思うが俺は時雨秋だ。これからも弥生専属の情報屋として頑張るからよろしくな」

「うん! よろしく!」


 また一つアキちゃんとの距離が縮まった気がする。

 ……まあ、裏社会ではそんなヌルいものなんて必要ないんだけどね。


「ねえねえ、学校ってどんな所なの?」

「ああそうか。俺は小学校に通ってたけど弥生は通ってなかったんだっけか」

「そうそう。そうなんだよね。だから教えてよ」


 早くから裏側に来ていたボクは学校というものに生まれてこの方行ったことがない。

 経験からなのか、学校に行ってないからなのか。

 とりあえずボクは昔からどこかオカシかった。

 欠落していたとも言うのかも知れない。


「学校、ねぇ。結構楽しいところだったと思うぞ? 人によって異なるだろうが」

「? 人によってってどういうこと?」

「人気者になる奴もいれば仲間はずれになる奴もいるからな。人次第だ。あとは運とタイミングとかも重要だな」

「へえ。大変そうだね。……ところで人は殺しても良いのかな?」


「は?」


 アキちゃんがボクを有り得ないものを見るような目で見てきた。


「いや、駄目に決まってるだろ」

「なん……ですと……?」


 ボクが軽く絶望していると、アキちゃんが心底呆れたような顔をして言う。


「いいか? 学校はな、社会の縮図とも言えるんだ。そして、社会には人を殺してはいけないというルール、まあつまりは法がある。ここまで言って分からないとは言わせんぞ?」


 ボクは口を尖らせる。


「えぇ〜? だってボク、社会でも人殺してるよ?」

「それでも、だ。


よく考えてみろ。校内で人がどんどん殺される。

すると疑われるのは学校の関係者だ。学校は社会が数百倍にも縮小されたような場所。より見つかりやすくなるのは目に見えている」

「……ボク、アキちゃんの倫理的なことじゃなくていかに捕まらないかしか考えてないところ嫌いじゃないよ」

「そうか。ありがとう」


 まあとりあえず、とアキちゃんが言葉を続ける。


「人は殺すなよ。分かったな?」

「……分かったよ。

人は殺しちゃダメ、ね……」

「ああ。

お願いだから目立つようなことはするなよ。

いつ正体がバレるか分かったもんじゃねぇ……」

「あぁ! 酷いよアキちゃん! もしやボクを舐めてるね?! これでも世界最強を誇ってる犯罪者なんだから! 擬態くらいお手の物なんだから!!」


 まったく! と頬を膨らませる。


「ああ、そうだったな。そう言えばこんな奴だけど確かに世界最強だったわ」

「もうアキちゃん酷いぃ〜!」


 ボクは半泣きになる。


「はいはいごめんて。

にしても弥生、どんな生徒に擬態するつもりだ? 一応知っといた方が俺としては安心だからな」

「ああうん。

そっか、どうしよっかなー。……そうだ!

『明るく社交的』な性格はどう?」

「おう、俺弥生の切り替えが異常な速さなところ、嫌いじゃないぞ。

にしても『明るく社交的』、ねえ。どんな感じだ?」


 アキちゃんが聞いてきたからボクは口を開いた。


「うんとねぇ……こほん。

一人称は“オレ”で、誰とでも仲良くなれるような性格だな! そんでもってあわよくば蒼炎に近づこうとも思ってるぞ!」

「お、おう……。

……今擬態しなくても良いんだぞ?」

「いや、ただの予行練習だ! 気にしないでくれ」

「そ、そうか」


 おやおやぁ、アキちゃんは慣れていないご様子。


「ちょっとちょっとー。

慣れてもらわないと困るよー! なんせボクとアキちゃんは幼馴染って体で行こうと思ってるんだからさ!」

「ああ、すまん。いきなりすぎて」


 全くアキちゃんは!

 咄嗟のことでも対応できるのがプロの犯罪者というものなんだよ!


「んじゃ、一仕事して明日に備えるかぁ」

「そーだねぇ」──────────



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