1話
「え、アキちゃん、それホント?」
「だから“ちゃん”をつけるなといつも言ってるだろうが。それにお前はそんなに俺の情報収集能力が信用出来ないのか?」
ある日の昼下がり。
未だ冬の寒さが残る春前の廃倉庫に、その二人はいた。
一人は白い髭のついた褐色のマスクを首に掛けている、赤と黒のオッドアイに白髪赤メッシュの少年。
もう一人は濃い青の髪をオールバックにした青年だ。
少年は吹き抜け仕様に建てらてた倉庫の二階の手摺に座っており、青年は回転式の椅子に腰掛け少年の方を向いている。
だが実のところ、少年と青年と言っても歳は一つしか変わらないのだ。
少年が幼く、青年が大人びて見えるだけである。
「いや、そういう訳じゃないよ? でもそれがホントだったらとってもワクワクするじゃない?」
少年が左耳に着けている紅いピアスが光を反射する。
ニコニコと絶え間なく笑い続けている少年に、青年は苦笑した。
「そう言うと思った。だからこの事をお前に話したんだ」
「流石アキちゃん! ボクのことよく分かってるね!」
「それにしても、まさか“青霧”の序列一位である『蒼炎』がよりによってそんな所へ行くとはねえ……」
青年が口を開く。
「お前も行ってみれば? 丁度『蒼炎』と同い歳なんだろ? 幸いまだ手続きは間に合いそうだし」
少年はそれを聞き、益々笑みを深める。
「それ、いいねぇ。うん、そうしよう! ボク、決ぃ〜めたっ!」
そう言い手摺から跳び降りる少年。
少年の羽織っている左右白黒のパーカーが翻る。
だがその動作には一切の無駄が無く、足音は疎か、布が擦れる音も皆無であった。
「学校かぁ。楽しみだな!」
少年……『アビス』はふふっと笑いを零した─────
─────「あああああアアアアキちゃん! どうしよう寝坊したぁ!!」
「おおおおおおおおおおおお落ち着けややや弥生! まっまだ間に合う筈だ!」
「わあ。自分以上に取り乱してる人見ると落ち着くってホントなんだね」
待ちに待っていたハズの入学式に限って寝坊してしまったボク達は絶賛準備中です。
「でも残念だけどもう8時23分なんだよねぇ。8時20分から入学式だからもう完全に遅刻だね!」
ボクは笑ってアキちゃんにサムズアップをする。
「呑気に話してる場合じゃないぞ弥生! 準備しろ!」
「酷いなぁアキちゃん。ボクはもう終わってるんだよ?」
「はっ?! 早っ!! ちょっと待ってろ、あと40秒で行けるから!」
遅いなあ、アキちゃん。
「うし! 早く行こう!!」
「あれから2分は経ったけどね」
「気の所為だ」
家を出たボク達は建ち並ぶ家の屋根の内一つに跳びのる。
「にしても、お前髪の毛と目、全部赤にしたんだな」
「ん。かっこいい?」
「かっこいいぞ」
呑気な話をしながらも家々の屋根の上を駆け抜ける。
その速度は車を軽く越える程。
ついでに話すと今の格好は赤髪赤目で紺のブレザーの下に灰色のパーカーを着ている。
勿論耳元には紅いピアス。
(これだけは外せないんだよねぇ。これがボクにとっていかなる障害になろうともボクはこれだけは手放さない。例え──息絶えても、ね。それにしても)
「赤、か。久しぶりだなぁ……」
「……? 何か言ったか?」
「んーん。なにも? ……っと、見えてきたね」
「そうだな」
見えてきたのは城のような大きさを持つ第一異能学園。
何度か学園の前を通ったことがあるが、いつ見てもその大きさには感心させられる。
「ここからは目立つと思うから普通の速度で走るか」
「だねー」
人気の無い路地裏に降り、人並みの速さで走る。
ボク達が今日から通うのは第一異能高校だ。
はっきり言ってしまうと、異能学園に通うのは大体がお嬢様やお坊ちゃん、つまり金持ちばかりである。
ならば金持ちでない人はと言うと、それぞれの地区に幾つか学費の安い学校があるのでそこに通っている。一般社会でいう、公立と私立のようなものだ。
異能学園は分かりやすく年齢別に分けられており、初等部、中等部、高等部の三つで構成されている。
しかし、時を経て段々広くなっていく異能都市に学園一つでは不憫に思った異能力者は地区ごとに学園を分けた。
一区には第一異能学園を、
二区には第二異能学園を、
三区には第三異能学園を、
四区には第四異能学園を、
五区には第五異能学園を。
そして年に二度、その第一〜第五異能高校では闘技大会というものが開催され、学園同士で競うのだが……それは学園でも説明があるだろう。
「着いたな」
「着いたね!」
目の前に立ちはだかる大きな校舎。
かなり都会なこの都市の東部にそびえ立つ第一異能学園は、自らを強く主張するようにそこに建っていた。
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