2月26日 深淵に潜む

古来より海には神様がいるとか、魔物が棲んでいるとか言われてきたわけですが、最近になってきちんと科学的な説明がなされるようになりました。

例えば日本各所に「赤い髪を持つ不思議な魚が現れたら漁をやめ、すぐに陸へ上がれ」という言い伝えがあるそうです。それが現れたら海が荒れるのだとか。その不思議な魚、リュウグウノツカイなんじゃないですかね。長い背びれは赤い髪のようにも見えるし、深海魚である彼らが船から目視できるくらい上層を泳いでいるということは災害を感知したからかもしれません。

同じような話はイタリアにもあります。「海の深淵に棲む」とされるその怪物は、頭から発光する触手が生えていて、大きな口の中には夥しい数の鋭い牙が並んでいる……そう、チョウチンアンコウです。


深海魚は奇怪な見た目をしているので化け物扱いされたり、反対に神格化されやすかったんでしょうね。

そんな話をイタリア人の同僚と話していました。彼は納得したようでこんな昔話を聞かせてくれた。


「なるほどね、大体が『海に入る時は気をつけろよ』っていう教訓めいた話だもんね。そっかそっか。じゃあ小さい頃僕が見たあれも深海魚だったんだな。昔よくおじいちゃんと浜辺で貝がら拾ってたんだ。その時に一回だけ変なもの見てさ……波打ち際でバタバタしてる、最初は小さなイルカだと思った。近づいてよく見てみると、人間の手だった。でもつるんとした表面で、グレーっぽい色だったな。そう、イルカみたいな。でもちゃんと五本指があって、それがわさわさと動いてたんだ。つかもうとするとピースサインみたいに、こう人差し指と中指だけ伸ばして、その2本で地面を這うようにして海に帰って行ったよ。おじいちゃんは『人魚の手が出た』とか言いながら僕を連れて慌てて家に帰ったんだ。その後すぐに大雨が降ってさ。海もかなり荒れたみたいだよ。そうか、あれも深海の生物だったんだなぁ」

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