第38話
商店街を抜けてから、暫くした所で足を止めて後ろを振り返る。
どうやら撒けたようで、誰も後をついてきてはいなかった。
戻れば、また怒られるのだろうか。問題を起こしたと、どんな時も紅葉は責められてばかりだ。
いつも紅葉の話を聞いてもらえずに、一方的に悪いと決めつけられてきた。
それが辛くて、苦しくて。自分自身に反発をして、周囲を遠ざけるようになった。
好かれようとするから苦しくなる。
だから、自分から周囲に興味がないふりをしたのだ。
期待をした分、裏切られた時が辛くて、信じていた分、心が張り裂けそうなほど苦しくなる。
だから、いらないふりをした。
欲しくないふりをした。
普通を知らない自分を守るために、普通なんていらないと、好き勝手に生きることでしか自分の心を守る方法を知らなかったのだ。
誰も信じてくれないから、そうすることでしか紅葉自身を守ってあげられなかった。
「あ……」
いや、違う。一人だけ、どんな時でも紅葉の味方をしてくれた人が、一人だけいる。
彼女だけは、紅葉を見放さなかった。
一緒に成長をしていこうと、手を引いてくれた。
紅葉の心を、守ろうとしてくれた。
「彩葉……」
彩葉は、信じてくれるだろうか。紅葉の言葉を信じてくれるだろうか。
道端にしゃがみ込んで、両手で自身の顔を覆う。
もし、軽蔑されてしまったら、今度こそ紅葉は生きていけないような気がした。
一人蹲っていれば、聞こえるはずのない声が聞こえて、恐る恐る紅葉は顔をあげた。
目線の先には、いるはずのない彼女の姿がそこにはあった。
「なんで……」
思わず、ぽつりと言葉が零れる。どうしてここにいるのだろうと、そればかりが脳裏に浮かぶ。
「彩葉……なんでいるの」
「玉那覇くんから連絡があったから、探してたの。よかった、見つかって」
「……班行動は?」
「私たち、やちむんの方にいたから。近くにいて本当に良かったよ」
彩葉の力を借りて、その場から起き上がる。未だ目線を彷徨わせていれば、優しく頭を撫でられた。
「話聞いたよ。絡まれていた女の子たち助けてあげたんでしょう?」
「……信じてくれるの?」
「当たり前じゃん。やっぱり、めいちゃんはヒーローだね」
嫌味でもお世辞でもなく、それが彼女の本心から来る言葉であることは表情を見ればわかった。
どんなときも、紅葉の肩を持って、守ろうとしてくれる存在。
手を差し伸べて、歩幅を合わせて歩こうとしてくれる存在は、紅葉にとって彩葉だけなのだ。
「……ありがとう」
「いいって。ほら、戻ろう?皆心配してるよ」
「けど……」
彩葉は信じてくれても、他の人はどう思っているのだろうか。
やっぱり所詮は不良だと、実行委員長のくせに問題を起こすなんて……と軽蔑をされてはいないだろうか。
あの時のように、紅葉の言い分を聞かずに一方的に悪いと決めつけられて、これ以上心に傷を作ることになるのではと恐れてしまう。
「もしかして、めいちゃん怖い?」
素直に、首を縦に振る。
怖いのだ。
誰かから軽蔑をされることも、自分自身を蔑ろにされることも。
本当は全部怖い。
臆病だからこそ、見た目を着飾って、鎧を被り、自分自身を守ろうとしていた。
「大丈夫だよ」
「でも……結局問題児は問題児だって……彩葉のおかげでせっかく変わって来てるのに」
「そうだよ。めいちゃんは変わった……もう、今までのめいちゃんじゃないでしょう?めいちゃんが本当はどんな人なのか……皆、もう分かってるから」
手を取られて、優しく引かれる。怖がっている紅葉を安心させるかのように、その力は強く、暖かかった。
きっと、紅葉を探すために走り回って、体温が上がっているのだ。
「もし……あたしが皆から白い目で見られたらさ」
「私が皆に言うよ。本当のことも、何が起こったのかも。めいちゃんのために、頑張るから」
だから、戻ろう?と囁かれて、勇気を出して、足を踏み出す。
未だ不安は拭いきれないけれど、彩葉がいれば大丈夫なような気がしたのだ。
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