第31話
議題も無事に決定して、ようやく会はお開きとなる。紅葉も立ち上がって帰ろうとすれば、服の裾を掴まれて、動きを止めた。
「めいちゃん……さっきはありがとう」
「別にいいよ、あれ以上仕事押し付けられたら、彩葉が壊れちゃうって思っただけだし」
二人の仲は修復しきれていないというのに、根が真面目な彩葉はお礼を言わないと気が済まなかったのだろう。
思ったことをそのまま伝えるが、それ以上二人の間に会話が流れることがない。気まずい沈黙が続いて、気づけば教室内にいるのは紅葉と彩葉だけになってしまっていた。
「じゃあ、また今度ね」
鞄を掴んで立ち上がろうとする彩葉の手を、今度は紅葉が掴んで引き止める。別に言いたいことがあるわけではない。
いまだ紅葉の感情はまとまっていないし、彩葉が納得をいく言葉をプレゼントできるわけでもない。
それでも、もう気まずいのは嫌だったのだ。
「めいちゃん……?」
「いっぱい、考えたの」
言いながら、必死に思考を巡らせる。何を言おうか、何ていえば彩葉に伝わるのか。
どれだけ考えても、上手い言葉は出てこない。結局、思ったままに言葉を連ねてしまっていた。
「彩葉にドキドキしたり、他の子と話してるの見るとモヤモヤするのなんでだろうって……たくさん考えて、年上の人にも相談したりして」
「……うん」
「たぶん、答えは一つしかないんだろうけど……まだ、自信持って言えない。中途半端な、そんな気持ちで彩葉に向き合ったらすごく失礼だから……だから、もうちょっと待って欲しいの」
自分で言っておいて、何て自分勝手なのだろうと軽蔑してしまう。気持ちに整理がつくまで待って欲しいなんて、どこの少女漫画のヒロインだと悪態をついてしまいたくなる。
今まで、優柔不断な少女漫画のヒロインたちをどこか冷めた目で見ていたというのに、自分が似たようなセリフを口にする日がくるなんて思いもしなかった。
「こんなの全部初めてだから……よく、分かんないんだけど、たぶん……もうちょっとで、ちゃんと目見て好きって言えると思うから」
恥ずかしさで、頬を真っ赤にしながら必死に言葉を紡いでいく。
「……仕方ないな」
優しい彩葉の言葉にホッとして顔を上げれば、素早く後頭部に手を添えられる。そして、彼女が何をしようとしているのか理解するよりも早く、唇を重ねられてしまっていた。
「え……」
何をされたのか気づいた時には、すでに唇は離れてしまっている。そっと、盗み取るような口づけに、紅葉は気抜けた声を零してしまっていた。
「もうちょっと、待ってあげる。けど、私も遠慮しないから」
「手加減してよ……」
「やだよ。めいちゃんが気持ちに整理が付くまで待つけど、私もそこまで紳士じゃないからね」
いたずらっ子のように顔を覗き込まれて、その表情も可愛いと思ってしまう。
少しずつ、心は彼女の方は落ちていってしまっている。きっと、あともう少しで自信を持って言える時が来るだろうと、紅葉はぼんやりと考えていた。
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