第29話
週明けに学校へ向かえば、学力テストの結果が張り出されていることに気づいた。一位はもちろん彩葉で、紅葉も自分の名前がないかを探す。
「あ……」
74位の隣に自分の名前を見つけて、思わず声を上げる。前回よりも20位以上も上がっている。97位には初の名前が書かれていて、二人とも勉強の成果が反映されているのだ。
そのまますぐに教室に向かうが、あの時みたいに彩葉の姿は無かった。
「凄いね、めいちゃん」と紅葉以上に喜んでいる彼女が出迎えてくれるのではないかと、心のどこかで期待してしまっていたのだ。
都合の良すぎる自分の脳内に辟易する。紅葉のせいで怒らせているのだから自業自得だというのに、やはり気分は沈んでしまっていた。
こんなのもう嫌だ、という想いがこみ上げてくる。彩葉と一緒にいられないことが苦しくて仕方ない。
何気ない会話をして、くだらないことで笑いあえていた日々が、酷く遠いもののように感じてしまう。
その日のホームルームは、来月に行われる修学旅行のクラス実行委員を決めるための話し合いが行われた。
沖縄に二泊三日で、旅行に行った経験がほとんどない紅葉は酷く楽しみにしていたのだ。
「誰か、やりたい奴いるか?」
担任の声かけに、答える者はおらず、場が静寂に包まれる。
皆、誰か手を上げろと無言のプレッシャーを放っているのが分かった。
せっかくの修学旅行に、責任の伴う係を担うなんて誰だって嫌だろう。
結局誰も立候補者は現れず、公平でくじ引きで決めることになった。
「えー当たったらどうしよ。めんどくさそうじゃない?」
「あたし、運良いから平気」
流風の言葉に得意げに返事をして、正方形の箱の中から一枚紙を取り出す。最後の方だったため、数枚しか紙は残っていなかった。
その場で折りたたまれていた紙を開けば、「大当たり」という字がデカデカに描かれている。
「え……」
固まる紅葉を不審に思ったのか、すぐ側にいた流風が紙をのぞき込んでくる。
そして、おかしそうに吹き出してしまった。
「まじで運良いじゃん!四十分の一だよ」
かなり声が大きかったせいか、恐らくクラス中に聞こえてしまっていただろう。一斉に担任とクラスメイトの視線が紅葉に注がれる。
よりによってお前か、というクラスの総意が、無言の空気間でも伝わってくる。
紅葉だってまさか本当に引いてしまうなんて思わなかったのだ。
「えーっと……じゃあ、うちの実行委員は鈴木ってことで」
担任が戸惑いを隠さない様子で、黒板にでかでかと鈴木紅葉と書き連ねてしまった。
まばらな拍手が沸き起こり、クラス中が微妙な雰囲気に包まれる。
くじで決めてしまった手前、いまさら「やりたくない」なんて言い出せるはずもなく、紅葉は修学旅行のクラス実行委員を担うことになったのだった。
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