第27話
それから、夏休みが明けるまでの間。
彩葉とは連絡はおろか、一度も会うことは無かった。
あちらからは当然連絡がくることもなく、かといって自分の気持ちに上手く整理がついていない紅葉から送るのも何か違うような気がしたのだ。
今、この不確定な状態で彩葉に会っても同じことを言われてしまうだけでまともに取り合ってもらえないだろう。
だからこそ、余計に一人で抱え込むが、今まで恋愛をしたことがない紅葉がその答えに辿り着くのは容易ではない。
たぶん、恋だと思うこの気持ちが、本当に恋なのかよく分からない。
彩葉との友情関係をはき違えているだけなのか、ただ単に執着しているだけなのかも、自分の気持ちなのにちっとも分からないのだ。
学校へ行っても、当然彩葉との間に会話が生まれることもなく、クラスが違うために疎遠さは日に日に増していってしまっていた。
寂しい気持ちを抱えながら、今の知識を測るために学力テストを受験させられる。範囲は今まで習ったものすべてのため、かなり広い。
しかし、夏休みにちゃんと勉強をしていたせいか、きちんと問題を解くことが出来ていた。
無事にテストを受け終えて、紙パックのジュースを片手に流風の席まで移動する。
随分と会うのは久しぶりだが、最後に会った時より、彼女の肌はこんがりと焼けていた。
「流風、めちゃ日焼けしてない?」
「家族でハワイ行ったからね。一か月。これ、お土産」
そう言いながら渡されたのは、日本でも有名なブランドのハワイ限定Tシャツだった。紅葉が好きなファッションブランドなため、喜びでテンションが上がってしまう。
「え、これいいの?めちゃ可愛いんだけど」
「めいのために何件か回ったからね。ちゃんと着てよ」
お礼を言いながら、力強く頷けば、流風が嬉しそうににっこりと口角を上げた。
彼女の実家はかなりお金持ちで、以前家に行ったときはその大きさに酷く驚かされた思い出がある。
両親のしつけも厳しく、その反動で高校生から不良のようになってしまったらしい。中学の時の写真を見せてもらったことがあるが、黒髪で清楚な雰囲気を纏い、今の彼女とは似ても似つかない。
けれど外見は変わっても根は良い子で、長期休みには家族との旅行に付き合ってあげているのだ。
お土産で貰ったTシャツを丁寧に畳んで鞄にしまい込んでから、紅葉は一人帰宅するために靴箱へ向かっていた。
初はバイトらしく、終礼がなると同時に教室を飛び出して行ってしまった。
上履きを自身の靴箱に閉まって、スニーカーを履いていれば、聞きなれた声が耳をかすめる。顔を上げれば、予想通りそこには他の女子生徒と楽し気に談笑する彩葉の姿が合った。
「彩葉それまじで?めっちゃ羨ましい」
「そんなことないよ。私だって……」
何の話をしているのかは定かではないが、随分と盛り上がっている。一瞬目が合ったが、何食わぬ顔で逸らされてしまう。
放課後は、いつも紅葉と一緒にいてくれたというのに。すぐに他の女の子を代わりにするなんて、いくら何でも心変わりが早すぎやしないか。
つい、唇を尖らせてしまう。本当であればそこは自分の場所なはずなのに、と子供の用にむくれてしまっていた。
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