第2話


 生まれながらに、ある程度人というものは分類される。


 生まれた環境、容姿。努力だけではどうにもできないことが、世の中には確かにある。十七年間生きてきて、鈴木紅葉すずきめいぷるはそのことを嫌というほど痛感させられていた。


 四限終わりの中休み。お腹が空いていて、早くおひるごはんを食べたいというのに、紅葉は担任に呼び出されて職員室で説教を食らっていた。


 「お前な、この前のテストも赤点だっただろ。見た目もそんなので、このままじゃ進級だって危ういんだぞ」

 「はぁ……」

 「何だその気の抜けた返事は。大体な、お前はいつも……」


 今月に入って何度目の説教だろうか、と考えながらなんとか欠伸をかみ殺す。

 職員室内にいる教師からの冷たい視線に、自分が下に見られていることを感じさせられる。


 金髪に短いスカート。黒目が大きくなるカラーコンタクトは明らかな校則違反だ。

 

 おまけに成績も悪く、一向に真面目に授業を聞こうとしない。影で不良だと陰口を言われていることだって知っている。


 この担任だって、内心紅葉のことを見下しているのだ。


 「とにかく、親御さんに一度連絡するからな」

 「どうぞご自由に」


 どうせ電話出ないから、と心の中で呟く。紅葉の態度が気に入らなかったのか、担任は話が終わりだと言わんばかりに自身のデスクへと戻っていった。


 ようやく解放された。意外と時間が経っていたようで、次の授業まで時間がない。僅かな時間で昼食を済ませなければと、紅葉は少し早歩きで教室へと戻った。


 あらかじめ買っておいたコンビニ弁当をビニール袋から取り出せば、仲の良い友人二人が声を掛けてくる。


 「めい、おかえり。どうだった」

 「全部赤点だから、親に連絡いくらしい」


 正直に答えれば、幼馴染の玉那覇初たまなはういがおかしそうに笑いだす。自分だって赤点ギリギリのくせに、まるで他人事だ。初とは小学校の頃からの腐れ縁で、似た者同士馬が合うのだ。


 「俺だってさすがに全部赤点は取らねえ。めいってやればできるのになんで勉強しないの」

 「だるいから」


 箸で弁当に入っている唐揚げを掴み取る。慣れ親しんだ味で、週に三回は食べているだろう。頬張っていれば、今度は駒井流風こまいるかに話しかけられる。


 流風は高校からの仲だが、紅葉と同じような見た目なためか直ぐに意気投合した。今では彼女がいる生活が当たり前という程に、仲を深めている。


 「めいらしいね。ね、補習いつから?」

 「今日」


 紅葉の返事に、更におかしそうに二人が笑い出す。「どんまいじゃん」とからかわれるが、そもそも紅葉は補習に行くつもりがさらさらなかった。


 赤点を取った生徒を対象に開かれる補習は参加必須とされているが、そんなの面倒くさいに決まっている。


 「普通にいかないし。ぶっちするわ」

 「だと思ったわ。じゃあさ、遊び行こうよ」

 「俺、遊園地行きたい。十八時から入園のチケットあんじゃん。それ行こうぜ」

 

 流風の提案に、すぐさまに初が乗っかる。放課後はいつも遊ぶかバイトをするかのどちらかだ。そんな生活で勉強をする時間が取れるはずもなく、三人とも赤点ギリギリを彷徨っているのだ。

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