DQN育成計画

ひのはら

DQN育成計画

第1話


 夕暮れ時。帰りの買いで配られた小さなカードを片手に、一人の少女が公衆電話の前に立っていた。

 

 以前、道端で拾った十円玉をギュッと握りしめている少女の表情は、その幼さに似つかわしくない不安な色をにじませている。


 受話器を取って、十円玉を入れた後、ダイヤルボタンを押す。間違わないように、ひとつひとつ。数コールが経って、すぐに電話口から応答の声が聞こえた。


 「はい、こども相談センターです」

 「えっと……」


 喉元まで言葉が出掛かるが、上手く言葉にすることができない。何と言えば、いいのか。何から言えばいいのか。何を話せばいいのか。沢山ありすぎて、まず何を言えばいいのか分からなかった。

 

 焦りで、じわじわと瞳に涙が浮かび始める。そもそも、この人たちに話して本当に助けてもらえるのだろうか。


 先生は困ったことがあれば電話をしろ、と言っていたけど、もしここで話したことがお父さんに伝わってしまったら。いまよりもっと殴られてしまうのではないか。

 

 「今日はどうしたのかな」


 聞こえる声は凄く優しいものだというのに、様々な不安に駆られているせいで、咄嗟に受話器をもとの位置に戻してしまっていた。


 後悔した時にはもう遅く、たった一枚しかない十円玉はもう返ってこない。


 まだ小学二年生だった頃のこの記憶は、十七歳の高校二年生になった今でも思い出す。あの時勇気を出していれば。必死に助けてと訴えていれば、何かが変わったのだろうか。


 たらればなんてくだらないと分かっているけれど、どうしても考えてしまう。それはきっと、今の生活に満足していないからだということを、紅葉めいぷるだって心のどこかで分かっているのだ。

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