第9話 エピローグ

 あれからかなりの月日が流れている。


 相変わらず、俺はロキとルキに振り回されて過ごしている。だが、不思議とこの状況を気に入っている。時々来る暗殺者は煩わしいが、俺が魔王城にいない事が多いため、遭遇する事はほぼない。


 もっとも、そのために魔王の配下がその相手をしているのだが――。


 しかし、なぜそんな状況になってしまったのか?


 大体見当はついてはいたが、魔王城下で猫屋の店主に再会した時に、それが明らかとなった。


 彼曰く。新しい勇者召喚ができずにいる国王は、俺の『存在を消す』ことをあきらめてないらしい。俺の引き渡しを要求する一方、裏では暗殺者を送り込んできている。


 当然、魔王はそれを拒否しているし、たまに紛れ込んでくる暗殺者は、魔王の配下が適当にあしらっているようだった。躍起になっているあの国の国王は、すでに俺しか見えていないようだった。


 『魔王を倒すための勇者はもういらない』という事も、気付いていないのだろう。


 だから、ルキとロキの願いを叶えるために魔王が引いた通商路は放置のまま。ただ、そのおかげで元々外見もそれほど変わらない魔族と人族との交流は簡単に進み、今では魔王城下に人間も出入りしている。


 さすがにあの国に出店している魔族はいないが、それでも魔王国の物はかなり出回っているらしかった。


 人と物が交流する事で、互いに良い影響を受けている。猫屋の店主はそう言っていた。


 そして、『もう勇者は用済みやな。猫の手は借りたいけどな』とも言っていた。


 ただ、勇者の存在が消えているわけではない。意外なところで『ゆうしゃ』はその存在意義を残している。


「いくよ、ゆうしゃワガナワ! こんどはあっちをぼうけんだよ!」

「ぼうけん! ぼうけん!」


 勇者ではなく、優者として、この子達の冒険を見守るために。


〈了〉


 

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魔王の孫 あきのななぐさ @akinonanagusa

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