『あなたがぐっすりに眠っている間に、解析してみたわ』


 こともなげにシィはそういって、一枚に紙を手渡してくる。

 何が書いてあるのかさっぱりだが、とにかく解析結果は良好のようだった。


「大体のことが分かったのか」

『いいえ、あくまで一部分だけが解析できただけよ。あとはブラックボックスばかりだわ……見て、これが今使える機能の部分』


 そういって指をさしながら、シィは一つひとつ丁寧に教えてくれた。

 簡単に言えば、悪魔の力を自分のものにする能力、物体の転送、異空間を利用した収納機能。この三つだそうだ。

 悪魔をぶっ殺せば殺すほど力が漲り、リロードの手間が省け、かつ大量に弾薬等々を持ち込むことができる、というわけだった。


「随分と助かる力ばかりだ」

『これでもあくまで一部分よ。初代悪魔王の時代は、こんなものではなかったようね。もっと強かったみたい』

「とんでもないものを、俺は着込んでいるんだな」

『……過去に、悪魔たちがこの鎧を着ようと躍起になっていた時代があったわ』

「そんな時代が……」

『結果的に全滅して、封印することになったけどね』

「……前の持ち主はどうなったんだ?」

『初代悪魔王と相打ちになって、消滅したわ』

「消滅?」

『あたしはまだ生まれていなかったから、話だけなんだけど、まるで役目を終えたかのように消え去ったみたい』

「……俺は大丈夫なのか?」

『あなたの役目は、悪魔王を倒すことじゃないでしょ』

「俺のトイレに平穏を、だな。そんなんで消え去るとか勘弁してくれ」


 二人して笑う。

 きっとそんなくだらない理由で、俺は消えることはない。

 逆を返せば。

 そんなくだらない理由で使われるこの鎧は、少し可哀想にも思えた。

 だが、すまない。

 俺は存分に使わせてもらうぞ、スペリオルアーマーよ。


「……この右腕は、どうだったんだ?」

『ごめんなさい、さっぱりわからないの……元はデーモンテックピストルなのは解析結果で出てきたんだけど……それ以上のことは』

「……ガンサーは、この力を正しく使えるようになれ、と言っていた」

『正しく、ね……』

「形状変化とかできないもんかな、元がピストルなら……」


 そういって、銃をイメージして腕を伸ばした。

 すると右腕が大きくうごめき、その形を変化させていく。


『ベン!?』

「いや、大丈夫だ。これは……そういうことかもしれん」


 やがて、禍々しい大砲のような形となって、動きを止めた。

 時折に脈打ち、所々に赤と黒の光の線が輝いている。


『これは……もしかして』

「俺のイメージを、具現化してくれるらしい」

『随分と、仰々しいピストルね』

「もっと威力のあるものが欲しいと、思ったのがいけなかったようだ」


 元に戻れと考えれば、一瞬のうちに、元の赤黒い右腕に戻る。

 随分なお色直しをしたもんだ。


『これで、右腕の謎が一つ増えたわね』

「同時に新しい力だ、これで目的を果たしやすくなる」

『……何か異常があったらすぐに伝えて。こっちでも色々と資料を漁ってみるわ』

「ありがとう、シィ」

『あたしは戦えない分、他のことであなたを支えたいの。礼はいらないわ』

「それでもだ。君がいなければ、俺は戦うこともままならなかった」

『……ベン』

「どうした?」

『あたしの心の整理がついたら、必ず、全てを話すわ。叔父のことも、あたしの復讐のことも』

「……無理はしなくていいぞ」

『駄目よ。あなたがこんなにボロボロになって戦っているのに、あたしが黙り続けて協力してもらうだなんて、あなたにとって不公平よ』

「それでも俺は構わない。俺は、そういう男だからな」

『……お人好し』

「よく言われるよ」

『……次の作戦、いける?』

「もちろん」


 シィは、次の作戦の説明をはじめた。

 俺はこの戦いの果てにある平穏を願いながら、その作戦を聞いていった。

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