「……シィ」

『どうしたの?』

「敵が手強くなった」


 先の戦い以上に楽になると思っていた戦いは、先ほどの倍以上に、苛烈さを増して襲い掛かってくるようになった。

 最下級の悪魔たちも銃を持ち、下級、中級にいたっては専用の鎧を身に固めて襲うように変わってきており、数も先ほどの何十倍も増していた。

 いくらスペリオルアーマーを着込み、強力な右腕の大砲を利用しても、相手するにはあまりに限度がありすぎる。

 俺は、どうなっていても、人間だからだ。

 まあそれでも、ガンサーほどじゃないので何とかなっている。


「急に強くなった理由は、大体察する」

『滅ぼされたくないって思ったのね。まさかスペリオルアーマーを着れる存在が来たんだもの、体制は大きく変わるわ』

「着ないほうがよかったんじゃないか?」

『まさか。途中でミンチになっていたわよ、ベン』

「……やっぱり、そうなんだな」


 なんといえばいいのだろう。

 強さを実感できているようで、実感できていないのは疲労のせいだろうか。

 あれだけの数の悪魔を相手して疲れて痛い程度で済んでいるのは、強くなっている証明に、なっているのだろうか。

 そんなことさえ思ってしまう。


「シィ。俺はガンサーに勝ちたい、これ以上の力を求めたいんだ」

『……叔父は全力を出していないわ。あなたが生きているのが何よりの証拠』


 やはりそうなのか。

 ガンサーは戦いの前に力を測るような、そんなことを言っていた気がする。

 手を抜かれていた訳か。


「……悔しいな、あれでも本気じゃないとは」

『正直言うと、あなたがおかしいのよ。ベン』

「そうなのか?」

『あたしと契約して悪魔の力を手に入れているとはいえ、スペリオルアーマーもなく叔父と殴り合える時点で、あなた、人間やめてるわ』

「……誉め言葉か?」

『最大級の、ね』

「ガンサーは、もしかしなくても、相当に強くて偉い奴なんだな?」

『力を是とする、この悪魔の世界において、叔父は上から数えたほうが早い存在よ』


 そんな相手と殴り合えた。

 手を抜かれていたとしても、悪魔の力を持っていても、右腕が悪魔と化していても、生きて、あそこまで殴り合えた。

 人間の俺が。


「……シィ」

『なに?』

「今回の目的地は、俺をさらに強くできるんだな?」

『そうよ』

「……よし、迅速に行く。案内を頼む」

『急にやる気が出たけど、どうしたの?』

「気持ちの問題さ。俺が中々できるやつだって、再認識しただけだよ」


 俺はそう言って、右腕の調子と左手に持つショットガンを確認する。

 準備は、これくらいのものだ。

 あとは呼吸を整えて、先に進むだけだ。


「……行こう」


 足取りが軽い。

 俺は、新しい力を求めて、その歩みを速めた。

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