(なんて力だ!スピードも今までの悪魔とは全く違う!)

『どうした!その程度か、戦士よ!』


 俺は、苦戦していた。

 赤色の鳥のような悪魔は、その体躯から見合わないほどの速度で動き回り、飾りは出ない翼で飛翔しながら、俺の攻撃をすべて捌き切っていた。

 対して俺は、相手の攻撃を間一髪でかわすこともできず、ひたすら、弄ばれているかのように右に左に吹き飛ばされては、打ち付け、血を流し、傷を増やした。

 奴の銃はグレネードランチャーのように爆破する弾丸を射出し、杖は雷や炎、氷などを生き物のように操り、襲わせてくる。

 攻撃するスキがどんどんなくなっていく、このどうしようもないジレンマに、俺はどうすることもできなくなっていった。

 コンテナに、壁に、ベルトコンベアーに、遺体に、武器に、破片に、ありとあらゆるものが体を打ち付け、容赦なく意識を失わせようとしてくる。


『戦士よ!くたばるのはまだ早いぞ!その銃の真価を、見せてみろ!』

「……やかましい野郎だ!」


 怒りが、沸いてくる。

 ふつふつと、煮えたぎってくる、その目に見えそうなくらいマグマのごとき怒りが間違いなく俺の中で生み出されつつあった。

 そして、その怒りは、目に見える形へ、伴っていく。


「!?……これは」


 赤く光る俺の肉体と、ピストル。

 先ほどまで適度にうごめいていたそのピストルが、今や心臓のごとく脈動をうち続け、俺に何かを訴えかけている。

 わかる。

 わかるぞ、その怒り。

 お前も、辛抱ならないんだな?

 理不尽に始まり、今もまた、謎の理不尽に、苛まれている、この状況に。

 そうだ、怒るんだ。

 俺とお前で、ぶちのめすんだ。

 あの野郎を叩き落そうぜ!


『……おお!』


 赤い鳥野郎が感嘆の声を漏れ出していた。

 光が増していく。

 そして、光が収まればピストルが大きく蠢く肉の塊になった。かと思えば、それは俺の右腕に食らいつき、もぞもぞと内側に侵入してくる。

 だが、悪い気はしない。

 むしろ望むところだった。

 俺の右腕が変質していく。

 一体化していく。

 光が収まった。

 今まさに、俺の右腕は、悪魔、そのものになっていた。

 赤黒く、脈動を打ち、絶えず赤い光を放ち続け、目に悪い。

 そして、溢れ出でる力が、何よりも心地よかった。


「……待たせたな、ようやくお前を、叩き潰せる」

『すばらしいすばらしいな、ニンゲンよ。正直に話させてくれ、俺は今、猛烈に感動している!』

「そりゃよかったな、そのまま、感動を胸に、くたばってみるか?」

『ははははは!それはできんぞ戦士よ!なぜなら俺は……』


 突然の目に見えない何かが、俺を吹き飛ばそうとする。

 突風でも吹かれたかのように立つことすらままならないその目の前で、悪魔が黒い光に包まれている。


『まだ、すべてを出し切っていないからなぁ!』

「……はは、いいじゃないか、それでもこれなら……」


 右腕を見る。

 より一層、その赤色の光を増していた。やる気満々であった。


「勝てる!」

『負けんぞ!』


     〇


 お互いが真正面から、武器も持たずに、まるで一閃の光のごとき速さで近づき、その右腕を大きく振りかぶり、よけることもせず、お互い殴りきる。

 そこから、遠慮なしの殴り合いが始まる。

 鉄がひしゃげる音と聞こえ間違えるような爆音と、血と、笑い声で、かつての工場が満たされていた。

 骨が砕ける音も交じり、くぐもった声が時折挟まれば、どうしたと奮い立たせる挑発が聞こえ、まだまだと悔し気に殴り合う音が、また聞こえる。

 幾度、時が過ぎたのか。

 大気が揺れ始める。

 赤と黒の光が入り混じろうとしては、弾け、周囲に散らばっていく。

 光の粒子は触れたものをより凶悪なものへと変質させた。

 悪魔の遺体が、進化をして、動き始める。

 それに気づいたのは、奇跡か、人間と悪魔、共にであった。


『……戦士よ、残念なことだが』

「ああ……どうやら、邪魔が入ったな」


 周囲を取り囲むは、赤黒い結晶で補足された悪魔の遺体たち。

 生きてはいないはずのそれらは、蠢きながら、ベンと赤色の悪魔へと近づいてくる。そんな光景に、思わずベンは笑った。

 

「随分と仕事熱心な奴らだ」

『……俺たちの力に充てられたようだな、皆殺しだ。いけるな?戦士よ』

「当たり前だ、俺は、この世界を、ぶっ壊しに来たんだからな」

『そういえばそうであったな、ふははははは!』

「……お前、名前は」

『ふむ? 俺の名はガンサー、だ。戦士よ』

「ベンだ……決着は、次にお預けか」

『そのようだな……』


 ベンは、ショットガンを構え、ガンサーは、杖を構えた。

 お互いの背を守りあうように立ち、群れをなす悪魔たちへ銃口を、石突を向ける。

 すでにボロボロではあったが、それでもなお、生きるという執念が目に見えて滲み出ており、湯気のように立ち上っている。


「頼りにしてるぜ、ガンサー。次は俺が勝つ」

『それは俺もだ、ベン。新たなる戦士よ、残念だが、勝利者は俺だ』


 堰が、きれた。

 雪崩れ込むように悪魔が、襲い掛かってくる。

 そして、吹き飛ばされる。

 その中央には、人間と悪魔が、笑いながら、戦っていた。

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