第30話 カバーストーリー4

「そうよね? 伊代君」

「え? あ、おう」



 俺は取りあえず一道に話を合わせた。


 一道は俺から速川に視線を移す。



「結果、遠回しに速川君の好意を断ち切ることができた。私にとってこれほど嬉しい誤算はなかったわ」

「そ、そっか……」



 恋叶わず破れてしまった速川の表情は、俯いてるせいでわからなかった。が、脱力した肩が代弁してくれていた。



「…………あのさ一道。カッコわりーんだけど、ケジメっつーことで、その、ここでちゃんと言わせてくんねーか?」



 しばらくして速川は顔を上げた。その表情は憑き物が落ちたように清々しく、男の俺でも惚れちゃいそうなほどカッコよかった。


 一生のうちで数回できりゃ十分な顔を……ったく速川の野郎、一皮むけやがって。


 友人の成長を目の当たりにしてつい嬉しこそばゆくなる。


 しかし一道は、



「それはここで改めて告白をするってことかしら? だとしたらやめて? あなたの自己満に付き合ってられるほど暇じゃないの、私」

「…………」

「…………他にはなにもなさそうね。それじゃ――行きましょ、伊代君」



 一道だった。


 速川は結果を受け入れた上でそれでも一道に直接伝えようとした。理屈じゃなく感情を選んだ。


 ただそれが受け手の一道にとっては単なる自己満にすぎなかっただけ。



「そ、そんな落ち込むなって速――」



 速川を慰めようと声をかけたが、途中でやめた。



「え、エクスタシィ……」



 何故かって? そりゃ速川、いや変態が場違いな顔して鼻息荒くしてるからだ。


 お前……そこまで重症だったんかよ。


 今のコイツを憐れんではいけない。だって『同情するならケツ叩け』とかガチで言われそうだし……。


 俺は速川を残して逃げるようにその場から去ったのだった。

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