第29話 カバーストーリー3

「まさか伊代君に雑学を教わる日がくるとは夢にも思ってなかったけれど……ア〇カンの話はどうでもいいわ」



 ついさっき合流したばっかのヤツがいたら間違いなく目ん玉飛び出させてただろうな。『い、一道さんなに言ってんのッ⁉』ってな感じに。


 だがしかし、ラブコメのヒロインに負けず劣らずのスペックの持ち主が、恥ずかし気もなく恥ずかしいセリフを口にしているってのは見ようによっちゃ素敵でもある……よそう、くだらないことを考えるのは。


 いけないいけないと俺は首を横に振って雑念を払い、続きを話そうとしている一道に耳を傾ける。



「速川君、あなたが私に好意を寄せてくれていることは知ってるわ」



 俺を睨んできた速川に、一道は「伊代君は関係ないわ」とフォローしてくれた。



「前々から気づいていたのよ、あなたの気持ちにわ。けれど私には応えられなかった……だからあなたが告白してきたら躊躇なく断ろうと思ってたの」

「ま、マジで?」

「申し訳ないけどマジよ。速川君には一ミリも興味がなかった」



 一道の無慈悲な拒絶を真面にくらった速川は悲痛な顔して沈黙している。さすがに同情するわこれ。


 しかし、人の気持ちが一ミリもわからないことでお馴染みの唯我独尊ゆいがどくそん女、一道真琴は表情一つ変えずに続ける。



「本来だったら速川君からの好意をきっぱり断ち切りまっさらにした後に伊代君に〝告白〟するつもりだった。けれどあなたが中々口にせずいい加減待ちくたびれたから私は先に進ませてもらったの……それが一昨日の土曜日のこと。あの日、私は伊代君に告白した」

「え、ちょ――」

「――最初、伊代君には振られたのよ、「ごめん」って。だけど不思議と、それが本心じゃないって、あの時の私は直感で思ったの。柄にもなくしつこくしてしまったわ……でもそのおかげあって知ることができたの。伊代君は速川君に相談を受けていて、立場的にどうしようもなかったことをね。だから私は伊代君に問いかけたの……あなたの本心を聞かせて、と」



 俺の言葉を遮って話し続けた一道はそこで一拍間をおいた。


 そして一道はおもむろに顔を動かし俺に視線を向け、



「俺も――一道さんのことが好きだ! 伊代君は顔を赤くしてそう応えてくれたの」



 肌を撫でるような優しい声音で嘘をついた。

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