第28話 カバーストーリー2

 いきさつもクソもないんですけれどもおおおおおおおおおおッ!


 俺は二人の間に割って入り、なおも偽りの恋人関係を続けようとしている一道をひとまず速川から遠ざけようと試みるが、



「――一道さんちょっとそこの隅で俺と話そうか、うん」

「や、やっぱり欲が抑えきれてないじゃない」

「いやちげーから! ア〇カンしようぜじゃないから! つか性交渉とかじゃないからッ!」

「……ごめんなさい、ア〇カンってなにかしら?」

「なんでそこは無知なの? あーえっとあれだよ、あのう……そう! サバ缶の古い呼びかたなんだよ! ほら、サバって漢字で書くと魚へんに青足して〝鯖〟ってなるだろ? だから今ではサバ缶と呼び親しまれてるが昔は普通にア〇カンで通ってたんだよ!」



 話は脱線、なのに熱弁、俺としたことがトホホ、な状態に。



「――伊代、悪いけどSMコントは後でにしてくれ」



 すると右肩に強い力が。振り返ると速川が冗談の通じなそうな顔して俺の肩を掴んでいた。



「別に、コントしてるわけじゃ――」

「そっか。んじゃわりーけどちょっと黙っててくれないか? ……俺は一道の話を聞かなくちゃなんねーからよ」

「お、おう……ごめん」



 速川の有無を言わさずな態度に俺は思わず尻ごんでしまった。


 ここで引き下がらなかったらそれこそ俺が望まない最悪な状況に陥ってしまう。いさかいごとは本気で勘弁、まだ緊張感があるだけの現状の方が好ましい。


 俺は後ろに下がって速川に前を譲る。


 とは言っても保留しただけにすぎない。どう転ぶかは――一道次第。


 あぁ……胃がキリキリしてしょうがない。カエルのように胃を吐き出して洗えるようになれたらな。


 などと若干現実逃避に走りつつ、俺と、それから速川は一道が口開くのを静かに待った。

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