カーティス家にて

 充分に発達した科学技術は魔法と見分けが付かない。SF作家のクラークが定義した三法則の一つである。漫画やアニメが好きで有名だった高校の物理の先生がドヤ顔で言っていたので良く覚えていた。

 何故、名前も顔もぼんやりとしか覚えていない先生のことを思いだしたかと言うと、今まさに実感しているからだ。

 この世界では電化製品というものがないらしく、かわりに魔力をつかった道具が幅をきかせている。だが、魔力は皆が扱えるものではないため、乾電池のようなものにお店の人が魔力を込めて使うとのこと。


「あくまでそれなりに裕福な家庭では、だけどね」


 ソファーで本を読んでいるフィオが説明を付け加える。今日も相も変わらず漫画に出てくるような中性的な美少年だ。

 何故フィオがいるかと言うと単純な話である。俺がフィオの家に厄介になっているからだ。


「へー、裕福な家庭だけなのか。まあ、何か凄そうだしな」

「ものにもよるけど、魔力をためる魔昌石が高価でね。どうしてもある程度高くなってしまうんだ」

「え? でも、学園の試験でくばってなかったか?」


 いくら回収するとはいえ、高価なものならば受けるふりをして盗む人も出てきそうだ。


「その疑問はもっともだ。―—ローランス学園が元々魔導士を育てるところだったというのは覚えているかい?」

「おう」


 魔力測定の時の会話を思いだしつつ頷く。


「その名残もあって、今でも魔導士と言えばローランス学園出身者と相場が決まっている。もちろん、学園関係者も優秀な魔導士ばかりだ」

「それが何の関係があるんだ?」

「魔昌石を加工する技術は魔導士がもっている、と言えばわかるかな?」


 考えるのがあまり得意ではない俺としては、できればわかりやすく説明してくれるとありがたいのだが、どうやら何かしらの回答をださないと教えてはくれなさそうだ。

 うーん、魔導士しか魔昌石を加工することができないってことなのだろうけど、それが盗まれても大丈夫な理由につながるのか?


「……うぬぬ、盗もうとしたら、わかる、から?」

「うーん、わかったとしても逃げられたら意味がないよね」

「ですよね」


 もっと単純なことだよ、とほほ笑みながら厳しいフィオ先生。答えはまだ教えてくれないらしい。


「単純、か。あー、じゃあ、盗んでも使えないから? ってそれはないか」

「正解」

「マジか!」


 単純と言われたので何も考えず適当に答えたらまさかの正解だった。

 言っておいて何だが、何故に使えない? 不純物でも混じっているのだろうか。


「でも、何で使えないんだ?」

「どのような加工がほどこされているかは秘密にされているからわからないけど、魔力の放出ができない仕組みになっているらしい」

「放出ができない? なるほど、そうなると盗む意味はないな」

「魔昌石の価値を支えているのは、魔力を溜めておけば、誰でも放出できるという点にある。つまり、少なくとも放出が簡単にできない状態だと価値は半減する」


 乾電池だって電力として使うことができなかったら需要は極端に減るだろう。

 加工は魔導士しかできないし、尚且つ学園には優れた人材が多くいる。技術というのはイタチごっこだと聞くが、追いつかれないだけの能力があるのだろう。


「学園が受験者に昌石を配るのには試験のためだけではなく、他にも理由がある」

「他にも?」

「アピールさ。盗まれても使うことはできない、それだけの技術を有していると言うことのね」


 まるで学園というより企業みたいな行為だ。どうにもローランス学園は教育の場と研究機関という二面性があるらしい。

 地球における大学も似たようなものか。


「色々とあるんだな」

「一般生徒でしかない僕らには関係ないことだけどね」

「それもそうだな。……とはいえ何だか学園が怖くなりそうだぜ」


 もちろん冗談だ。全くの嘘というわけではないが、特におびえる理由にはならない。


「ふふっ、そうだね。下手に機密事項とかを知ってしまったら消されるかもしれないしね」

「……ハ、ハハハッ」


 フィオが軽く怖い事を言う。何だか本当に怖くなってきたんですが。上手く愛想笑いができないし。


「はははっ、怖がらせちゃったかな。大丈夫だよ。そんな簡単に知ることができたら、そっちの方が問題だ」

「だ、だよなー! あー、良かった! びびって損したぜ!」

「でも、毎年謎の退学者がでるという噂が……」

「…………ハ、ハハハハハッ、ショセン、ウワサダロ」


 ドコニデモアルトシデンセツニキマッテル。


「もしかして、怖いのかい?」

「ば、馬鹿! 怖くねぇし! 全然、これっぽっちも、怖くないですー! 怖がらせられたら大したもんだっての!」

「心配いらないよ。消された生徒の記憶はなくなるから」

「ごめん! 俺が悪かった!! だから、その顔はやめてくれ!」


 フィオのような容姿の人が意味深な表情をするとどうにも信憑性が増して仕方がない。もはや内容よりもフィオの方が怖い気がしてきた。


「ハハハッ、ごめんごめん。良い反応をしてくれるからつい、ね」

「全く、やめてくれよな!」


 怒ったというアピールを込めて顔をそらす。ただの友人同士の冗談のつもりだったのだが、フィオはそう受け取らなかった。


「も、申し訳ない! 怒らせるつもりはなかったんだ!」

「え? い、いや、別に、本当に怒ってるわけじゃないから気にするなって」


 フィオの反応に慌ててフォローを入れる。


「そ、そうか。なら、良かった……」

「悪い、冗談のつもりだったんだけど、まさか本気にとられるとは」


 恥ずかしさからか頬を染め、視線をそらすフィオ。俺もどうしたら良いかわからなく、視線をさまよわせる。


「……すまない。実は、気の許せる友人というのが今までいたことがなくて」

「あ、ああ、初めてならわからなくて当然さ。気にするな。俺も気にしないから」


 何事も人は初めての場合上手くいかないことが多い、と個人的に思う。

 初については今はふれないでおこう。何かしら理由があるのだろうし。


「そ、そうか。なら良いのだけど」

「お、おう。まあ、これから慣れていけば良いさ。まだ友達になって一週間だしな」


 空気を戻すためにことさら明るく喋りかける。

 一週間前、フィオと知り合った日、合格のかわりに宿を失った俺を家へと招待してくれた。

 最初は入寮するまでの三日間ほどお世話になるつもりだったのだが、運が悪いことにすぐに住むことができる部屋は全て埋まっており、引越しの日取りが決まらない現状である。

 予定になかった四日目からは何か手伝えることがないかと聞いているのだが「フィオ様のご友人にお仕事など」と断られてしまう。最初は本物のメイドや執事にテンションがあがっていたのだが、最近では申し訳ない気持ちでいっぱいである。


「幸い、クラスも同じになることができたわけだし、気長にやっていこうぜ」

「ありがとう。君のような友人をもてて僕は幸せだ」


 俺達の学年はクラスが六組もあったのだが、運の良いことに二人とも同じであった。1学年1組、それが俺達のクラスだ。

 クラスメートは多い年代層はあるものの、いろいろな歳の人がいて何だか面白い。……日本ではみなかったような濃い人もいるが。


「俺もだ。あっ、ちょっと話変わるけど良いか」

「何だい」

「なんでもいいから、手伝うことはないか? 流石に結構な日数お世話になりっぱなしだしさ」


 俺が真面目に訴えると、フィオはまたかといった風な反応を示す。


「何度もいっているが、別に気にする必要はない。この通り無駄に部屋だけは余っているしね」

「そういう問題じゃないんだよ。何と言うか、落ちつかないと言うか……! 好意に甘えっぱなしなのはダメだと思うんだよ。俺、お金ないからせめて手伝いくらい」

「ふむ。ユーヤは結構義理がたいんだね」


 義理がたいというか、悪いことをしている気分になるのだ。働かざる者食うべからずって言うし。

 家で家事をやっている時は誰かやってくれないかな、と思っていたが、いざすることがないと落ちつかない。


「とはいえ、ユーヤに任せる仕事がないんだ。使用人は十二分にいるからね。彼らの仕事を奪うわけにはいくまい」

「至極もっともでございます……」


 反論の余地もない理由にガクッと肩を落とす。

 確かに使用人の方々の仕事を奪うわけにはいかないし、彼らより上手く仕事ができるわけでもない。かといって、今のままお世話になるのは気がひける。


「……あっ、じゃあこれを受け取ってくれよ」


 何かないかと考えていると初日に手に入れた魔昌石のことを思い出し、ポケットからとりだす。結構大きいし、それなりの値段がつくんじゃないかと思って大事に取っておいたのだ。

 だが、俺の取りだした魔昌石を見てフィオが目を見開く。


「はした金にしかならないかもしれないけど、お金になりそうなものがこれしかなくてな。……ってフィオ?」


 魔昌石をジッと見てかたまっているフィオに声をかける。すると、ハッとわかりやすいぐらい大げさに動き出す。


「……つ、つかぬことを聞くが、君はこれがどんなものかわかっているのか? いや、質問を変えよう。どうやって手に入れた」

「え? 学園の近くにある――っていっても手に入れた場所までは結構歩くけど――森で化け物に襲われてさ。そいつを倒したら落とした」

「学園の近くの森って……帰らずの森!? しかも、これだけの魔昌石を落とす魔物に襲われて平然と倒した、だと? いや、確かに素晴らしい素質の持ち主なのはわかる。けれど、いや、いくらなんでもありえない! 個人で倒せるレベルでは……! それこそ騎士団の隊長クラスでも……」


 俺の答えを聞いたフィオがブツブツと呟き始める。その取り乱し方は激しく、必死で自分の常識を保とうとしているように見えた。


「とりあえず、どうやって手に入れたかは置いておこう。今は先にあれをどうするかが先決だ。……すまない。少し取り乱してしまったようだ」

「い、いや、気にするな」

「それで良いのかい。そんな貴重な物を。君は知らないようだから言っておくけど、それは一週間ほどの宿代で収まるものではないよ」


 どうやら一旦考えるのをやめて、現状をどうにかすることを優先するみたいだ。

 良くわからないが、フィオの反応からするに俺はおかしなことをしているのだろう。良かった。相手が他ならぬフィオで。


「良いって良いって。俺が持ってても誰かに買いたたかれるのがオチだろうし」

「では、うちで買いとろう。……とはいえ、その魔昌石の価格となると、正直想像もつかない。父に相談してからで良いかな? 最低でもこの家と土地ぐらいにはなると思うけど」

「…………なんだってぇぇぇぇぇええええええええッ!!???」


 さらっと最後に付け加えられた言葉を理解するのにきっちり一秒かかった。そして絶叫をあげる。

 お金の額で言われたならば、基準が良くわかっていないどころか単位も知らないため、あまり驚くことはなかっただろう。なまじ、物で言われたためとてつもない額であることが分かってしまった。


「わかってはいたけど君はかなり世間知らずみたいだね。魔昌石の原石が高価なものだと言うことぐらい子どもでも知っていることだよ」

「面目ない……」


 世間知らず、というか文字通り常識がないのだが、どうしようもないことなので素直に謝る。

 信用が置ける人物ではあるが、いきなり異世界から来たためなどと説明するわけにもいくまい。


「自分で言うのもなんだけど、俺、常識にかなり疎くてさ。変なことを言ったり、やったりしちまうと思う。その時はフォロー頼む」

「……はあ、確かに自分で言うことではないね。しかも、助けを求めてくるところなんか尊敬するよ」

「ぐっ、確かにずうずうしい頼みだとは思うけど、俺にはフィオしか頼れる人がいないんだ。だから捨てないでー!」


 フィオの腕にすがりつき、情けない声で懇願する。プライドもへったくれもない行動だ。

 だが、こんな頼りになる友人の助けを借りるためなら、俺のちっぽけなプライドなど安いもの。


「何としてでも寄生してやる。……おっと、本音が」

「ユーヤ、君は真剣に頼んでいるのか、ふざけているのか、本気でわからない時があるんだが」

「真剣にふざけています」


 気を付けよろしく直立不動の体勢をとる。表情も真剣そのものだ。


「君のそういうところは好意に値するけど、時と場所は選ばなければならないね。僕はとても心配なんだが」

「大丈夫。空気を読むことに関しては自信あるから」

「……なるほど、わかっていてもワザとふざける時があると」

「なっ!? 何故に俺の思考をよめたとですか!?」


 この世界は魔法だけではなく、テレパシーのような超能力もあるのか!? た、確かに魔法があるならあってもおかしくないよな。


「読めるよ。まだ一週間だけど、君の性格は大体把握したからね」

「流石は俺の心の友、フィオ! ああ、僕は君みたいな友人を持って光栄だよ!」


 まるで舞台の一幕のように大げさに演技をする。

 どちらかというとミュージカル調な言い回しかもしれない。別に歌いだすわけではないけど。


「わかったわかった。君が非常識なことをした時は、フォローさせていただくよ。……もとより、困っている友人を放っとくわけないだろ」

「さんきゅー! いやいや、わかっているって。でも、念には念をというではないか」


 別に本気でフィオが俺のことを助けてくれないとは思っていない。これもコミュニケーションの一種だ。友人同士の軽いじゃれあい。

 あくまで勘であって確証があるわけではないけど、フィオはまだ完全に心を開いてくれているわけではなさそうだ。もちろん、まだ知り合って一週間じゃないか、と言われればそれまでなのだが。何となく気を許しているようで、許していないような、警戒しているとかではないのが幸いだ。

 とはいえ所詮は勘。朝の血液型占いより信憑性にかける。勘違い、というのが一番有力だ。少なくとも、話していてフィオが何かを隠している感じはしない。

 ただ、あまり接触を好まない傾向にはある。そこが不自然に感じるのかもしれない。個人差があることだし、今まで仲の良い友人がいなかったみたいなので、慣れていないだけだろう。


「っと話を戻そう。やっぱり、これは宿泊代としてうけとってくれないか」

「むっ、だから言っただろ。それの価値は宿泊代程度でおさまるものではないと」


 一旦落ちついたところで魔昌石を渡そうとするが、フィオは存外頑固というか融通がきかないらしい。この場合の頑固とは良い意味でだが。

 こちらが納得の上に提示しているのだから遠慮する必要はないのに、それ相応の対価を払わないと気が済まないらしい。そういうところは好きだが、今回に関してはいささか骨がおれそうだ。


「一週間程度の、だろ。寮の準備がいつになるかわからないわけだし。……ってか、入学前に改修終わっていないっておかしくないか? ……まあ、いいや。とりあえず、何から何までご好意に甘えるのは遠慮したい」

「一週間や一か月どころか、一年分としても高すぎる。卒業までの宿泊代でもお釣りがくるよ。……ああ、どうやら春休みにある生徒が暴動をおこしたとかで壊れたらしいよ。……そんなことより、気にする必要はない。友人として君を招待しているだけだから」

「百歩譲って金勘定で考えたら高すぎるとしよう。……え? まじ? その生徒はどうなったんだよ。しかし、危ない人もいるんだな。……それよりも、宿なしだった俺を泊めてくれた。一宿一飯の恩はお金に代えられない」

「百歩譲らずとも高いという事実があるだけだ。……。あくまで噂だが、謹慎程度で済んでいるらしい。……話を戻そう。君の義理がたいところは美点だと思うが、相手の好意に甘えるというのも覚えたほうが良い」

「わかったわかった! 高いのは認める。……理由があったにせよ、謹慎程度だとしたら恐ろしいな。……本題に戻ろう。好意にはもう十分甘えさせてもらった。いや、今後も甘えさせてもらう。そのうえでこれを受け取ってほしい」

「………」

「………」


 あいだあいだに学園の話を混ぜながら言いあう珍しいやりとりをしながら、徐々に感情が高ぶってきたのか、気付いたら互いに立ち上がり対峙していた。

 視線がぶつかりあう。この頑固者は譲る気が全くないらしい。

 何て頑固だ。普段のクールさはどこにいった。


「全く頑固だね。ユーヤは」


 沈黙すること約十秒。ふとフィオが口を開いた。

 自分が凄く頑固だと思っている人に君は頑固だね、と言われたらどう思うか。

 色々あるだろう。呆れる、笑ってしまうなどの、力が良い意味でぬける場合は良い。そこからヒートアップすることもなく、互いの意見を聞きやすくなる。

 だが、あまり良くないパターンでは、怒の感情が芽生えてしまう。このような言いあいになっている時点で、両者はわりかし感情型タイプであり、片方がイラッとしてしまうと誘爆よろしく、もう片方も燃え上がる。

 私わたくしこと藤堂雄也とうどうゆうやは、前者後者、どちらのパターンだろうか。……はい、カチンときました。


「へ、へえ、まさか、フィオに頑固とか言われるとはな。それはそれは相当頑固らしいな」

「おかしいな。その言い方だと、まるで僕がとても頑固みたいではないか」


 フィオがひきつった笑みをうかべる。声と目が笑っていない。おそらく俺も似たようなものだろう。


「まさか、気付いていなかったのか? じゃあ、教えといてやるよ。フィオ、お前も相当な頑固者だぜ」

「ハ、ハハッ、僕が頑固者だって? ユーヤは冗談があまり得意じゃないようだね。もっとわかりにくい嘘にしないと意味がないよ」

「おやおや、冗談に聞えましたか? 俺としては冗談のつもりは、全然、ないんだけどな」


 わかりやすく「全然」を強調してあげる。もちろん、フィオが理解しているのなんて百も承知だ。


「……悲しいものだね。意見の不一致というのは」

「……そうだな。だけど、譲れないものがある」


 この場面だけ切り取ると少年漫画にでもありそうな友とのバトルシーンといった感じだが、実際は子どもも子ども、小学生でもするかどうかのアホな言いあいであった。


「どちらが正しいか、決着をつけないとね」

「望むところだ」

「「勝負ッ!」」


 声が重なる。同時にポケットからとりだしたコインを空中へとはじく。

 所謂、コイントスだ。初めてやったときフィオがやたらと楽しそうだったので、何かしらあった時の決着方法として採用することにした。


「さあ、どっちだ?」


 左手の手の甲と右手でコインを受け止め、フィオへと尋ねる。

 コインの軌道を集中して見ていたフィオは迷っているのか即決しない。


「……表」

「……その心は?」

「迷ったら正面!」

「その心意気や良し!」


 フィオと出会って早七日間。天国の母さん、フィオは順調に俺色に染まっています。

 本人は気付いていないようだけど。執事長さんやメイド長さんという、生まれたときから見ている方々が感化されていると言っていたので確かだろう。


「じゃあ、答え合わせだ」


 ゆっくりと焦らすように右手をどける。

 こちらの世界では魔法なしでは作ることなどできない精巧な作りをした十円硬貨が姿を現す。

 描かれている絵は――。


「げっ」

「やった!」


 ――平等院鳳凰堂が描かれていた。


「はあ、まじかよ。これで五連敗とか……。そろそろ勝つだろ、普通!」

「ふふん、僕は日ごろの行いが良いからね」

「へぇへぇ、敗者には何もいう権利はありませんからね」


 負けたら勝者の意見に逆らえない。……とまではいかないが、今回のような軽い話の場合は敗者は素直に相手の言葉を受け取る。自然とそのような流れができていた。


「これで頑固者は雄也というわけだ。おとなしく魔昌石をおさめてくれ」

「はあ!? そっちも込みの勝負だったのかよ!」

「もちろん。……君だって、勝てばこの話を持ち出しただろ」

「そ、そそそんなセコイことしませんがな! 私めはあくまで頑固かどうかって一点のみで争うしょぞんでござりますそうろう……うっす。勝ったらおしつけるつもりでした」


 素直な俺は嘘をつけないので正直に答える。断じてフィオのプレッシャーに屈したわけではない。


「素直なような、素直じゃないような。良くわからないね、ユーヤは」

「俺は素直だっての。素直すぎるのが短所になるくらいに」

「自信満々にいうことではないと思うが」

「長所と短所は紙一重だって。ケースバイケース」


 もちろん、反省する部分はしないといけないが。


「そうだね。物事は一面性でははかれない。なら、人や状況によって長所は短所にもなりえる。逆もまた然り」

「そういうこと。結局はその人の主観によるからな」

「争いがなくならない理由の一つかもね……」

「かもな」


 出身を聞かれた時にベタな答えだが、東方の島国からやってきたとの設定にしておいた。嘘はつきたくないが、本当のことが一番嘘っぽいから仕方がない。

 ならば知らないかもしれないが、とここら辺の情勢を教えてもらった。

 どうやら今いる大陸は大きく分けて三つの国が力を持っているらしい。

 牽制状態にある三国は正面からぶつかり合うことはないが、小さないざこざ――とはいえ死人は合わせて千を超えることもあるが――は良くあったらしく多くの人が犠牲になった。

 近年は魔物の発生が十年前と比べて何十倍にも膨れ上がっているため、他国ともめ事をしている暇はないらしいが、虎視眈眈と機会をうかがっている。

 カルチャーギャップ……やはり、戦争は当り前のように平和を享受していた日本人からしたらテレビの向こうの話に聞えてしまう。


 ――だが、ここはもう日本ではない。


 考えたって仕方がないことだ。それこそケースバイケースの話であり、絶対的な最善など存在しない。

 ただ、漠然とした不安に胸を焦がすのだった。

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