第21話 妥協

現在


 そして俺とシルエは、互いに熱が積もりに積もって尚も店の中で口論を繰り広げている。

これでは、「彼女の服装を見てムフフとなっている他の男に嫉妬している彼氏」となんら変わらないとも思ったが、ここまできて後に引くわけにもいかない。


「じゃあどうしろっていうんですか!」


「だから、その服装は俺は嫌なんです!」


「理由を言ってください! そうすれば納得します!」


そんなの言えるはずもない。

シルエを独り占めしたいと言っている様なもんだ。

しかし、これでは埒があかない。

ここは俺が引くべきなのだろうが、どうも納得がいかない。

シルエは若干だが目が潤んでいる様に見える。


ちょっと待て、泣くなよ。

頼むから泣くなよ!


多分俺に理由もなく頑なに反対されたので、相当ショックだったのだろう。

ふと、俺は傍のハンガーに掛かってある一着の服に目が止まった。


「シルエ……、ならこれはどうですか?」


俺はその服を手に持ちシルエに差し出す。

その服は肩の露出はあるものの、シルエが今着ている様な肌の露出は控えめで、それの下位互換といった感じだ。

袖がなく、おそらく上から何か羽織るスタイルなのだろう。

色はシルエが今着ている白色と同じ。

若干クリーム色といっても良いのかもしれない。銀髪のシルエには似合いそうではある。

これなら俺も妥協できる。

いや、俺はシルエのお父か彼氏か!

そう自分に突っ込みをいれたくなったもの

の、俺はチラリとシルエの反応を見る。


「……」


シルエはしばらくその服を眺め、自分の服と見比べていたが、何かに気づいた様に口を開いた。


「ディアス様……」


「はい……」


「そんなに露出が嫌だったならちゃんと言ってください! わかりません!」


「っ!!」


バレたーーーーーーー!!!!

うん、そうですよね!

それは言葉にしなくても分かっちゃいますよね!

これはちょっとかっこ悪いぞディアス。

これでは、すごい下心があるか、免疫がなさすぎて言えなかった男子そのものじゃないか。


とはいったものの、シルエもやっと自覚したのか、今着ている服装を再び見る。そして俺の顔を見ると、カァっと顔を赤らめ、すぐさま試着室へと飛び込んでいった。


ん? でも、最初から自覚して選んでたんじゃなかったのか?


ふと店主をみると「フッ」と一笑された。


「いやぁー坊っちゃんもまだまだだなぁ」


「そりゃすんません」


「ハッハ! これからだ! これから!」 


このおっさんめ……。


シルエが試着室からでてくる。

先程の堂々とした振る舞いはどこに行ったのやら、俺の考えを理解したのか少し膨れている。

だが、ちゃっかりと俺が勧めた服を着てくれていた。程よく出た肩が俄然エロさを増していてさっきより魅力的でもあるが……。

まぁ俺もこれくらいの露出なら制御できる。

うん……しかしカワイイ……。

前から思っていたが、俺は普通に彼女のことが好きだし可愛いと思う。

なんなら本人に直接言える。

自信を持って言うことができる。

それくらい彼女は可愛すぎた。

まぁ俺が単に獣人族が好きだからというよもあるかもしれないが。


「ディアス様。これはどうですか……?」


まだイジイジしている。そんなところも可愛いのだ。


「ええ、とても似合ってますよシルエ」


「ッ!///」


俺の言葉を聞いた途端、すぐさま試着室のカーテンを閉めて閉じこもってしまった。


え、なんだよ今の反応は……。


「ヒューやるじゃん。坊っちゃん」


「ハハッ……」


店主からお褒めのお言葉がかかり、俺はそれを苦笑いで返す。

なんだか、今までにないシルエばかり目にしている気がする。

ふとシルエがカーテンの隙間から呟いた。


「ディアス様は何を買うんですか」


「あぁ、俺は店主お勧めのこの服にしようかと思います」


「ならディアス様も試着してください」


「えっ」


「私だけあんな恥ずかしい思いして……」


いやいや自分で勝手に暴走したんでしょーが。

まぁとはいえ、このまま試着せずにいるとまたトラブルが発生しそうではあった。

店主の方を見るとガッツポーズをしている。


はぁ。


しゃーないか。

俺はシルエと交代し試着室で着替えた。


「ディアス様! 素敵です!

わぁー赤髪とマッチしてますね!」


「あ、うんありがとう」


シルエは目をキラキラさせ、尻尾をヒュンヒュン振って俺を見ている。隣では店主がウンウンと頷き、俺に目配せする。

しかし、こうもシルエから褒められるとは思ってもいなかったし、何かしら仕返しされると思っていたのだが、もうシルエは機嫌が直ったのか少し興奮した様子で俺を見ている。


確かに自分でも悪くないと思った。

体にとてもフィットしており、いかにも冒険者らしいと感じる。極めつけは首に巻いているスカーフが、風で少し靡くのがいい雰囲気を醸し出している。


「ディアス様! それ、ぜひ買いましょう!」


「え、ええ」


シルエはすっかり機嫌を取り直し、店主に会計を言い渡した。


シルエの露出度高めの服を拒んだのは、惜しいことをした気もするが今の俺にはこれが最善の策だった。

そうして、俺は先程店主から勧められたものを、シルエは俺が選んだものを一着ずつ買った。

そうして、新しい服に衣替えをして俺とシルエは店を出た。


「あんがとよ! また来てくれや。

ただしもう痴話喧嘩はナシな」


あいも変わらずこの店主はからかってくる。

そういえば俺とシルエの関係を言いそびれていた。まぁでもわざわざ言うことでもないか。勘違いさせるだけさせておこう。


とは言ったものの俺はちゃっかり否定はする。


「だから違いますって!

……そういえばお名前をお聞きしてもいいですか?」


「あ?なんだサロスからなんも聞いてないのか。俺の名前はグリムだ。よろしくな坊っちゃん……じゃなくてえーっと」


「あ、ディアスです。ディアス・ラルドラク。

今日はありがとうございました! また来ますねグリムさん」


「おう!ディアス坊っちゃんだな!あと……」


おい、なぜ坊っちゃんをつける……。

俺はヒクッと苦笑いを浮かべたが、グリムはそんなことはお構いなしにシルエの方を見る。


「シルエ・ルーフェルトです。

あの……先程は申し訳ありませんでした」


「シルエちゃんね!

ハハッなぁに気にすんな!

久しぶりに楽しい客だったよ!」


グリムはカラカラと笑いながら俺たちの肩をポンと叩いた。


「よし! また来いよ!

まだ行く当ては決まってねえんだろ?

しばらくこの町にいるなら色々と相談乗るぜ!」


「はい、ありがとうございます!」


そうして俺とシルエはグリムの店を後にした。

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