第22話 旅の目的

 朝、目が覚める。


「ん……」


見知らぬ天井だ。


 ここはウィルの町にある宿。

俺とシルエは昨日グリムの店に寄った後、宿を見つけてここに泊まったのだ。


シルエとは別の部屋を取り、俺は少し古びたほのかに木の香りがする部屋で目が覚めた。

シルエはもう起きただろうか。

時計を見るとすでに8時をまわっている。

少し頭がボーッとする。

それもそのはず、昨日は少し大変だった。

もちろんシルエとのちょっとした口論もあったが、それ以降もちょっとしたトラブルがあったのだ。


「シルエー起きましたか?」


俺はシルエが寝ている部屋まで行くとドアを叩く。

反応はない。


「シルエー? 入りますよ?」


俺はゆっくりと扉を開けると、シルエが寝ているベッドまで足を運ぶ。

ベッドにはシャツ一枚姿で無防備に寝ているシルエがいた。

どうやら、寝ている間に着ていた服を無意識に脱いだらしい。

床には脱ぎ散らかした服が無造作に散乱している。

シルエは、俺が来たことなんてお構いなしにスースーととても静かな寝息を立てている。

こんな姿を見られたと彼女が知ったら発狂するだろう。


「シルエ、朝ですよー。起きてください」


俺はシルエの肩を揺らすも、全く起きる気配がない。

シルエはいつもなら6時には起きている。

そんな彼女が8時になっても起きていないのには理由があった。

それは昨日の夜まで遡る。


*******************

 グリムの店を後にした俺とシルエは今後の計画について、とある酒場で話し合っていた。


「これからどうしていきましょうか」


俺はハァとため息を吐きながらも、そばにあるグラスを手にして、酒とも似つかないよく分からない飲み物を口にする。


「そうですねぇ。資金にはそんなに余裕がないので、とりあえずお金を稼がないといけません。でなければ、旅をしようにも出来ないので」


「クエストですか……」


俺はチラリと壁にある掲示板を見て呟く。

資金集めといったら、冒険者に出ているクエストをこなすことが1番手っ取り早い。


「はい。私もそれがいいかと考えています」


「とはいえ、俺たちができるクエストってどのくらいのレベルなんでしょうか」


「ディアス様はすでに上級レベルの魔法を扱えますし、私もこれまでの経験値があるので、逆に受けれない依頼の方が少ないと思いますよ」


シルエはジョッキを片手に持ちながら話す。


 ここウィルの街には様々なランクの依頼があるが、どれも上級レベルであればこなすことの出来るものが多かった。

そう考えると、シルエはすでに上級レベルで俺も体術や剣術にはそこそこ自信がある。

シルエの言う通り、そこまで手こずる依頼はないだろう。


「まぁどちらにせよ、本格的に行動するのは明日からですね。今日はとりあえずゆっくりしましょう」


シルエはクビッとお酒を口にしながら俺に話す。少し赤くなってきただろうか。シルエは少しホワワンとしてきた様子だ。

シルエがお酒を口にしているのは初めてみた。

シルエは俺に酒の許可を求めてきたが、別に制限する必要もないと思ったのでもちろんオッケーした。

したはよかったが、意外とシルエは豪酒だった。これで何杯目になるんだろうか。

おそらく、この頃のストレスの影響だとは思うが……。

俺はというと、酒は飲まずにメニューの端にあったノンアルコールカクテルの様なものを頼んだ。


 この世界は俺が住んでいた生前の世界とは異なり、16歳になれば飲酒が許可されている。そのため、俺も飲もうと思えば飲めるのだが、なんとなく辞めた方がいい気がしたので今回は飲んでいない。

予感が当たったのか、先ほどまで饒舌だったシルエに何やら変化が出てきた。

豪酒とは言ったものの、さすがに酔っ払ってきた様だ。シルエはガクッと机につっぷした。


「あの? シルエ大丈夫ですか? そろそろ辞めた方が……」


「ディアス様っ」


シルエは俺の言葉に若干食い気味で言葉を発する。


「はい?」


「なんで私についてきたんですか?」


「え、そりゃあシルエのことを見捨てられなかったからというか」


「嘘デスゥ!!」


急にシルエは声を張る。

俺はギョッとシルエの方を見る。

少し目が虚になりながらも、シルエは俺の方を上目遣い見ている。

あ、これ酔ってんな。


「そんなお人好しがどこにいるんですかぁ!

何かしら見返りを求めてるんでしょう?

絶対裏があるはずなんですぅ。そうじゃないと私が困るんですーー!

そりゃあ、私はディアス様のこと好きですけど、まだそういったことは許すつもりはありませんよぉ!」


はい、完璧にお酒に溺れましたね。

シルエは完璧にキャラ崩壊して、ツラツラと訳の分からないことを並べている。


「えっと、シルエ。俺はそんなつもりは全くないですし、シルエとそんな関係を望んでいるわけではないですよ?」


俺は冷静にシルエに対応するものの、シルエはまたもや声を荒げて俺に言う。


「うぞだぁぁ! 私はそんなことは認めませんよ! ……でも、それでディアス様が私のことを捨てるって言うなら仕方がないです……。

許可します……もう、何も失いたくないので、フィアも……。ディアス…様も……」


いや、捨てるとか一言も言っていないんだが。

やれやれと肩をすくめる。

てゆうか、いつまで家を勘当されたことを気にしているんだか。

結構無理していた様だ。

するとシルエは次第にウトウトと目が虚になっていき、やがてそのままスースーと寝息をたてはじめた。


「シルエ?」


終始何が言いたかったのかよく分からなかったが、余程疲れていたのだろう。

お酒の力を借りたおかけで、幾分か今までの緊張が取れた様子だ。


こうしてみると、従者というのも大変そうだと思う。


 俺は酒場のマスターにお金を払うと、そのままシルエをおぶさり酒場を出た。


 思ったよりシルエの体は軽かった。

まぁ当たり前か。元冒険者といっても普通の女の子だ。

その華奢な体は、俺からすると頼りなく、寄りかかるには少し不安なように思えた。

こうしてシルエをおぶっていると改めて思うことがある。今でこそシルエの方が肉体面や経験や実力は上だが、後々俺が成長していけば、今度は俺がシルエを支える側になるだろう。

そんな時に守りたいものをしっかり守れる様になっていなければいけないのだ。

いつまでも、たった1人の女の子におんぶに抱っこでは居られない。

生前の様に、「自分を犠牲」にせず相手も自分も助けれるようにならないといけないのだ。


なんてことを考えていた俺だったが、ハッと周りからの視線に気づく。

とりあえずシルエをどこかに横にさせなければ。いつまでもこうしてはいられない。

ふと周りを見渡すと、大通りの脇道に宿屋と書いてある看板を見つけた。

俺はすぐさまその宿に入ると、部屋の空きを確認して宿代を払い、シルエを部屋へと連れて行った。

そしてシルエを部屋のベッドに寝かせる。


「ディアス様……フィア……」


寝言だろうか。シルエは俺の名前と、かつて友であった彼女の名を口にする。

そうだ、この旅の目的……。

フィアを狂魔族から取り戻すこと。


俺はサロスの言葉を思い出す。

あの戦いの時サロスはリリアに言っていた。

フィアを取り戻すことが可能だと。

もしそれが本当ならば、俺が今すべきことはリリアの場所を突き止め、フィアを取り戻すことなのではないだろうか。

龍族の殲滅は時間の問題だろうが、どうせ旅をしていればそれらの情報も何かしら手に入るだろう。


よし、決まった。

明日そのことをシルエに話そう。


俺はシルエの方を見る。


「おやすみなさいシルエ。また明日」


そうして最初の旅の1日は終わりを告げた。


********************


 とまぁ、昨日はそんなこんなで一日を終えたわけだ。

シルエは未だ起きる気配はなく、幸せそうな表情をして寝息をたてている。

どうするか。

まだ寝かしておくべきだろうか。

別にシルエがいなくてもクエストは見つけることができる。

俺は一通り考え、「うん」と頷いて納得する。


よし、今日はシルエにゆっくり休んでいてもらおう!

それがいい。


俺は荒れまくっている布団を軽く整えてシルエの体にかける。


「行ってきますシルエ」


そうして俺は宿を出て、ウィルの町中へと足を向けた。 

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