【外伝】フィア・ローレルとリリア

 とてつもなく広いダンジョンを目の当たりにした2人だったが、シルエは何か思いついたかの様に、持っていたカバンからゴルフボールほどの大きさの石を取り出した。


「よし、こんなときはこれだ」


「なーにそれ?」


「魔石よ。魔石にも色々な種類があるんだけど、これは天然の魔力石を改造した俗に言う魔法具ってやつ。この石のマナが空間全体に広がって案内図代わりになるの。

いい? よく見てて」


シルエはそう言うと、魔石に手を当てる。

するとその石からマナが溢れ出し四方八方へと散っていった。やがて魔石から溢れる光は、このダンジョンの地図の様なものを立体的に映し出した。


「うわ! やっぱひろいなー!」


「魔石ってこんな使い方もできるんだ!

知らなかった」


「凄いよね。どんな仕組みなのかは分からないけど、さっき石から溢れたマナが空間全体に広がって、こうやって立体的に映し出されるの」


「でも、これなら迷うことなく攻略に専念できるね!」


「うん、そうね! それじゃあ、行こうフィア」


私達はこの魔石を使い、ダンジョンを順調に攻略していった。


********************


「はぁぁ! 竜巻アネモストロビオス

シルエ! 動きを封じたよ!」


「うん! それっ!」


 シルエは私の魔法の真上へと跳躍し、指の間に挟んだ計5本の小型暗殺針をフィアの魔法で身動きの取れなくなった魔獣グレイスト・コングに向けて放った。

それらの針はグレイスト・コングの肩や首といった急所に刺さり、見事倒すことに成功した。


「やったね! シルエ!

それは暗器ってやつ?」


「イェイ! フィア!

うーん、少し違うかな。別に暗闇で使う様なものでもないし、体にある神経を正確に刺して感覚を途切れさせるもので、どちらかと言うと暗殺具に近いかな。今のは、針の先端に毒を塗ってるもので、5本も刺さったら流石のコイツも身動きひとつとれないはず」


シルエは倒れて痙攣している魔獣を見る。

グレイスト・コングはその名の通り、デカイ猿の化け物だ。

頭にはツノがあり、全身は白い毛並に眼は赤く凶暴そのものだ。

ここに来るまで、トラップにも何回か引っかかったり、レベルが高い魔獣も多く生息していた。

だが、なんとか2人で協力していき、今私たちはダンジョン奥地にいる。


「フィア! この先はセーフティーゾーンだよ!」


「あ、うん!」


-----セーフティーゾーン


 ダンジョン内にいくつか存在する、トラップもなく、魔獣もいない安全エリアだ。

ダンジョンに潜った冒険者は、基本的にこのセーフティーゾーンで体を休めたり、泊まることが多い。

ただ、下手をするとたどり着くことができない可能性もあるため、あらかじめ場所を把握しておく必要がある。


私とシルエはセーフティーゾーンへと入っていった。


「わぁ!」


そこは今までの過酷な自然とは違い、地面一体には花畑が広がり、静かな湖畔には小さい小鳥が集まって、囀っている。

まるで天国といっても過言ではない空間だった。


「フィア、ここで休憩にしよう。

先はまだまだありそうだけど、ここにいれば最悪日を越しちゃっても問題ないし」


私達はここに来るまで、まともに休息を取っていなかった。

この安らぎの空間にホッとした私は、緑いっぱいの芝生の上に腰を下ろす。

ドッと疲れが溢れてきた。

湖を眺めながら、持ってきた回復ポーションと弁当を口にする。

ふと、湖の中心辺りに浮かぶ小島に、何やら大きな扉の様なものが立っているのに気づいた。


「シルエ、あそこってなにかな?」


「さぁ? なんだろう。あんなのみたことないけど……。あ、もしかして宝の部屋の入り口とか?」


「え! よし! 私見に行ってくる!」


「あ、ちょっとフィア!」


私は今までの疲労感はどこへいったのやら、すぐさま湖の上を走って扉へと向かっていった。


「シルエもそれ食べ終わったらきて!」


「もう……」


私は扉の前へと辿り着いた。

その扉は、遠くから見た時よりとても大きく、植物のツタや花で一面に覆い尽くされていた。


「開くのかな……」


扉に手を当てると、その扉は勝手にギギッと錆びた音を響かせながら、ゆっくりと開いた。


「シルエーーー! 扉開いたよぉ!」


大きな声で湖の岸にいるシルエに呼びかけるが、果たして聞こえているのか。

私は、意を決して1人その扉のなかへとはいっていった。


扉の中は、今まで目にした自然あふれるフィールドではなく、大理石や柱が立ち並び、まるで人工建築物の中にいる様な大きな空間が広がっていた。

部屋の奥には、何やら大きな一本の大木がある。

私はその木に近づくと、その目にした光景に驚愕した。

その大木には、1人の少女がツタヤ木の枝に絡められ、捕らえられていたのだ。


え! なんでこんなところに女の子が?

ひょっとしてトラップで捕まっちゃたのかな?


私はパニックに陥りながらも、とりあえずこの木から彼女を解放しようと、お得意の風魔法を発動させた。

「風のマナよ、我が意志に応え、敵を穿て

風の渦アネモスディーニー! からの風の刃アネモス・クスフィー!」

風が木を穿ち、刃がその少女を捉えているツタを狙う。


ドォン! ザッン!


勢いよく命中し、そのツタは切れ、木は大きく揺れ動き、囚われて彼女は解放されてその場に倒れ込んだ。


「あ! 大丈夫⁉︎ しっかり!」


私はその彼女の体を支えて、肩を持つ。

次の瞬間ズっと自分の中にある魔力が一気に枯渇していく感覚を覚えた、


「うっ、なにこれ……」


すると彼女の目が開き、彼女から紫色のマナが溢れだし、私は大きく後ろに吹っ飛ばされた。


「うわっ! いってて……」


その彼女は空中に浮きながらも、静かに私を見つめている。


「あなたが私を解放してくれたの?」


「うん、そうだよ!」


「なるほど。そうゆうこと」


彼女は私を見て何なら不吉な笑みを浮かべると、「斬波」と言葉を発した。

その言葉と同時に私の体をドンッ!と衝撃が襲い、後ろの壁に大きな音を立てて激突した。

一瞬何が起きたか分からなかった。

その華奢な体は、固い壁に叩きつけられて大量に流血している。


「カハッ! なん……でっ……」


「フフ、礼を言うわ。エルフの小娘さん。

私の封印を解いてくれて。

どうやら、魔力を大きく枯渇していてね……すまないけど、私の養分としてその命を貰い受けるわ」


私は何を言われているのか理解できなかったが、だだひとつはっきりと理解できることは、死が訪れようとしているということだけ。


「あなたは……いったい……」


「確かに何も知らずに命を落とすのは不本意でしょうね。いいわ、教えてあげる。

私は狂魔族リリア。

この世の異端者と言えばわかる?」


その種族名はこれまで痛いほど耳にしていた。狂魔族。

出会ったらすぐに逃げるべしと教えられてきた種族。


「あっ……」


だが、逃げようにも恐怖のあまり膝は震えて腰が抜けてしまい、私は目の前にいる狂魔族をただ見つめるしかできなかった。


「シルエッ……」


思わず口にする。扉からは光が漏れている。

あと数歩走れば、外の世界に、シルエの元へ

いける。なのに体は囚われたようにゆうことをきかない。


「へぇ、もう一人仲間がいるのね。

ならあなたから魔力を貰ったら、その子からも魔力を貰おうかしら」


「ダメッ!!」


私は次の瞬間、空間いっぱいに広がる声で叫んでいた。


「お願い、シルエには手を出さないで。

私の大切な友達なの。もし魔力がほしいのなら……私だけで勘弁して!

私はどんなことでも受け入れるから!」


そう。シルエだけは。

大切な人だけは傷つけたくなかった。

リリアと名乗るその狂魔族は、私の言葉を聞き少し驚いた様子だったが、しばらく考えた素振りを見せた後答えた。


「いいでしょう。だだ、それには一つ条件があるわ」


「条件……?」


「そうだ」


リリアはニヤリと私を見下げる。


「あなたの体を頂くわ」


「えっ?」


また何を言われたのか理解が追いつかなかった。

体をいただく?それってどうゆうこと?

迫る疑問に頭を悩ませる私をよそに、リリアは続ける。


「2人分の魔力を吸っても足りないくらいなの。それをあなたの条件を呑んで、一人で済ますんだからそれくらいの代償はねぇ。安心なさい、殺しはしないわ。

ただ、あなたの体の主導権を我が握ることで、あなた自身の生命エネルギーを常に私が貰い受けるってこと」


「それで本当にシルエには手を出さないでくれるの?」


「ええ、約束するわ。ただ、私に体を預けた瞬間、あなたという心は消滅し、あなたは私へと生まれ変わる」


要は死ぬということと変わらないじゃない!そう思いながらも、私はシルエとの思い出を振り返る。

そして、


「わかった……この体あなたにあげるよ!

でも、約束して!今後も、シルエには手を出さないって!」


私は震えながらも、リリアに向かって言い放った。


「交渉成立ね」


すると、リリアの体から触手のようなものが生えてくると、それは勢いよく私目掛けて放たれた。


「グッ……」


その触手は正確に私の心臓を貫いた。

体から大量の血が失われていくのがわかる。

あぁ、これが死か。

意識が薄れ、視界がぼやけていく。


「フフ、安心して。しばらくはあなたとして生きていってあげる。じゃあね。フィア・ローレル。素敵なプレゼントをありがとう」


あれ、なんでこの人名前知ってるんだろう。そう思いながらも、目をゆっくりと閉じる。


あー、シリア姉ともう一回会いたかったな……。


シルエはまだご飯たべてるのかな……。



死に……たくないな……。


ごめんねシルエ……。


ありがとう……。


そして私の意識は闇に飲み込まれた。


********************

扉から出てたは、湖の向こう岸からやってきた猫耳の彼女に問われる。


「フィア! どうだった? なにかあった?」


この子がシルエね……。


「ううん! 何もなかったよ。

さっ、残りの弁当食べよ!シルエ!」


はシルエに笑顔で話しかけた。

だが、その笑顔はいつものニヘラとした私

のものではなかった。


【外伝】フィア・ローレル完




















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