第5話 この世界で

 時が経つこと3年が過ぎた。

3歳になったディアスは、計算していた通りなんとか歩くことができるようになった。


朝、目が覚める。


はい! おはようー!!!


ヨチヨチと歩いてカーテンを開けると、俺は元気に声を上げる。


「あい! おあおおぅぅ!!」


まぁまだ言葉は片言だし、これくらいが限界か。

生前悪態をつきまくっていた、太陽の光も非常に心地が良い。

正に天の光、天の祝福!


おぉーあなた様の加護を受けながら、私は生前何をしていたのでしょうー!!

毎日の様に自身の怠惰と日々の惰性を嘆く。


 そして今日もまた1日が始まる。

この流れもルーティン化されてきたというのに、生前退屈していた「日常」や「普通」とはどこか違く、その呪縛みたいなものから抜け出せた気がする。


まぁそれも、前世の記憶があるからだろうか。

目の前の物事や、当たり前に感謝するようになった。

それに、体の使い方もマスターすることができ、少しだが走れるようにもなった!

これは生前の体の感覚が残っていたからかもしれない。


気を抜くとすぐに転ぶが。


初めて走る姿を見た時のヘラとサロスの目の輝き様といったら、太陽の光とほぼ変わらなかった。


 3年もすればまだ自由に喋ることはできずとも、片言だが喋れるようになり、会話している内容も大体理解できるようになってきた。


こうやって言語を学習するのか。

これを前の世界でもやっていたのかと思うと、凄いぞ俺!

生前は3歳の記憶なんてなかったしな。


いや、もっと言うなら生まれる瞬間の記憶があるというのはなんだか感慨深い。


 そして約3年間この家で過ごしてみて分かったことがある。

やはり、この世界は俺が住んでいた地球ではなかった。この世界は剣と魔法が織りなす、思春期の子供なら一度は憧れる異世界そのものだった!


********************


この世界には

「人族」

「獣人族」

「エルフ族」

「小人族」

「ドワーフ族」

「魔族」

といった6種族が互いに共存している。



 俺の家族は人族であり、なかなか家柄は良い方らしい。

サロスは魔術士であり剣士でもある。

俗に言う冒険者の様なものか。

昔はたった一人で世界を旅していたらしく、名実ともにこの世界では名が通っているようだ。

今は家の書斎で本をひっきりなしに読んでいるかと思えば、外に出て剣技や体術といった実践的な戦闘訓練をしている。


俺もしばらくすれば、それらの体の使い方を教わるのだろう。


サロスはこの辺りでも有名らしく、どうやらこの集落を纏めているようだ。

年齢は20代でまだ若いというのに、すでに冒険者は引退しているらしい。


おそらくできちゃった婚だろう。


 ヘラも昔は冒険者で名を轟かせた有能な魔術師だったらしい。

今は色々な葉っぱや液体を調合させて新薬を作ったり、庭の手入れをしたり、俺の世話をしたりと、まぁいわゆる専業主婦として生活している。

旅の途中だったサロスと出会い、あれよあれよと両思いになって今に至るらしい。


この流れで行けば、後のメイド2人も冒険者なのだろう。


うん、御名答。


シルエとフィアは2人ともまだ若い。(おそらく12歳くらい)

すでに一戦は退いているものの、ほんの数年前まで冒険者だったようだ。


それにしても若すぎるっ!!


旅の途中で魔物に襲われていたところを、サロス達に助けられ恩義を感じて今に至るらしい。


 そして、俺が生まれ育ったのがこのムルンという村だ。とても自然豊かで空気が美味しい。

一つの小さい集落でできており、集落の側にはみたことのない馬鹿でかい大木が生えている。

神樹と呼ばれているらしいが、とにかくでかい。


よく訓練に使ったり、神樹に生息している食材などを確保するために、村の元冒険者や新人冒険者が神樹に登っている。

サロスも神樹に登って体を動かしたり、食材を摂ってきてくれる。


 サロスの話によると、神樹の頂上には大きな森が広がっているんだとか。

木の上に森があるということだろうか。

とりあえず馬鹿でかい木だ。

もしこの木が倒れてきたら、集落はいとも簡単に壊滅するだろう。


因みに神樹の周りを一周しようとすれば、2日はかかるという。


 そしてさらに驚きなのは、神樹から村を挟んだ反対側には、これまた馬鹿デカイ滝が流れているということだ。

生前本で見たことある、カ○ダにあるナ◯◯◯◯の滝ほどはあろうか。

いや、もっとかもしれない。

「龍の滝」と呼ばれている。


この地はかつて人族と竜の子の末裔である龍族という種族の縁の地らしい。

神樹と龍の滝には膨大な魔力があるらしく、その魔力をとりこんで、失った手足が元通りになった冒険者もいるそうだ。

ヘラが寝る前によく俺に色々と話して聞かせてくれるおかげで、この村のことは一通り分かった。


 そんなこんなで、やたらスケールのでかい神樹と滝の間にムルン村は存在している。

一見過酷な環境に思えるが決してそんなことはない。神樹に登れば様々な果物や、そこに住み着く生物の肉が取れ、龍の滝では沢山の魚が取れる。

食べ物に非常に恵まれている環境なのだ。


村では米の様な穀物を育てている畑もある。

ここに住んでいる限り、何一つ不自由はないのだろう。


3歳、4歳の行動範囲で分かったことといえば、このくらいだ。


異世界転……。くぅー! 

何度聞いても痺れるね!



そして、この生活を続けている中で俺は思った。


この世界ならと。


この第二の人生なら、普通の日常を輝いた日常に変えていくことができるんじゃないかと!

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