五 開戦前夜

「あん? で、なんでオイラがお前らのためにその『孤独の霊峰』なんてところに行かなきゃならんの?」


 アルドとヴィルフレードが共に次元の狭間から二万年前に渡って出会ったパシオネは、はぐれ精霊の名に恥じないやんちゃな小ネズミだった。

「……おい。本当に、お前はパシオネなのか? 随分と、その、小さいな。まるで、二本足で立つただのネズミ……」

「をおぉぉいッ!! 今、とんでもないこと口走ったろ、この虎刈り!! このキュートなはぐれ大精霊様を捕まえて!!」

「な、なにをッ! 俺は刈ってなどいない! よく見ろ、ほら!!」

「まあ、まあ。申し訳ないな、パシオネ。でも、このヴィルフレードは、それなりの覚悟をして、ここに来ているんだ。それに、この策は、どうしても君の助けがいる。老パシオネが作った魔石の起動には同一人物の君の起動が必要で、それは『孤独の霊峰』から帰るときも必要だ。だから、一緒に来てもらう必要がある」

「意味わからんな。そんなまどろっこしいことなんてしないで、じじいのときのオイラの時代から行けばいいじゃん」

 ぷいっとパシオネは鼻先をそらした。

「いや、老パシオネの時代からでは遅すぎるんだ。フェデリカは二万年前に神になったと言っていた。それを止めたいのだから、当然、今の時代から『孤独の霊峰』へ向かわないといけない……」


 一通りの茶番を通して、アルドは何とかパシオネの了承を取り付けた。

 ゲートをくぐる前日の夜、アルドはヴィルフレードに、最後の確認をした。

「……本当に、それで良いんだな」

「ああ、問題ない。今の俺がどうなろうと、姉さんが救われれば、それでいい」

「そうか」

 アルドは他に、彼にかけるべき言葉を持たなかった。

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