むべ山風をブーメラン飛行

 春は大気が不安定。

 晴れ間も雨間も山際の、風は強いぞ三割り増しか、くるくる方向変えてくる。


 むべ山風やまかぜを嵐というが、春の嵐は容赦ない。

 びゅっと吹き付け吹き上げて、斜め上から吹き下ろす。まだまだ冷たい東風こち吹かば、お空のカラスも巻き込まれ、飛びたい方角目指しても、あっという間に大外れ。


 海に向かって飛んだなら、上昇気流に巻き込まれ、トンビも驚くお空の彼方、飛んで飛ばされ、どこへ行く?


 ようやく気流を外れたら、なぜか山へと引き返す。

 仕切り直しと思ったら、向かい山風強過ぎて、山際付近でスローダウン。

 進みたくても押し返されて、煽られながらも必死で羽ばたくカラスの腹が丸見えだ。

 おかげでこちらは飛んでるカラスの腹側を、リアルタイムで観察しながら、しげしげじっくり眺めてる。


 どうすることかと見ていたら、力尽きたか一瞬で、押し飛ばされて遠ざかるカラスの哀愁何ともはや……。


 自然の脅威を前にして、流石にカラスもが立たぬ。とぐろに帰るも一苦労。

 大きくお空を迂回して、再度チャレンジ向かってくるかと思ったら、どうしたわけか始めから、見当違いの方角へ飛んで回ってブーメラン。


 どうしたもんかと見ていたら、向かい山風利用して、ぐるりと大外回り込み、サイドを滑り込むようにスーッと山へと消えていく。

 無事に帰巣が叶ったか、勝鬨かちどきさながら「カー」と鳴く声だけ風に乗ってくる。


 それに続いた仲間のカラスも次々大外回り込み、ブーメラン飛行で帰ってく。

 急がば回れと言うけれど、カラスもどうやら当てはまる、見事な学習能力だ。


「直進不可なら迂回しな」

 そんなカラスの得意げな、表情きらりの嵐の日。


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 普段なら一回二回羽ばたくだけで、軽く我が家の真上を飛び越えて行くのに、うちのベランダのすぐ前で何十回と羽ばたく様が、ホバリングかい? というくらいスローモーションでした。

 そして、一瞬羽ばたくのをやめた直後、「やっぱ無理ぃ〜〜、ああ〜〜」って感じで、あっという間に吹っ飛ばされていきました。

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カラスのうた 古博かん @Planet-Eyes_03623

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