最終話.神保ヒロト その4
「おはよう」
国家認定クラスの発表から一ヶ月が過ぎ、僕は高校生として過ごし始めている。第二志望の高校だけど特に不満はないし、入学早々気軽に挨拶を交わす友だちもできた。ぼっちになることも覚悟していただけに嬉しい誤算だ。担任の先生も面白そうだし、高校生活はやっていけそうな気がする。
さらに、国家認定クラスは最上位であるSランクになった。
雪クラスは上からSランク、Aランク、Bランクの三つに分けられる。ちなみに真ん中の月クラスはCランク、Dランク、Eランク、下の花クラスはFランク、Gランク、Hランクだ。目立ちたくない僕としては、ずっとBランクくらいがちょうどいいと考えていた。だからSランクになったと聞いた当初はあまり気が進まなかった。
しかし両親が予想以上に喜んでくれたので今は満足している。第一志望に落ちてガッカリさせた分を取り戻せたかなと思う。これから高校生活を満喫していきたい。
とは言ってみたけど、やっぱり僕の心の中には解決していないことがいくつか残っている。
一ヶ月前の宿泊入試、僕が所属していて最も優秀だと思っていたAチームは見事なまでに崩壊した。
まずケイスケが宿泊入試の最中に死んでしまった。
続いてタクもその数日後、トラックに轢かれて亡くなった。タクはケイスケの死を殺人だと考え、調べている最中の出来事だった。
悲しいとか怖いとかそういう気持ちだけではない。立て続けにショックなことが起きると、人はこれ以上ショックを受けないように淡々と事実だけを見るようになるんだって知った。だから僕はケイスケが死んだと聞かされてから一度も涙を流していない。
ケイスケの家は身内だけで行うとのことで参列していないけど、タクの葬儀には足を運んだ。僕はたぶん宿泊入試メンバーの中でタクと一番話したと思うし、何より残った他のメンバーたちと悲しさを共有したかった。
「コーヒーって旨いんだな、俺も家で淹れてみるか」
タクの言葉が頭の中に残っている。
ところが葬儀に来たAチームのメンバーはサキだけだった。普段自分から話しかけることのない僕だが、このときばかりは不安に思ってサキに声をかけると、信じられない答えが返ってくる。
スズカとアヤナがどちらも行方不明。
日にちは三日ほどスズカの方が早いらしいが、二人ともも両親の前から姿を消したらしい。
何かが起きていることだけはわかる。
それもケイスケの死に関係している何かが。
僕らでは手に負えないような闇が潜んでいるような気がした。大きな闇にケイスケが絡め取られ、その件に首を突っ込んだタクとスズカが巻き込まれたのだろう。タクは命を落としたが、スズカもどこかで死んでしまった可能性もある。
アヤナはどうだろう? しばらく接していた印象ではずっと心を開いていない感じがあった。まるで本当の自分を隠しているような。とにかくタクとスズカが調べていた件に協力したのかもしれないし、あるいはタクやスズカに疑われて……それはないかな。何かを隠していると言ってもケイスケを殺すなんてことはありえないか。
どちらにせよアヤナも事件の渦中にいることだけは間違いない。
気がかりは他にもある。
Aチームのメンバーばかりが4人も死亡、または行方不明なのに、ニュースではあまり取り上げられていないことだ。ケイスケは高国の最中に起きた事故ということでそれなりにニュースになったし、僕のところにも取材が来たけど、タクやスズカ、アヤナの件は特に報道されなかった。
確かにケイスケ、タク、スズカ、アヤナの死亡や失踪は数日ずつずれているから、関連なさそうに見えてもおかしくはない。
けれど大人たちはそこまで馬鹿だろうか。
そんなはずはない。きっと水面下で捜査をしているはず。じきに真相も明らかになると信じたい。とはいえ、大々的に報道できないような事態にまでなってることを考えると身震いする。果たして警察に任せているだけでいいのだろうか。
そしてもうひとつ。
宿泊入試を途中で終えた僕たち全員がSランクになった。Bチームも全員Sランクだそうだ。
もちろんケイスケの件は表向き事故として処理されている。察するに不幸な事故に居合わせてしまった僕ら子どもたちへの温情措置だろう。加えてこの件を口外するな、という口止めも含まれている。これは発表日に高国の担当者からかかってきた電話で言われた。隠ぺいという感じではなく、宿泊入試に対する安全管理の問題を問われるのが嫌だという口調だった。
まあそうだよね、と理解はできる。
だからといって、「将来世界で活躍できる人材を早めに見つけ出して育てる」というのが高国の主目的だったはずだ。こんな温情や口止めでSランクにしてしまっていいものだろうか。
それでも過去の僕なら、どんなに疑問を持っていても目立つことや危険なことはしなかっただろう。日々を可もなく不可もなく生きていくことの方が重要だった。
今は少し違う。
たった一日だったけど、濃密な時間を過ごすことができたAチームのメンバーが4人もいなくなった。
「でも平穏に暮らしたい」
なんて言えない、言っていいはずがない。自ら動いてみるべきだ、そう考えている自分がいる。
だからといって僕は簡単に命を賭けられるほど強い人間でもない。
僕は地道に、確実に、静かに。そうやって危険地帯へ踏み入るつもりだ。
これまでの自分のように目立たないよう、これからの自分のために真実を知れるよう、進む。
誰にも真似できない、僕だけのやり方で。
真実を求めたタクやスズカの代わりに僕が。
いつか必ず真相に辿り着いてみせる。
受・験・戦・記 ~第一次受験戦争:ネクストと呼ばれる特殊能力を持った天才・秀才が合格と国家最高ランクを目指す~ エス @esu1211
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