31.前橋タク その10
いくつかの疑問を抱えながら自室に入り、パソコンの電源を入れる。その間に「貸別荘 白樺 Aチーム」と書かれた宿泊入試の資料を部屋の隅から探し出す。
よく考えると不思議な点があった。最初に思い出したのはコテージの外を歩くケイスケの姿だ。
なぜケイスケの動きがうっすらと見えたのか。
周辺には街灯もないし、月明かりでは光度が足りない。カメラでは撮影できない明るさのはず。それでも歩く様子を確認できたのは、コテージのどこかの部屋で明かりが点いていたからだ。
では深夜二時に照明が点いていたのはどうしてか。
点けたのは犯人だ。可能性としてうっかり電気を点けたまま寝てしまった人がいることは否定できないが、犯人も電気の点いている部屋があったらもっと警戒するはずだ。もしかしたらケイスケは殺されなかったかもしれない。
これは推測だが、おそらく犯人のネクスト能力は『寝ている人を操る』ようなものだろう。操ったからには事故死に見せかけて確実に崖下に落ちるよう誘導しなければならない。そのために自分の部屋の明かりを点け、昼間に確認しておいたであろう最も崖の危険なポイントへケイスケを動かした。
こう考えれば、宿泊入試中にケイスケを狙った理由もわかる。
ネクスト能力は便利だが、時間や回数、距離、条件など制約が案外多い。ほぼ確実に操るときの制約は「距離」。他にも発動の条件はあるかもしれないが、犯人が上手くクリアしたのだろうな。宿泊入試ならばひとつ屋根の下で過ごすわけだから、距離の問題も解決だ。
あとは動機だ。
これだけはまったく見当もつかなかった。Bチームならまだしも同じチームで最も優秀な人間を狙う理由があるだろうか。ケンカをしたわけでも顔見知りだったわけでもないのに。
しかし、ひとつだけ忘れていたことがあった。きっかけになるかもしれない。
それは警察で尋ねられた「異類会」という言葉。
こんな言葉が警察から唐突に出ることはありえないだろう。きっと関係があるかもしれないものだ。「会」と付いているしサークルやグループだと予想する。
ようやく動かせるようになったパソコンを操作し、検索欄に「異類会」と打ち込む。
調べてみると文学や伝承に登場する妖怪や神仏などの考察が出てくるが、ぱっと見では関係のありそうなものは見つからない。試しに複数のSNSでも検索してみるが目ぼしいものは発見できず。
そこで大手の掲示板サイトに移動して検索をしていくと。
見つけた。一ヶ月前のスレッドだ。
誰かのタレコミかどうか、そもそも真実かどうかも怪しいが、俺は急いでページを開く。
『突然だが、お前らは「異類会」って知ってるか?
すっげーあぶねー組織だ。
結論から言うと隠れネクストたちの集団なんだけどよ、隠れネクストのグループって他にもいくつかあるんだが、「異類会」はヤバい。
どうヤバいかっていうと、「もう普通の人類の時代は終わった。これからこの国はネクストが支配する」みたいなことをガチで言ってるやつら。
もうヤバいだろ?
でもこんな中二病みたいな話を本気で信じてるやつらの集まりが「異類会」なんだよ。
最近結構有能な政治家の〇〇とか、官僚の△△とかが死んだじゃん。あれも「異類会」のメンバーがやった。
あの連中にとっちゃ、ネクストではないやつは人間じゃない、くらいの感覚なんだ。
だからあいつらのターゲットになるのはネクスト以外の人間すべてだ。
特に狙われるのが、「ネクストでもない癖に優秀なやつ」。
今だろうが未来だろうが有能な一般人は危険って思想だ。
もちろんネクストだからって安心するなよ。
こいつらに楯突いたら能力持ってても狙われる。
ていうか、俺は今狙われてる。
こいつらは優秀な人間を吸い上げ、ネクストを監視する「高国」のシステムを目の仇にしてるからな。
いいかお前ら、「異類会」は高国ぶっ潰してこの国を乗っ取ろうとしてるヤバい集団だってことは覚えとけよ』
これか。
鳥肌が立つのを抑えられない。
この「ネクストでもない癖に優秀なやつ」にケイスケは選ばれちったんだな。まだこれから覚醒する道もあったのによ。
宿泊入試の資料を開き、貸別荘の見取り図を見る。さらに三人がどの部屋に泊まったか書き込んでいく。
ケイスケが崖へと歩いた道側に部屋を構えているのは一人だけだった。
お前か。
俺はスマートフォンから電話をかけた。
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