30.前橋タク その9

 アヤナ、ヒロト、サキの三人から話を聞いた俺たちは、再びヒロトと話したファストフード店に戻ってきた。


 時間は午後七時を回っている。本当なら帰りたい時間だが、ある程度話し合っておく必要を感じて、俺とスズカは向かい合う。とりあえずスズカに質問を投げかけてみる。


「みんなの話を聞いてどう思った?」


「ちょっと待ってね、えーっと、アヤナが事故だと思っていて、ヒロトはどっちつかずって感じで、サキは殺人ではないかと疑ってる。ただ、ヒロトもサキも、犯人がいたとしてもBチームの誰かって信じているみたいね」


「アヤナも事故だと信じたいだけで、可能性としては殺人もありそうだと思ってるっぽかったな。つーことは、俺たちが考えた推理と同じってことだよな」


「Bチームに犯人がいないことを知らなければ一緒の考えになるんだね」


「問題はそこだよ、みんなの言っていた推理は間違っている。ということを知っているのは俺たちだけ。さらに言えば、あの三人の中に犯人がいる確率が高いんだ」


 スズカが俯く。わかっていたこととはいえ、一緒に課題を進め、今日だって仲良く話したメンバーの中に犯人がいると考えるのはやはり辛い。崖下にいたケイスケの姿を思い出し、気持ちを奮い立たせる。だけどその前にスズカが尋ねてきた。


「その前にさ、またタクの能力に頼っちゃうけど、嘘をついている人がいるかどうかだけでもわからないかな?」


「どういうこと?」


「犯人探しはもうタクの能力を使えないけど、嘘をついているかどうかなら使えるんじゃあないかって思ってさ。もし嘘をついてる人がいなければ、犯人はいないはず。だって原因は事故かBチームによる殺人のどっちかしかなかったわけでしょ? 犯人がいたら嘘をついてる人がいるってことになるし」


「確かにスズカの言う通りだ。嘘をついているかどうかなら別って感じもする。早速やってみるか」




 俺はパーフェクトチョイスを発動させる。毎度ダサい名前だと思うが、能力に沿った名前を付けた方がいいというのを以前ネットの動画で見た。ネクスト研究所の発表だったらしく、信憑性は高い。具体的には名前をつけることが自分の脳への意識を高めることになり、ネクスト能力の効果がアップするって話だ。


「いいぜ、質問してみな」


「早い早い。もう少し考えさせて、質問の仕方って結構大事だから」


「たしかに。ちっと早まったな、悪い」


 スズカは腕を組んだり頭を抱えたり店内を歩き回ったり、たっぷり二分ほど使って考え込んだ。こんな深刻な事態なのにスズカの言動を見ていると笑ってしまう。こんなことがなければもっと仲良くなれたかもしれないな。


「よっしゃ、決まったよ」


 気を取り直して聞く態勢に入る。


「いつでも構わないぜ」


「じゃあ聞くよ。今日話した三人の中で嘘をついているのは一人? それとも二人?」


 俺はなかなか考えられていると得心した。三人とも嘘をつくことはないという前提、これはなるほどと思った。三人とも嘘をついていて、誰からも違和感をまったく感じられなかったらこれはもうお手上げだ。それは細心の注意を払って観察しながら会話をしたこっちからしたらありえない。


 それより一人も嘘をついていなければ発動しないし、嘘をついている人が一人であっても二人であっても対応できる。


「いい質問だし、発動している。答えは『一人』。一人だけ嘘をついているやつがいる」




 スズカの反応は鈍かった。


 恐らく答えがゼロになる、つまり発動しないことを心のどこかで期待していたのだろう。そうなんだ、と呟いたきり黙り込んでしまった。


「気持ちはわかるけどよ、これでほぼ間違いなく犯人があの三人の中にいるってことがハッキリした。ケイスケの真相を突き止める上では前進したんだぜ。ここまできて迷うなよ。俺はもう覚悟決めたんだ」


「ありがとね。大丈夫、私も覚悟を決めた。あとはアヤナ、サキ、ヒロトのうち、誰が犯人か。ここまで考えたら噓をついている人が犯人で間違いないよね?」


「それは確実だろうな。ただ俺の能力では同じテーマでこれ以上深く追及できないから、ここから先をどうするかってのは悩みどころだが」


「とりあえず今日は終わりにしようよ。お互い家で考えて、なんかいいアイデアがあったらまた相談するのがよくない?」


「そうだな、今日のところは解散するか」


「うん! 一日中付き合ってくれてありがとね」




 帰り道、考え事をしながら歩く。街灯が点いている上、まだこの時間は車の往来が多いので歩道が明るく歩きやすい。


 嘘をつく理由は簡単だ。嘘をついたやつがケイスケを殺したからだ。では三人の中で嘘をついているのは誰か。


 これに関しては見当もつかない。みんな真実を言っているように感じた。マンガみたいにピンと来るものもなかった。今日の会話だけでは突破口を見つけられない。仕草から情報を得るなんてもっと無理だ。


 考えろ。こういうときのために受験勉強をやってきたんだろ! 実際の生活で考えることができなくてどうする!


 まずは今までで知ったことを思い出せ。


 ケイスケがいなくなって、みんなで探した。大岩先生がカメラの映像を見せてくれた。ケイスケが玄関で靴を履くシーン。次は薄明かりの中外を歩くシーン。警察に行ったときのみんなの様子。警察で聞かれたこと。スズカと話したこと。三人と話した内容。


 ん?


 どうしてだ? ということはもしかして……。そうするとあれを見れば……。あの言葉も調べてみれば……。




 俺の頭に閃くものがあった。


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