29.芝原スズカ その11

 翌日、私たちはAチームのメンバー三人と会うことにした。もちろん一人ずつだ。まずアヤナと会うため、アヤナの住む地域の近所にあるファミリーレストランに来た。ケイスケが死んでから三日目のことだ。


 事前に私とタクは話し合って二つのことを決めていた。嘘をつくのは私たちとしては不本意だが、真相に近付くため、自分の身を守るためには仕方ないと諦めた。


 ひとつ目、タクと私のネクスト能力は最もありふれた『コンペリング・フロー』ということにする。

 二つ目、Bチームに犯人がいないということは言わない。




 十分ほど待っているとアヤナがやって来た。


「ごめんねー、ちょっと遅くなっちゃった」


 と、タクの隣に座る。ちゃっかり男子の隣へ行くところなど流石だ。そして何がとは言わないが、相変わらずでかい。




 一通り近況を報告し合った後、本題に入る。アヤナはちょいちょいタクへボディタッチするが気にしないでおく。まずはタクが切り出した。


「ケイスケのことなんだけどさ、実は俺たち、ケイスケが殺されたと思っているんだよ。俺たちの他にも隠れネクストがいて、何らかの能力で操ったんじゃあないかって。スズカと二人で話したとき、ケイスケの話題になってさ。真相を知りたいから、何か気づいたことがあったら教えてほしいんだ」


「えー、そんなことあるかなー。だってケイスケって人から憎まれたりしなさそうだしー」


「それはわからないけど、じゃあ自殺するとかうっかり足を滑らせたとかもあるとは思えないんだよな」


「私はケイスケって案外ドジなところもあると思ったんだー。ほら、植物図鑑食堂に置き忘れたりとかー、スズカもだけど歯ブラシ持って来なかったりとかー」


 案外よく観察している。よく考えてみればみんな第三次選抜まで上がってくるだけの力はあるんだよね。ちょっと視点を変えてみよう。


「私たちはね、Bチームの誰かがケイスケの頭脳に驚いた。で、このままじゃあSランクに上がれない。そう思って殺したのかな、って考えたんだ。アヤナはどう思う?」


 アヤナは胸をテーブルに乗せ、頬杖をつく。ちっ、羨ましいぜ。


「Sランクに上がりたいって小さな理由で人を殺すかなー。もしSランクになれなくても五年に一回、ランクの見直しがあるわけでしょー? 危険を犯して人を殺すより、五年後に賭ける方がいいと思うな―」


「確かにその通りだね。あとは夜中の二時過ぎってのがちょっと引っかかってる。夜の十一時には寝る時間だったわけで、ケイスケはわざわざ二時まで起きてたのかな。もし植物を見に行くとしても十二時くらいに行けばよかったと思う。実際私も疲れて十一時半には寝てたし」


「私も十二時には寝たからわからないけどー、確かに二時は遅いなー。ケイスケってショートスリーパーなのかなー。知ってるー?」


「いや、俺もそこまでは知らない」


「もしショートスリーパーだったら起きていてもおかしくないかなーって。だからごめんねー、私は警察が言ってた通り事故だと思ってる、ううん、事故だと思いたいだけかもしれないけどー。私、もしかしたらケイスケが殺されたって考えたくないのかなー。ケイスケが死んだの、辛くて」






「わざわざ呼び出して悪いな、ヒロト」


「僕は大丈夫だよ、学校も授業が終わって暇だし」


 私たちはヒロトに会いに来た。最寄り駅は私と一緒だったので、前回タクと使ったファストフード店を選んだ。飲み物代が財布に痛い。


 アヤナのときと同じように世間話をしてから本題を一通り話す。


「ヒロトは何か気になったことはあるか?」


「えっと、ひとつだけ。Bチームの川口さんだっけ、あの人はなんかこっちを凄く意識しているように感じた。やたら敵視しているというか……。だからタクやスズカさんの言う通り、殺されたんだとしたらあの人が怪しいかなって、もちろん根拠とかはないけど」


「ヒロト自身はどう思うの? 私たちと同じようにケイスケが殺されたと思う?」


「わからない。自殺はないだろうって感じかな。でも事故と言われれば事故のような気がするし、殺されたと言われればそうかもって思う。それよりさ、サキさんとアヤナさんも呼べばいいのに、何でみんなで集まらないの?」


「えっ?」


 私は言葉に詰まった。まさか正直にみんなの中に犯人がいるかもしれないとは言えない。


「みんなが集まると記憶が混同するからだよ」


 タクが事もなげに返答する。


「いいか、例えば一人が「こんなことあった」って言ったら、他の人もそういえばそうかもってなるだろ? 現にヒロトも俺たちが「ケイスケは殺された」って言ったらそうかもって思ったわけじゃん。混同しないようにみんなの純粋な記憶や気になったことを聞いてるんだ」


「凄くよくわかった、そういうことなんだね。あとさ、みんなの親は心配してないの? うちの親は僕がショック受けてないか心配してるんだ。こうして出かけるのも渋ってたし」


「心配してるぜ。まあでもそれは無視だ無視。ケイスケの死の真相を掴むほうが大事だからな」


「私の家は逆。スズカは動いてないと落ち込むからどんどん動けって言われた」


「スズカさんはそんなタイプかもね」


 ヒロトはようやく笑顔を見せた。ふと思い出したことがあって尋ねてみる。


「そうだ、ヒロトは夜中の二時にケイスケが行動したのって遅すぎると思う?」


「事故だったら遅い時間だなって思うけど、殺されたのならみんなが寝静まるの待つだろうから普通だなって思うよ。僕も緊張してたせいか、寝たのたぶん夜中の一時くらいだし」







「あたしは性格が悪いんだよ」


 サキが切り出した。サキの中学校に近い公園のベンチで話している。寒いため、公園を利用している人は他にいない。全員手にはタクが買ってきたコーラを持っている。


「ケイスケが死んだのは悲しいし、二人が真相を知ろうとしているのもわかった。けど、あたしが心配してるのは『Sランクになれるか』なんだ。だから警察署に移動しているときも高国の結果がどうなっちゃうんだろうってそればっかり考えてて」


「それはわかるよ。私も心配だし」


「あたしの家はマジで安いドラマみたいな感じでさ、父親が借金を残して行方不明になったんだ。で、母親とお兄ちゃんが働いてるんだけど「サキは頭いいんだから大学行け」って応援してくれてるんだよね。で、少しでも楽させたくてさ、ほら、Sランクになればあたしの分の税金が一番安くなるから。それに就職でも有利になるし。だからどうしてもSランクになりたかったんだ」


 サキがコーラを一口飲んで話を続ける。私がサキに抱いていた印象。それは何となく壁を作っていたような感じ。その理由がわかったような気がした。


「だからその、友情って感じではなくてSランクになれないかもしれないって意味でケイスケを殺したやつは許せない。ホント私って性格悪いよね」


「殺されたって思うの?」


「思うよ、ケイスケはちょっとうっかりなところもあったけど、大事な部分は引き締めているやつだったと思う。あたしの予想だと犯人はBチームの誰かって感じ。理由はないけど、リーダーっぽい髪の長い女子が何度か目が合ったし気になったな」


「じゃあさ、サキはケイスケが夜中の二時に行動したのって遅すぎると思う?」


「あたしが犯人ならちょうどいい時間ってイメージね。夜中の十二時じゃあまだまだ起きてる人がいるだろうし、四時とかになったら早起きの人がいるかもしれないし。あと結果的に翌日は中止になっちゃったけど、二時よりも遅くして次の日眠そうにしてたら怪しまれる可能性もあるもんね」

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