28.芝原スズカ その10

「はい?」


 私は事態が飲み込めずにいた。川口アンジュはわざわざケイスケのいるところに潜り込んだ。一方的にだがケイスケを恨んでいた可能性もある。


 なのに、犯人はBチームにいないって?


「ちょっと待って!」


 私はテーブルの上に余っていた紙ナプキンを丸めて握り込む。


「紙ナプキンが入っているのは右手か左手か?」


「右手」


 正解だ。机の下で丸めた紙ナプキンをもう一度握る。


「もう一回。どっちに入ってる?」


「疑ってんのか。左手」


 またしても正解。


「じゃあじゃあ、私はA型でしょうか、O型でしょうか?」


「落ち着けよ」


「いいから答えてよ」


「O型」


 またしても正解だ。タクの能力が本物であることは疑いようもない。




「やっぱり、事故……なの、かな」


 私はタクに偉そうな説教をしてしまった。ケイスケに自殺や事故はありえないって。今この瞬間、真相に近付いたと思って語ったことが崩れていくような気がした。私はケイスケを失った悲しみを、誰かにぶつけたかっただけかもしれないとさえ思えた。


「違うぜ。あ、今のは発動してないからな。真相についての質問は『ケイスケを殺したのはBチームではない』ということでおしまいだ。俺が言いたいのは」


 少し間を置いて吐き出す。


「やっぱりケイスケは殺されたってことだ」


「え? なんで?」


「いいか。俺の能力は同じテーマでない二択なら発動するんだよ。スズカが俺に質問したのは『ケイスケを殺した犯人はBチームにいる?』だ、わかるか。答えはいるのイエスか、いないのノーだ。もし、自殺や事故なら二択にはならねえ。そもそも俺の能力が発動することすらないってことだ。だから喜ぶのは不謹慎だが、ケイスケが殺されたってことはむしろ確定事項になった」

 



 はっとした。言われてみればその通りだ。三択以上のときは発動しないって話だった。私はタクに尋ねる。


「私もタクも嘘をついていない?」


「証明のしようがない質問しても意味ないだろ。だがまあ発動してる、俺たち二人とも嘘をついてない」




 よくわからないけど、タクのことは信用できる。そんなことよりも。


「そんなことより大変なことになっちゃったね」


「ああ」


「犯人は、Aチームか先生たち運営の中にいるってこと、だよね」


「俺とスズカを除けば6人。大岩先生、高田さん、美江寺さん。でもこの三人は申し訳ないけどネクスト能力を持っている世代じゃあない。外していいと思う。可能性がゼロではないから完全に候補から消す必要はないけど、後回しで」


「ってことは、アヤナ、サキ、あとひとりええっと、ヒロトか。この三人の中に犯人がいるってこと? 無理無理。そんなこと考えたくもない!」


 あんなに仲良く話していたメンバーに犯人がいるってこと? 私には信じられない。先生やバイトの女子大生に犯人がいた方がまだ安心できるレベルだ。


 でも……。


 少なくとも一緒に過ごした誰かがケイスケを殺したんだよね。Bチームじゃあないなら動機も不明。


 この事件をさらに追求するのは少し辛いけど、ケイスケは命を失っているんだ。誰であろうと許せるはずはない。


「ねえ、タク」


「大丈夫だ、俺は犯人が誰でも諦めるつもりはねえ。ケイスケの命を奪ってのうのうと暮らしていいわけがないんだ」


「そしたら、ひとりずつ話を聞いていくのが一番だよね。もうタクの能力で誰がネクスト能力を持っているかとか、犯人とかわからないでしょ?」


「コテージにいたメンバーの誰が隠れネクストかまでは無理だろうし、犯人はもちろんこれ以上突っ込んで調べることはできないな。ひとりずつ会うのは賛成だ。人数が多いと聞きづらい話題も結構ありそうだし」


「幸いって言っていいかわからないけど、三人の連絡先はわかってるからひとりずつ順番に話をしていこうか。問題は私たち二人とその子で会うか、一対一で会うか」


「悩むところだな、誰が犯人でもその場で襲ってくるなんてことはないだろうけど」


「念のため二人で行った方がいいね。安全のためとも言えるけど」




 こうして私とタクは、アヤナ、サキ、ヒロトと会って話をすることにした。


 まるで探偵みたいだと思ったけど、本気だ。必ず犯人を見つける。



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