27.芝原スズカ その9

「じゃあ、もう少し話し合おうか。まだ時間ある?」


 タクに問いかける。




 何かをしていないとまた泣いてしまうから。




 宿泊入試の初日まではこんなことになるなんて思いもしなかった。みんなでSランクになって、高校生になってからも連絡取り合って、ときどきみんなで会ってお茶したり遊んだりするかもなあ、とか考えていた。


 よりにもよってなぜケイスケが。私はケイスケと二度しか会っていない。それなのにどうしてこうも苦しいのか。悲しませるのか。


 何よりなぜ死ななければならなかったのか。


 真相を知りたい。




 ひとしきり泣いた後、そのことばかり考えていた。自殺、事故、どちらもピンとこない。ケイスケからは高国のプレッシャーを全く感じなかった。特別な一日と思っていなかったような印象を受けた。


 彼にとって高国は何だったのだろう。一生懸命取り組んでいたが、どちらかというとゲームを楽しんでいるかのような、そんな軽いものだったように思える。


「ああ、大丈夫」


「タクの考えはどうなの?」


「俺か……。そうだな、事故だって思い込みたいところだけど、俺も殺された可能性が高いと思ってる。ただ、ケイスケに恨みを持つ人があの場にいたってのは考えにくいな。外部からの侵入もなかったらしいから、遠くから操られない限りは内部に犯人がいるってことになる。一緒にお泊りしてたとか思うと怖えけどな」


「外部の犯人が遠くから操った可能性もあるんだね」


「でもその心配はしなくていいと思う。わざわざ宿泊入試の最中にやる意味がない。スズカも言ってたけど、もともと恨みがあるなら地元で殺すのが犯人にとっては安全だし」


「ということはBチームの隠れネクストが犯人って仮説でいっていいかな」


「いいんじゃあねえの。俺たちのチームや先生たちにはケイスケを殺す理由なんてないだろうから。それよりも問題は」


「Bチームの誰かってことよね。向こうの連絡先なんて誰も知らないし、それ以上に接点がほとんどなくて覚えてないんだけど……あ!」


 何を言っているんだ私は! 何で忘れてた!


 ひとりいるじゃあないか!


 ケイスケをしょっちゅう睨んでいたやつが。




「川口、アンジュ」


「いたな、そんな名前の子。確か髪の長い幼そうな女子だった」


「そう。あの子、ケイスケのことよく睨んでて。最初は私がうるさかったからだと思っていたけど、そうじゃなかった! ケイスケを知っていたんだ! 待って……、やっぱりだ」


「知っていた? おかしくねえか、恨みを持つやつはいないってさっき話したばっかだぞ」


「確かに話したわ。でも思い出したの。レクリエーションの時間にアンジュと少しだけ会話したんだけど、そのときに聞き慣れない中学校を言っていたわ。調べたら、これよ」


 私は自分のスマホをタクに見せる。私立中学校だ。しかもこの辺りからだと三時間はかかる距離だ。チームは地域ごとに決まる。これだけ離れていたら同じチームになるはずがない。


「だいぶ遠くの私立だな。ということは、わざわざ受験会場変更同意書を出したか」


「あるいは不正をしたかってところね。タク、聞きたいんだけど、川口アンジュが不正をしたかどうかとケイスケの死の真相、これはタクの中で同じテーマになる?」


「いや、全然違うな。入試の決まりと殺人が同列になるわけないだろ」


「りょーかいっ! よし、質問内容は大体決まったよ。ネクスト能力発動してもらえる?」


「わかった。じゃあ行くぞ」


 タクは目を閉じて集中する。やっぱ発動のさせ方ってみんな似てるなあ、とどうでもいいことを思いながら呆けているとタクがこっちを見て言った。


「いいぜ。質問は?」




 よし、まずはひとつ目の質問だ。


「私とタク以外、あの場所に隠れネクストはいた?」


「大丈夫だ、発動してる。答えはイエス」


 やっぱり! 私たち以外にもネクスト能力を持っている人がいたんだ。殺人であればネクスト能力を使った線が凄く強くなった。


「次の質問。川口アンジュが私たちと一緒のコテージになったのは人為的な何かをしたから?」


「これも発動している。答えはイエスだ」


 同じく予想通り。川口アンジュはケイスケに何らかの因縁があって近付いたんだ。不正かどうかはともかく、何かしらの工作をして私たちのコテージのメンバーになったことは確定した。


 これでネクスト能力についても、川口アンジュについても聞けなくなった。でも平気だ。次の質問ですべてが決まる。川口アンジュについては聞けないから遠回しになってしまうけど心配はいらないだろう。


「ケイスケを殺した犯人は、Bチームにいる?」


「……」


「あれ? どうしたの?」


「うそだろ……」


 タクの顔が歪む。え、もしかして。


「もしかして、発動してない?」


 そうなると、自殺か事故になる。うそ? ケイスケが自殺するはずない。真っ暗な崖に不用心に近付くはずなんてない。


「スズカ、違う、しっかり発動してるぜ……そうじゃあなくて」


「どういうこと?」




 タクが答える。


「嘘は言えないっつったよな。答えは、ノー。Bチームに犯人はいねえ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る