26.前橋タク その8

 俺は駅前のファストフード店でコーヒーを飲んでいた。ヒロトが淹れてくれた味とは違って、苦味が強すぎる。こんなことならコーラにすればよかったな。


「ごめんタク、お待たせ。なんか新しいハンバーガー出ててさ、気になったから買ってきた」


 スズカが正面の席に座る。それから新作のハンバーガーを渡してくれた。協力してくれることと、わざわざスズカの最寄り駅まで来てくれたお礼らしい。ありがたく受け取る。


 きな粉餅バーガー。斬新だ。




「スズカは落ち着いたのか」


「うん、まあ何て言うんだろ。平気じゃあないけど行動しなくちゃって感じかな。それより協力してくれてありがと」


「正直言うと、俺も知りたかったからな。ただ、その、俺が悪いんだけどさ、入試が気になって深入りしたくなかったっていうか……」


 言い淀む俺に、きな粉餅バーガーを食べながらスズカが答える。


「わかるよ。受験生ならその気持ちみんな持ってる。タクは悪くないでしょ」


「そうかな、ありがとう」


「ううん、私こそありがとう。協力してくれるって連絡くれたとき、ホント嬉しかった」


 一晩寝ると、意外なほど身体に活力が漲っていた。俺は何を迷っていたのか。高国がどういう結果になろうとも、あれだけ力を尽くしてくれたケイスケに失礼なマネだけはするまいと思い直す。


 そのままスズカに連絡を取り、今日こうして会っている。


「で、ケイスケが死んだ真相ってどうやって調べるつもりなんだ?」


「いくつか考えてるけど、タク次第かな」


「俺次第?」


 ハンバーガーをあっという間に平らげたスズカが手のひらを俺に向ける。




「まず、私の考えを言っていい? うすうす気づいていると思うけど、私はケイスケが殺されたと思っているの。私たち以外の隠れネクストに」


「だよな、そうだと思った」


 当然の意見だ。ケイスケの転落が事故でないとすれば自殺か殺人。前日に接していた感じでは自殺するようには見えない。もちろん人は色々な悩みを抱えてるんだろうから、心の中まではわからない。しかし今回はケイスケが一生懸命課題に取り組んでいたことを信じて、自殺に関しては却下する。


 そうなると殺人の可能性が出てきてしまう。


 カメラの映像を見る限り、ケイスケは自ら歩いて崖まで行っている。人を操るネクスト能力があれば説明がつく。というより、ネクスト能力以外の説明がつかない。あのコテージに俺とスズカではない「隠れネクスト」がいたということだ。


 だが、こっちも疑問がある。ケイスケが人から恨まれることがあったのか。動機は何なのか。


「殺人だと仮定して、疑問になってくるのが誰がケイスケを殺したかってことなんだけど、私が考えたのは二つ。ひとつはもともと恨みがあって、高国の機会に恨みを晴らしたパターン。でもこの確率は少ないと思うの。宿泊入試にカメラがあるのなんて常識だし、容疑者も絞られちゃうから」


「なるほどな。そりゃそうか」


「もうひとつが私の考え。ケイスケの実力に驚いたBチームの誰かってパターン。タク知ってる? チーム戦で発表し合ったあと、最終結果でS、A、Bのどれかのランクになるでしょ。あれって片方のチームからSランクが出た場合、もう片方のチームからはほとんどSランクを出さないんだって」


「あ!」


 もちろん知っている。俺は誰より入試システムを調べたからな。


 今までひとつのチームから3名のSランクが選ばれることはあっても、両方のチームからSランクが選ばれたことはほぼないらしい。俺の知る限り、過去五年間の高国で1人だけだったはず。それなら相手チームの犯人が「Sランクは無理だ」と判断したのも頷ける。


「高校入学及び国家認定クラス選抜試験に関する法律」のどこにも書かれていない内容。むしろ両方のチームから選ばれる可能性はあると書かれている。だが、法律をわざわざ調べる受験生は俺くらいだろう。大人にもいるかどうか怪しいもんだ。


「だから、Sランクになるためにケイスケを、ってことか」


「これ以外私には考えられないの。で、前聞いたことだけど、タクのネクスト能力は犯人を調べるのに使えそう?」


「めっちゃ限定されるけど、使えるな」


「マジ!?」


 喜んでいるというよりはほっとした顔だ。しかし。


「いやあんまり期待されても困るから。多少は役に立つ程度だからな」


 一息つく。覚悟を決める。


 自分の能力を話すことはリスクだ。


 確かに「特化型入試」でネクスト能力を晒す人もいる。それもひとつの手段だろう。大した能力じゃあない場合や、どうせ能力を明かすなら1人も100人も一緒だって考える場合はアリかもしれない。


 俺の能力は珍しい上、やろうと思えば金儲けもできる。だから誰にも話すつもりはなかった。だが、ケイスケの死の真相を掴むためなら伝えようじゃあないか。それにスズカは信用できる。


「俺のは『パーフェクトチョイス』って言って、二択なら絶対当てられる能力だ」


「うえええ! めっちゃ凄い! それならもう一気に解決マシーンじゃん!」


「待て待て。そこまで便利じゃあない。あと声がでけえ」


「あ……ごめん」


「いいか、俺の『パーフェクトチョイス』はいくつかの条件があるんだ。まず一日十五分しか使えない。それと、三択以上だとただの勘になっちまう。入試の四択問題五択問題では使い物になんねえ。さらに困ったことに俺が「同じテーマの質問だ」と認識した場合は発動しねえ。当たり前だけど答えがない問題も発動することはないね」


「ということは、1人ずつ犯人を挙げていくって方法は使えない?」


「そういうこと。ケイスケの死に関わる質問はひとつだけしかできない。真相には近付けるかもしれないけど、辿り着くことはできないってわけだな」


「強力な能力だもん、しょうがないよ。それよりさ、能力が発動しているかどうかってタクは自分でわかるの?」


「わかるに決まってるだろ。二択で、初めてのテーマなら必ず正解する。正解がわかるときは俺の脳がいつもより熱くなるんだぜ。それにちょっと個人的には厄介なんだが、発動した場合『嘘』が付けねえ。口が勝手に正解を喋っちまうんだ。逆に三択とか同じテーマの質問だったら何にもならないって感じだな」


「なーるほどねえ」


 スズカは腕を組んで考え込んだ。

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