15.芝原スズカ その5

「しゅばっ、し、芝原スズカです! よろしくお願いします!」


 いきなり噛んだ。自分の名前なのに。




 そう、私は面接を受けている。論文をちょうど半分くらい書き上げたときに呼ばれた。文章系も得意なので論文は問題ないだろう。




 面接も得意だ。




 本当だ。


 生徒会長だったわけだし、人前で話すのにそれほど抵抗はない。アナウンサー試験ではないわけだから、噛んだくらいで減点されることもない。


 幸先が良くないと思っただけだ。面接官は紺のスーツを着た白髪の混じっているおじさんひとりだが、無表情。彼にとってはあるあるなのだろう。


 いや、正確にはもうひとり面接官がいる。


 AIだ。面接は人間ひとりとAIで行うことになっている。面接官が持つ生の判断と、AIによるデータからの判断で点数を決めるらしい。




 とにかく続きに全力投球だ。回答マシーンだ。




「中学時代最も思い出に残っていることを教えてください」


「はい! 思い出に残っていることは体育祭です。私は生徒会で生徒会長を務めました。生徒会の他のメンバーや先生たちと相談して、体育祭で仮装リレーやクラス旗の人気投票などを採用し、みんなや保護者の方から好評を得たことが嬉しかったので印象に残っています」


 定番の内容は問題ない。




「将来の夢や希望を教えてください」


「はい! 私は将来、物を書く仕事に携わりたいと思っています。物を書くことが好きで、記述式問題が得意だからです。職業としては記者や小説家、脚本家、ジャーナリストなど色々ありますが、まだ決まってはいません。高校生活でこれらの職業をもっと掘り下げて、自分がやりたいことを見つけたいと思います」


 これもよくある質問。


 答え方は最初に「はい!」と返事をして、結論を言う。そのあとに理由を答えていくスタイルがいい。聞く側としてはわかりやすい。




「あなたは国家認定クラスのどのランクを目標にしていますか?」


「はい! 私は『雪』クラス最上位のSランクを目指しています。同じ文章を書く上でも、雪の最上位Sランクの人と月の最上位であるCランクの人とでは、内容も説得力も変わってくると思います。多くの人の心を動かせるようになりたいのでSランクを目指しています」


「最近のニュースで気になる記事と、それについてどう思うか教えてください」


「はい、パンダの三つ子が産まれたニュースです。これまで三つ子が確認されたのは中国で一例だけだったらしいのですが、ついに自分の国でも三つ子が誕生して感動しています。元気に育ってほしいと思います」


「宇宙の外側はどうなっていると思いますか?」




 きた!


 ときどき脈絡のない質問をされるというやつだ。本当にどうなっているかではなく、どう考えるか、諦めずにある程度納得できる答えを出せるかが問われる。




「はい、私は宇宙が繋がっていて、外側というよりは反対側に繋がっていると思います。つまり、このままずっと直進していけば、宇宙の反対側に出てきて、最終的には今自分がいる位置に戻ってくると考えています」


 繋がるって言葉二回言っちゃった。けどまあ何となく意味は通じるだろう。


「それは宇宙も丸いということでしょうか?」


「はい、大きすぎて気づかないだけで、私は丸いと考えています」


「ということは真上に直進しても下から戻ってくることになるかな? でも宇宙が丸かったら下からは戻ってこないよね」




 ここで突っ込んでくるの!? かなり驚いた。普通はがんばってきたことや、これからやりたいことについて突っ込んでくるはず。それを誰もまだ証明できないような話題で攻めてくるとは。


 もちろん私にこれ以上のことはわからない。そもそも丸いかどうかも知らない。どうにか辻褄を合わせたかったが思い浮かばなかったので、素直に退くことにした。


「たしかにその通りです。高校で天体についてもっと勉強して、知識を広げたいと思います」




 途端に面接官のおじさんは満足そうな笑みを浮かべた。これは正しかったのかな? わからないことを素直に認めるのも大事なことって聞いたけど、それを試す質問だったのかもしれない。




 そのあとはやはり定番の質問が三つと、自己PRを話して私の面接は終了した。


 自己PRは二つくらいをピックアップして簡潔にアピールし、最後に「よろしくお願いいたします」で終わらせる。


 すると評価が高くなりやすいことを学んでいたので、うまくできたとは思う。AIの判断はわからないけど、おじさんのリアクションは良かったように感じる。




 手応えを感じにくいものの、面接官のおじさんはいい反応だった。


 第二次選抜、結果が楽しみだ。胸を張って出口へと歩き出す。




「あのーー」


 廊下で気の弱そうな女子高生が私に話しかけてくる。高校生ってことは入試のお手伝いをしているのか。偉いな、私もみんなの役に立てる高校生になろう。




 私はなるべく元気に答える。


「はい! なんでしょうか!」


「教室で小論文の続きがありますけれども」




 ですよねーー。

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