14.前橋タク その5

 これほどまでに幸運が重なってもいいのか!


 俺ってひょっとして「持ってる男」?




 小論文を見たとき、自分のために問題を作ってくれているとまで思っちまった。受験勉強期間が短かった分、誰よりも入試システムや出題傾向は掘り下げたつもりだ。




 で、出題されたのがこれだ。




「『高校入学及び国家認定クラス選抜試験』における在宅受験について自由に論じなさい。ただし、原稿用紙の使い方に留意し、1000字から1200字以内に書くこと」




 悪いけど滅茶苦茶詳しいぜ、俺は。


 在宅でも受験できる制度だ。ただこの制度、利用率は多い年でも15%で、通常は9%くらいの受験者しかない。


 なぜか。




 まず第一に費用が高え。360度カメラや集音機、ペンタブなどの周辺機器を用意しなきゃならない。それなりのものを買ったら十万円は越えちまう。まあ補助金で半額までは出るらしいから、一概に悪いことじゃあねえけどな。




 第二に設定がめんどくさい。専用のアプリを使うんだが、自宅のパソコンに入れて、それを設定して、周辺機器ともペアリングさせる。機械音痴なやつは最初からやる気にもならないだろう。




 第三にカンニングなどの判定がシビア。画面に自分を映さなくちゃいけないし、目や耳を隠してもいけない。

 専用のアプリは目線や音などをAIで判別するらしく、違う方向を向いていたり、変な音が聞こえたりするとアラートが鳴る仕組みだ。何回か鳴らされるとその科目が失格になるらしい。

 これ、どれくらいの判断をするのかわかんねえけど、結構きついよな。




 最後に、全部が在宅受験にならないところ。しょうがねえとは思うよ。第一次選抜の実技教科は対象外だ。美術、音楽、体育、技術、家庭科、常識問題、あと第三次選抜もだな。これらは会場で受験しなきゃならない。




 結局全部を自宅で受けることはできないわけ。


 そりゃあ、在宅受験する人なんて限られるよな。




 じゃあ反対に在宅受験をなくしてもいいかって言うと、そんなことはない。必要だ。




 理由はいくつかある。まずは怪我や病気の場合だ。足を骨折したとか、出席停止の疾病を患ったとかのケースだと、自宅で受験した方がいい。まあ当たり前だわな。




 その他にも受験会場から遠い場所に住んでいたら、移動はなるべく少ない方がいいに決まっている。こういうケースも在宅はアリだ。受験会場まで連絡船に乗らなきゃならないような受験生もいるらしいし、必要だ。




 あとは外出が制限されている状態。治安が悪化した、災害が起きた、伝染病が拡大している、それから戦争。考えだしたらキリがないものの、非常事態に対応する手段として持っておくべきだ。


 かなり昔のことだが、病気に関しては実際に外出を制限するまでになったらしい。


 ならば高国の円滑な運営のためにも廃止するわけにはいかない。続けるべきだ。


 また、在宅受験者が増えすぎてもいけない。あくまでも非常用の手段としてネットの回線や電子機器に余裕を持たせておくべきだ。




 と、俺はこれくらいまでは知っている。もっと細かく説明できるけど、今回のテーマなら不要だろう。


 情報はときにお金以上の価値を生むって誰が言ってたか忘れたけど、まさにその通りだ。あとはこの情報を小論文の形にまとめればいい。




 書き方としては「客観的だけど自分の意見をしっかり述べる」こと、「観結反論情結(かんけつはんろんじょうけつ)を守る」ことが大事だ。




「観結反論情結(かんけつはんろんじょうけつ)」は俺が勝手に作った。


 俺には「序論本論結論」とか言われてるやつがよく理解できなかったから、自分流に変えただけだ。




 説明すると、序論の部分が「観」と「結」で、これは「観点」と「結論」のこと。


 これで出だしは楽勝なんだぜ。あとで肉付けをして文字数は増えていくことになるが、具体的に書くとこうなる。


「非常事態への対応という観点から、在宅受験はこのまま継続していくべきである」


 本当に「観点」って言葉を入れてスタートさせる。さらにすぐ後には結論を書いちまえばオッケー。完璧ではないものの、確実に及第点は越える。




 次は本論。「反」と「論」で、これは「反対意見」と「論破」の略。ここはちょっと文章的に長くなる部分で、まずは反対意見を書く。そしてそのあとの文で論破していくというスタイル。リアルな話本当に論破する必要はなくて、中学生レベルの「なんとなく論破」でいい。


「在宅受験は費用がかかるという意見がある。確かに360度カメラに集音機、ペンタブレットなどを購入すると十万円を越える。しかし政府はこれらの機器の購入に最大半額までの補助金を出している。反対に解釈すれば、周辺機器を半額で買うことができるのである。受験を抜きにしてもかなり格安で手に入れられると考えれば、良い機会だと言える。さらに受験生が急病、突然の怪我等の対処としても有効だ。受験できなくなるリスクに比べれば決して高い買い物ではない」


 このように反対意見を出して、それを崩していくような形だ。




 最後に「情」と「結」。「情報」と「結論」だ。


「政府は新たな病気が流行した際、一ヶ月を越える外出自粛を呼びかけたことがある。その期間は試験が中止、または延期となった。また、二年前の大地震では被災した地域において81%の受験生が在宅受験を選んだ。また受験生自身が病気や怪我をした場合の対策としても効果的である。このように、非常事態における受験手段は確保しておかねばならない。したがって在宅受験は継続していくべきである」


 このように結ぶ。文字通り「結」の部分は最初と同じ内容でいい。いや違うな、同じ内容の方がいいくらいだ。

 




 準備完了! あとは書くだけだ。


 第二次選抜ももらったな。

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