11.それぞれの結果

 十日後の二月九日。合格発表日。この日、一部を除いて進学先の高校が決定する。


 なお、特化型入試に合格した生徒、中高一貫校に通っている生徒はすでに進学先が決定している。また、いくつかの超難関校や特殊な学校などは別だ。二日前に高校独自の試験を追加実施したため、合格発表が二日程ずれる。


 いずれにせよ、高国の成績は本日発表されるため、受験生は期待と不安をかき混ぜたような精神状態でネットの画面を開くのだ。




 前橋タクの自室。


「くおおーー! あとちょっとだったのに!」


 モニター上部には「第一志望 合格」の文字がある。タク本人も合格は当然だと考えていたようだ。実際にタクが見ているのは下の方だった。


 国語 64点

 数学 78点

 社会 90点

 理科 78点

 英語 82点

 リスニング 42点

 常識 88点

 技術 81点

 美術 91点

 合計点 694点

 第二次選抜 可


 リスニングのみ満点が50点で、他は100点満点である。目標の700点越えは果たせなかったものの、過去最高の点数だった。「第二次選抜 可」とあるので、第二次選抜へも余裕をもって進むことができる。


 タクは悔しそうな表情を浮かべながら家族へ報告するために部屋を出て行った。




 弓削ヒナコの家。


「ママーー! 受かった受かったーー!」


 ヒナコがキッチンを掃除している母の元へ駆け寄る。母親は手を止め、ヒナコの持つタブレットを覗き込みながら返す。


「ほんとに!? 見せてヒナ、どれどれ?」


 画面に「第一志望 合格」の表記。母親はまず安堵し、改めてヒナコを褒める。自分の目で確かめないと気が済まないタイプだ。そのまま下へスクロールする。


 国語 43点

 数学 32点

 社会 58点

 理科 42点

 英語 40点

 リスニング 20点

 常識 65点

 体育 80点

 家庭科 76点

 合計点 466点

 第二次選抜 不可


 我が子は勉強が得意ではない。しかも入試制度が大きく変わって、科目も増え、より受験生の負担が増えたと思っていた。見れば体育と家庭科でかなり稼いでいる。この制度は娘にとってよかったかもしれない。


「でもやっぱり第二次選抜には行けなかったみたい」


 ヒナコが言う。しかし母親にしてみればそこはさほど期待していなかった部分だ。


「それは気にしなくていいんじゃない? 志望校は受かったんだし。ヒナ、受験お疲れ様」




 川口アンジュ。


「内部進学のため合否判定不要」

 国語 90点

 数学 100点

 社会 100点

 理科 94点

 英語 95点

 リスニング 48点

 常識 96点

 音楽 95点

 体育 90点

 合計点 808点

 第二次選抜 可


「凄いじゃないか、100点が二つもあるとは。第二次選抜へも行けるな、よかったよかった」


 父親がアンジュを褒める。当のアンジュはほっとした表情をしてはいるがにこりともしない。


「第二次選抜へは合計点が大体平均を越えていれば誰でも進めるんだよ、パパ。半分の人は行けるんだから」


「ああ、そうだったのか、知らなかったよ」


「それよりもパパ」


 画面を見つめたまま、父親と目を合わさずにアンジュは話す。


「わかってるよ、第三次選抜のときのことだろ。任せておきなさい」


 父親が落ち着いた様子で返すと、アンジュはようやく笑顔を見せた。




 スズカ、自宅のリビング。


「うおおお、緊張するーー」


「いいから早く押しなさい、ママが押しちゃうよ?」


「ダメダメダメダメ! わかった、押すから!」


 パソコンのモニターを前に問答するスズカと母親。意を決してスズカが「結果」のボタンをクリックする。


「第一志望 合格」

 国語 98点

 数学 88点

 社会 92点

 理科 97点

 英語 76点

 リスニング 38点

 常識 100点

 音楽 79点

 体育 82点

 合計点 750点

 第二次選抜 可


「合格! よかったあ~~」


 スズカは力が抜け、床に座り込む。地域で一番偏差値の高い高校を第一志望にしていたため、英語のミスが命取りになるかと思っていたのだ。


「スズカおめでとう! 早速お父さんにも連絡しておくね。あ、スズカから連絡する?」


 思ったよりもあっさりとした母親の反応だが、娘を信じていたが故のことだ。スズカは立ち上がるとスマートフォンをポケットから取り出す。


「私から連絡しておくよ、『今日は焼肉ね』って」


「あら、いいわね。じゃあお母さんは駅前の高級な焼肉屋を予約しとこうかしら」


「しとこうしとこう! やったー!」




 ケイスケの家。弟の部屋。


「あれ、兄ちゃん今日は合格発表じゃないの? どうなったの?」


 部屋に入ってきたケイスケを見ずにゲームをしながら話す弟。


「うん、大丈夫、受かってたよ。そんなことよりキョウジ、ゲームで勝負しようよ」


「勝負はいいけど、父さんと母さんには連絡しなくていいの?」


「もうしたよ。いいからゲームゲーム。今日は五回勝負にしよう」


「はやっ! わかった、五回勝負ね。ゲームは兄ちゃんが選んでいいよ」


 キョウジもそれほど受験に興味がないのがすぐ切り替える。二人でゲームの世界に没頭していった。




 ケイスケの部屋にあるノートパソコンには合格発表のページが映し出されていた。


「第一志望 合格」

 国語 100点

 数学 98点

 社会 100点

 理科 100点

 英語 99点

 リスニング 48点

 常識 100点

 技術 98点

 家庭科 100点

 合計点 843点

 第二次選抜 可

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