10.前橋タク その4

 高国の二日目は、時間の使い方が重要だ。間違うと集中力が切れることもあるからな。


 まず最初は「常識問題」を終えた。今回も難しくなかったし、肩慣らしにちょうどいいって感じだ。




 さあこっからが本番。


 次の時間は人それぞれ異なる選択問題だ。この会場は「美術」を選択した受験生が集まっている。だからそのまま美術の入試問題をやる。


 で、午前の入試は終了。


 試験時間は五十分で他の科目と同じだ。長いわけじゃない。


 この会場は常識問題を除けば「美術」と「体育」と「音楽」しか受験できない。午前に「常識」と「美術」の二科目、午後に「体育」と「音楽」の二科目。


 つまり技術を選択している俺は、午前の美術が終わったら別の会場に移動しなければいけないってことだ。正直めんどくせえ。




 そう、移動時間や待ち時間が発生する。例えばこの会場で言うと、美術と体育選択ならば昼食を軽めに食べて体育の試験に向けてストレッチとかしてればいい。でも、美術と音楽だったら? 体育入試の時間に空き時間ができちゃうよな。ここで気を緩めると眠くなったり集中力が切れたりする。


 だからきちんと『待ち時間を補えるもの』を準備しておかなきゃダメだ。




 俺のパターンは逆だ。


 移動時間ができてしまう。近場の会場へ案内されるから、三十分程度で着くけどな。たた、移動先の科目順は午前が「家庭科」、午後に「技術」「体育」となっている。技術は午後一番なので、移動したらすぐに試験の準備が必要になる。


 この場合は授業を録音しておいて聞きながら移動をすると無駄がない。そのために美術はテキストとノートを、技術は講義をスマホに録音して用意してきた。




 やれることはすべてやる。


 よく言われることだが、人がやっているよりさらに一歩踏み込んでやるのが努力のコツだ。




 状況によって時間をうまく使える準備をしておくべきってことだな。




 試験官が教室に入ってきた。美術の入試問題を配布し、開始の合図をする。


 問題をめくり、ざっと目を通す。問題は三題あり、例年通りだ。




 文字をフォントに従って描くレタリング問題。


 今年は明朝体というメジャーなフォントで「城」という字を描くのか。楽勝だな。俺はどちらかというと自然物よりも人工物の方が得意なこともあり、かなりのスピードで終わらせた。




 次は自分の手を描くデッサン問題。


 ほぼすべての中学生が一度はやるアレだ。手の形に指定があって、今年は……なんというか、影絵のきつねみたいなやつだ。描きづらいけど、練習していたこともあってなかなかの仕上がりだ。


 


 最後は持参した色ペンで描くポスター自由作成問題。


 今回は「新作の板チョコ200円」を宣伝するポスター。販売用のポスターとは珍しい。初の出題だろ。さんざん苦心したがイエローとマゼンタを基調としたインパクト重視のポスターが完成した。




 全体的に満足のいく出来だ。結果が楽しみだな。




 美術のテストが終了すると、俺は荷物をまとめて移動を開始する。午後は技術だ。美術は実技ばかりのテストだが、技術は筆記半分に実技半分だ。実技は今更どうしようもないものの、筆記は録音を聞いて復習しなきゃだからな。


 俺はイヤホンを耳にはめ、会場を後にした。




 技術の講義を聞きながらしばらく歩くと会場に着く。予定よりも五分くらい早い到着だ。


 席に座り、食事をしながらテストの開始を待つ。無論、食事中も講義を聞いている。というかそれしかやることがないんだ。他の移動してきた受験生たちも揃ってきた。さすが入試、二十分前にはほぼ全員が集合している。




 試験官が教室に入り、間もなく開始というとき。


 もう来ないだろうと思ったタイミングでもうひとり入ってきた。男だが、何というか幼いやつだ。髪はさらさらで穏やかそうな表情をしている。こんなギリギリに来るなんて余裕があるのかアホなのか。


 ま、どちらにせよこの科目がラストだ。ここまでの結果で第二次選抜に進めるかが決定する。


 問題が配布される。続けて試験官は厚紙もその上に乗せる。


 開始の合図。




 最初にすべきことは実技だ。問題用紙をめくり、最終ページを見ると図面がある。小さな仕切りのついた箱の設計図だ。これを最初に完成しておくと後で焦らずに済む。


 図面を参考に実際の長さになるよう線を引き、切る。必要な個所を折っていく。必要部分は糊付けする。受験というにはあまりにも単純な工作であるが、慣れていないと必要以上に時間を取られる。


「難易度は高くないけど、時間に追われる」


 美術と技術を選択したときに言われることだ。




 俺にとっちゃどうってことねえけど。手先は器用だからな。


 十五分程度で作成を終えると、次は筆記に取り掛かる。インターネットの問題、工具や材料の問題、セキュリティや安全性の問題が出題されている。


 いくつか自信の持てない難問もあったが、時間内にすべて埋めることができた。




 終了の合図が聞こえる。多少できなかったところもあったが、過去にない達成感を感じる。少なくともトータルの出来は一番なんじゃないかと思えるほどだ。


 全部で850点満点。ここで一度も越えられなかった700点の壁を越えておきたい。




 今は700点を越える予感がする。


 合格発表が楽しみだ。

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