6.前橋タク その2

 英語を終え、本日最後の休憩に入った。残るはリスニング、疲れはあるがここで失速なんてするつもりはない。全力を尽くしてやる。




 本来俺は「高国」を受けない予定だった。それより三ヶ月くらい前に行われた「特化型入試」を受験し、受かるつもりでいたからだ。


 特化型入試は十月の後半に二日かけてやる。初日は筆記や面接試験で、二日目が実技だ。




「高国」は将来像がはっきりしてないが、高校やその先で自分の進む道を探していく人のもの。


「特化型入試」は将来なりたいものが決定していて、その道を極めたいっていう人のものだ。


 要は「この職業で食っていきたい。全国、全世界に通用する人になりたい」と、中学生にして将来の目標をたかーーく設定したやつだけが受ける入試ってことだな。


 これに合格すればその職業専門の教育が受けられる高校へ進学することになる。




 国からの条件は「その分野をさらに研鑽し、全国、全世界に通用する力を身に付ける意志のある者。かつ現在既にその分野において高い技術や能力を身に付けている者」というやつだ。長いけどずっと目標にしてたから覚えちったよ。




 種類は本当にたくさんあった。


 野球、サッカー、バスケ、柔道、水泳みたいなメジャーなものから射撃とかけん玉なんかもスポーツ系にあったな。けん玉はスポーツなのかわからんけど。


 他にも将棋、囲碁、eスポーツみたいな頭脳系、音楽、絵画、書道とかの芸術系、プログラミングや料理、ものづくりとか美容師とか直接仕事になるものまである。




 高校ではそれぞれ専門の講師がいて実践的な授業をしたり、さらに今世界で活躍している人をゲストとして呼んだりするらしい。


 たしか全部で100種類以上あるはず。




 さらに「特化型入試」には特別枠があった。


「次の世代の人類」という意味を込めて名付けられたネクスト。ネクストに覚醒した者に関しては、能力に関わらず無条件で合格だってよ。


 みんな能力違うのに、保護したり研究したり能力のさらなる向上なんかを目指すらしい。どんな感じの高校生活になるんだろうな。




 ネクスト枠なら俺も受かったのになあ。


 ま、個人的な意見としてネクストは公表しないから有効なんだと思う。言っても信頼できる人数名だけだろう。


 そもそも俺はなりたいものがあるから、ネクスト枠は使う気ゼロだったが。




 不合格になったときは落ち込んだけど、職業に就く道がひとつだけなわけじゃない。


 就職で有利になるためには、国家認定クラスの上位になっておいた方が圧倒的にいいから、「高国」も全力でやることに決めたんだ。




 つまり、本格的に受験勉強を始めたのは「特化型入試」の終わった三ヶ月前からってことだな。


 それにしてはよくやってるよな、俺。




そう、『受験は努力』だ。


 だが、がむしゃらに勉強しまくるのは真の意味で努力だとは思わない。だって勉強のやり方が自分に合わなかったら、アホになるってことはないけど、めっちゃ遠回りすることになるじゃん。


 だったら自分に合った勉強方法はどういうものか、受験対策で優先すべきことは何かってのをひたすら調べて、効率を上げるべきだし。


 目標に向かって最短距離を追求していくことが「努力」だって考え。




 特化型入試を受験する前にその考えを持っていりゃあよかった。気づくのがちっと遅かったな。




 よし、気持ちを切り替えろ、俺。


 今は「高国」をやっているんだ。


 まず初日を最高の形で乗り切れ、前橋タク。


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