5.前橋タク その1

「よっしゃーー!」


 俺は叫んだよ、心の中で。


 だって入試の本番中に声を出したらまずいだろ。


 今「高国」の真っ最中だ。科目は英語。ここまでは何とか実力を出せている気がする。




 国語は三割くらい終わらなかったし、数学は難問とパズルは最初から捨てていた。理科も大問ひとつだけやたら難しい問題を選択しちゃったけど、トータルではいつも通りでしょ。


 ちなみに社会はバッチリだ。




 五科目目の英語。これが完璧に当たった。


 ズバリ「二年連続で夢に関する長文読解」が主題されたんだ。これはみんな予想できなかったんじゃねえの? 絶対「やべえやべえ」ってなってるやついるよな。


 寝ているときに見た夢の話なんて、出題する方もする方だけど、読む側も興味ないよな。少なくとも俺は俺は興味ない。


 そういう興味を持ちにくいジャンルだから、逆に狙われる気がしてたんだよねえ、去年の過去問解いたときから。




 対策は十分やった。


 ありえないことが起こりやすいってことはマイナーな単語が出てきやすいってことだ。だから大学入試の単語帳まで使って語彙力増やしたぜ。


 次になんとなくで文を読まないようにする工夫をした。キーになる単語や熟語は当然として、「not」とか「hardly」「neither」みたいな否定を示す語をチェックしながら進める癖も意識的につけた。


 おまけに少しでも速く読めるように、二ヶ月間長文の和訳を毎日続けた。一ヶ月半くらい過ぎたとき、ある日急に自分でも驚くくらいスムーズに読めるようになったのを覚えている。


 おかげで苦手だった英語がまさかの得意科目に昇格。どんな文章が出てもかなり取れるようになった。




「ありがとう! これでみんなに差をつけられる」


 感謝しながら問題を読んでいく。もちろん声には出してない。さすが夢の話、伝わりづらい文章だ。


 でも読める。文章を読めるとうれしくなる。




 読みながら思う。


 ああ、これはみんな大変だな。家具から妖精が出てきちゃってるじゃん。もしかしたら家具のfurnitureも妖精のfairyも読めなかったらオシマイなんじゃね?




 ちなみに固有名詞以外では英文に注釈は一切ない。


「自国の言葉だったら一言くらい聞き逃しても意味わかるでしょ?」


「だから英語も一部がわからなくても推測できるようになってね」


 みたいな方針で問題を作っているってのを聞いたことがある。でもさすがに何の話題かわからなかったら言語に関係なく理解できないよな。




 もうひとつの長文も、会話文も、英作文も普段以上に解けた。


 難易度としては去年よりも難しかったように感じる。二つ目の長文もいつもより長かったし、英作文も今年は八文以上書くことになってた。ここまでずっと五文以上で書けばよかったのに。


 その事実に反して俺は手応えがあった。




 きっと今年も平均点は下がるだろう。英語の先生も「今年はもっと普通の文章になるだろう」って予想してたし、受験生はみんなそう思ってただろうから。


 そんな中で俺だけが高得点。次のリスニングも人並みくらいは取れるし、明日ある二日目の入試へいい流れが作れそうだ。


 俺は他の人よりも受験勉強の期間が短かった。勉強はそれほど苦手じゃなかったものの、武器になる科目は社会しかなかった。それをひたすら努力でカバーしたんだよ。




 まずは全科目基礎を総復習。この段階ではどの科目も本当に簡単なことしかやってない。そういえば英語はその基礎すらところどころ抜けがあって最初結構ショックだったんだよな。


 英語に不安はあったけど、時間がないからすぐに過去問に取り掛かった。




 もっと酷いと予想してた割には点数が取れた。


 英語以外は。


 英語はまずい。


 平均点いかなかった。


 一応学校の定期テストでは、そこまで勉強していなくても英語でも学年TOP30には入れてたから、どんなに悪くても全体で見れば俺よりできないやついっぱいいるでしょ。


 って甘い気持ちでいたのがダメだった。 




 ただ、このまま勉強していてもずっと前から勉強を継続している他の受験生に勝てる気がしなかった。


 もっと効率よく勉強しないとヤバいって思った。




 だからネットで入試システムや勉強のやり方、受験対策の方法をまずは全力で研究した。


 自分にはどんな勉強が合っているのか? 教材は何を使えばいいのか? 入試の傾向は?


 調べるだけ調べ、できることをできる限りやった。おかげで入試システムは先生並みに詳しいし、勉強のやり方も自分に合っているものを見つけられた。




「短期間でよくここまで仕上げたな」


 と、自分で自分を褒めてあげたい。

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