2.芝原スズカ その2

『受験は戦争』だ。


 私はそう思っている。迫りくる問題を敵と見なし倒していく戦い、それが受験だ。


 戦いだからこそ作戦が大切。当然相手の弱いところから攻撃していく。


 私は最初の論説文三つ、次の物語文三つを飛ばし、漢字に奇襲をかけた。まあ一定数の受験生が使う王道だ。まずは読み。




「これ以上『詮索』するのはやめよう」


 最初の敵。簡単だ、答えは『せんさく』。やはり中学でずっと学年一位だった私の相手にならない。残った四問の読み問題も一瞬でやっつける。次は漢字の書きだ。




「会社を辞めて『キギョウ』する」


 これも序盤に出てくる雑魚敵って感じ。問題ない。どうせ『企業』と書かせたいだけの初歩的な引っかけ。『起業』が正解だ。書きも余裕。


 古文と漢文も難なく終え、次は現代文たちとの決戦だ。と言っても高校入試の国語は難易度勝負ではない。難問と呼ばれるものはあっても精々一問か二問。あとは比較的簡単だ。


 そう、国語にボス戦はない。手強くない敵を全滅させればいいのだ。




 時間があれば、の話だけど。




 入試制度が変わって今年で六年目。



 以前の入試に興味はない。だけど「大事だから」と、昔とどう変わったかを先生が教えてくれた。




 英語。


 今のように筆記試験とリスニング試験が分離されていなくて1コマでの実施だったらしい。今ほど英語が重要視されていなかったのかもしれない。リスニングが三十分とやや長いので集中力を保つ必要がある。特に集中に乱れが出る後半のリスニングは難しいので終わるとへとへとになる。




 数学。


 パズルのような問題と実生活で数学を活用するような問題が追加された。あとは簡単な問題から難しい問題までのレベル差がスゴイけど昔もそうだったみたい。難問は数学がめっちゃ得意か、余程対策していないときついだろう。実生活問題は表や文章をしっかり読めば何とかなるが、パズルは正直苦手だ。




 社会。


 昔と比べて自分の考えを書く問題が増えたそうだ。社会科で自分の考えを書くのは得意分野なので、この変化はありがたい。「あなただったらどういう行動をするか」「あなたがこの地域に住んでいたらどんな職業に就きたいか」などを理由付きで書く。採点が大変そうだ。




 理科。


 変化は選択問題になったということ。これが個人的には最も厄介だ。一問一答形式の共通問題にプラスして、生物、物理、化学、地学の各分野の大問がそれぞれ三題ずつ掲載されている。その中から一題ずつ選んで答えていく、というもの。

 意外と難易度に当たり外れがあって、焦って難しい大問を選んでしまうと大コケもあり得る科目だと思っている。




 そして国語。


 最大の変化はボリューム。圧倒的に問題文も問題数も増えたのだ。敵一体一体が強いのではなく数で押してくるイメージになっている。


 丁寧に解いていたら五十分の試験時間では現代文の半分も終わらないだろう。急いでやっても六、七割だ。それ以上早く解くと、今度はいくら難易度が高くないとはいえ、正答率に影響が出る。




 普通の人ならね。




 そう、私は普通じゃない。私には切り札がある。時計を見る。残り時間三十分。ちょうどいい。



 


 自分の脳に意識を集中する。


 五秒ほどで脳が光っているような感覚になる。ネクスト能力の発動だ。どうやらネクストの能力は自分の意志で自由に発動できるタイプと、条件を満たすと自動で発動するタイプがいるらしい。


 私は前者だった。好きなときに発動できるのはありがたい。一日に二回だけ、しかも一回三十分間しか効果は持続しないが、余るくらいだ。




 問題用紙を最初のページに戻す。長文は論説三題に物語三題。全部で20ページを越える。


 最初のページを読む。一秒。


 次のページを読む。一秒。


 ページをめくる。


 次のページを読む。一秒。


 さらに次のページ。一秒。


 またページをめくる。


 次。


 次!


 次!!




 私は計22ページを一分足らずで読み切った。内容もすべて頭に入った。残り時間はすべて問題を解いていく時間に充てられる。


 さあ、文章読解との戦いだ。




「『その仕組み』とはどんな仕組みか。文章中から十八字以内で抜き出せ」


 指示語「その」が何を指しているかの問題。一部の例外を除いて指示語はすでに出たものを指す。つまり敵は「その」よりも前にいることが多い。


 入試の場合、一部の例外である「指示語の後ろに答えがいる」パターンを出題することもあるが、今回はシンプルに前だ。確かに二行前に『親しい相手だと言葉を省略する仕組み』って書いてあった。文字数もクリアしているから間違いない。


 このあとも次々と問題を撃破していく。


 元々国語は得意科目のひとつだ。テスト終了十分前にはすべての問題を解き終えていた。

 



 これが『ネクスト』と呼ばれる人の力。『ネクスト』に覚醒した人たちが持つ力。


 ひとりひとり能力は違うけど、私の能力はこれだ。




 超速読。しかも発動時間内なら内容すべてを記憶していられるナイスな機能付き。


 私はこの能力をこう名付けた。




 『スーパーリーディング』




 ネーミングセンスは私に求めないでほしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る