受・験・戦・記 ~第一次受験戦争:ネクストと呼ばれる特殊能力を持った天才・秀才が合格と国家最高ランクを目指す~

エス

1.芝原スズカ その1

 ついにこの日が来た。


 今日から「高国」が始まる。


 正式名称を「高校入学及び国家認定クラス選抜試験」。




 これは、高校入試と国家認定クラスの両方を兼ねた試験だ。


 昔は「志望する高校すべてに願書を出して、試験当日その学校に受験に行く」というスタイルだったらしい。


 今は「高国」により、志望する高校を五つまで書いて提出するだけで出願が可能だ。全国どこの高校でも出願できるし、入試問題も全国共通。


 楽になったんだな、と実感する。




 まあ、一部ではその高校独自の入試問題を用意しているところもある。ただそれも「高国」と独自入試の両方を加味して合否を決めるもの。


「高国」は私たち中3にとって無視することのできない超重要なイベントだ。




 私は入試の戦場となる教室を見回す。試験会場は志望校に関係なく、近隣にあるいくつかの会場からランダムに決まる。


 ほとんど知らない顔だった。同じ中学の子もいるけど、話したことはない人だ。自分の座席が教室のど真ん中だったこともあり、全体の様子を窺った。


 前方の黒板には本日のスケジュールがプロジェクタによって投影されている。




 国語、数学、社会、昼食、理科、英語、英語リスニングの順だ。


 試験時間は英語リスニングだけが三十分で、あとはすべて五十分。三時半には初日が終わる。これは例年通り。




 周囲に視線を移す。


 いよいよ入試ということで、ほとんどの子たちが緊張した面持ちで机に広げたノートや参考書を凝視している。


 中には何もしていない人もいるけど、そういう人たちはおそらく勉強を諦めた組か、余程自信がある組かのどちらかだろう。


 私も机には筆記用具以外置いていない。もちろん諦めた組ではなく、自信がある組だ。


 最後の一秒まで足掻くなんて往生際が悪い。こういうときはじたばたせず、落ち着いて待つに限る。机の上に余計なものはない。筆記用具だけだ。受験票もない。




 受験票もない?




 あれ?




 うそ?



 

「受験票がない!」


 思わず叫ぶ。


 受験生たちが一斉にこっちを見る。ヤバい、うっかり声に出しちゃった。


 そんなことより探さなければ。バッグを漁るが見当たらない。あ、私のことだから忘れないように制服のポケットに入れたのかもしれない。サイドのポケット、胸のポケットを調べる。


 やっぱりない。


 これは私も諦めた組への入門か? 入門なのか? いやいや試験監督に言えば減点されるけど受けさせてもらえたはず……。


「あのー」


 左隣の席に座っていた男の子が話しかけてきた。何か幼い感じの子だ。髪の毛が男子にしては長めでさらさらだ。背もそれほど高くなさそうで、制服も着ていない。飛び級だろうか。


「今回の入試から監視カメラでの網膜認証だから、受験票はないよ」




 なんということだろう。


 そういえばそうだった。模試とは違って高校入試本番は国家主導で、最新設備を使っているということをすっかり忘れていた。。


 完全に諦めた組っぽい男の「こいつ俺より馬鹿だな」という視線を受けながら、さらさら髪の子にお礼を言って向き直り、ノートを取り出して凝視した。




 やっぱり本番直前は最後の一秒まで足掻くべきだね。




 程なくして試験監督が教室に入ってきた。落ち着いた太めのおじさんだ。最初の科目、国語の冊子を配布し、教卓に陣取る。するとタイミングよく注意事項などが落ち着いた女性の声でアナウンスされる。放送を聞きながら頭を最初の科目である国語に切り替える。私は国語マシーンだ。


 大丈夫、私には切り札がある。




 ひととおり説明を終え、落ち着いた女性の声が響き渡る。


「では試験を始めてください」



 とうとう始まった。私は解答用紙にマイナンバーをマークし、氏名を書く。


『芝原スズカ』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る